星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

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15・会いたくなかった

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オリヴィア2号が、お帰りなさい、と穏やかな笑顔で迎え入れてくれる。私なんだと分かってはいるが、優しくされる何だか嬉しくなる。ベールをしているので表情はわからないが仕草や声色は完璧に私だ。

『なるほどね、まだ昼を過ぎたばかりだから家に行っても余裕ね。あなたの世話をするつもりはないって公言していたから夕刻までは大丈夫よ』

「行っても半刻か一刻ほどしかいられないと思うんだけど…ギルドの方の診療室にも顔を出したと思ってるの。馬で行けばすぐだけど、一番近くの馬車屋まで歩いて行ってとなると、ちょっとかかりそうだものね。」

『あら!やぁねぇ。私にのっていけば良いじゃない!空から行けば近いわよ』

そう言うと、バルコニーに出て、パチンと指を鳴らす。蜃気楼の様なモヤにルビィの体が包まれる。
パチリと瞬きをした瞬間に目の前にいた背の高い麗人は美しい、あの時の竜に変わっていた。
私の身長の倍ほどの中型の竜だ。少しでもバレにくい様にとサイズを調節してくれたらしい。

『これなら四半刻程で家に着くわよ。お駄賃は魔力をくれればいいわよぉ。ほら、誰かに見られる前に早く。飛んでる時は目眩しをするから大丈夫だけど、離陸する時は無理だからちょっと速いわヨォ』

そういうと、クイッと首を背中に向けて動かす。乗れ、と言うことらしい。
恐る恐るルビィに跨るとバサっと羽を広げる。

「いってらっしゃい、私。」

「ありがとう。行ってくるわね。」


オリヴィア2号に見送られてバルコニーから飛び立つ。見つからない様に初めはすごいスピードだったが、ワンフルール家に着く頃には穏やかな空の旅を楽しめた。
ゆっくり裏の山に接している我が家の庭に降り立つと大慌てでお父様が飛び出してきた。手には剣を握っている。その後から武装した使用人たちも慌てて出てきたが、皆竜の背から降りたメイド姿の私を見て、ポカンと口を開けて固まってしまった。
どうやら竜の襲撃だと思ったらしい。


「オリヴィア!!!!!」

同時に聞きたかったけど聞きたくなかった声が聞こえる。ガシャン!と大きな鉄が床に落とされる音と共に地面を蹴る軽快な音が聞こえる。
ゆっくりと音のなる方に体を向けると、すでに目の前にその人は来ていた。顔を見る間もなく、抱きしめられて視界が塞がる。
強く抱きしめられると、心臓の音がダイレクトに耳に響いてくる。ドクドクとした規則正しいリズムを聴いているだけで何故かホッとしてしまう。

「俺を選んでくれてたって聞いた。」

その一言で、ドクンと心臓が跳ねる。

頭の上に唇が触る感覚がした。そのまま、耳、首筋へと唇が優しく移動してくる。
首元に顔を埋めて何かを呟いているコンラッドの暖かさに、涙が溢れてきてしまう。
本当だったら、この人に抱きしめられて幸せになっていたはずだったのにと考えてももう仕方のないことを考えてしまう。

「コンラッド、まだ一昨日あったばかりじゃない」

泣いていることに気が付かれない様に、明るい声で話しかけてもコンラッドは一向に顔を上げず縋りついたままだった。

「結婚してしまったらもう会えないと思った。俺だったら家から出したくないと思うから。」

「おい!ラド!手を離せ!!」

慌てた様子でイブお姉様がコンラッドを私から引き剥がす。引き離されたコンラッドの顔を見るとボロボロと涙を流していた。
綺麗なアイスブルーの瞳が涙の雫に埋もれて薄くなり空色に見える。

「もし万が一誰かに見られたら、ヴィアが姦通罪に問われるでしょ!取り返せていないんだから我慢して!」

「だって、人違いだったんだろ?あいつだって堂々と浮気してるんだからいいじゃないか!」

いつも冷静で的確なコンラッドに珍しく感情に素直に動いているのを見て、戸惑う反面嬉しく思ってしまった。


「あれ?何で知ってるの?私報告してないよね」

人違い、と柔らかい言葉を使っているが私がツーデンで何をされたのか知っている様な口ぶりであることに今気がついた。
途端にぎくっとしたコンラッドとイブがあれだけ騒いで暴れていたのにピタッと動きを止めた。
ギギギギ…と錆びたおもちゃの様にぎこちなくコチラに顔を向ける。


「…」
「…」
「え?な…なに?」

「ヴィアの結婚を反対しに皇帝に謁見しに行った時にヴィクトール卿が「偽物を送ってくるなんて何考えてるんだ」って乗り込んできたんだよ。」

リアお兄様が背中に銃を背負ったまま屋根から降りてきた。「お帰り、オリヴィア」と言葉と声色は優しいが明らかにお怒りの様子だ。
背後に幽鬼が見える様な気がするし、あたりの温度が一気に下がった気がする。

「だったら返せって言ったら、何て言ったと思う?「愚かな女を懲らしめたら即刻家から叩き出すから勝手に拾っていけ」って言ったんだ。」

冷たい風が吹いてきたと思ったら、みぞれの様な雪の様なものがあたり一面に渦巻き始めた。空気中の水蒸気が凍り始めたらしい。

「お兄様、大丈夫よ私は気にして無いの。3人も味方をしてくれる人がいるから大丈夫なのよ!それにルビィも、シュバルツもいるから」

チラッとシュバルツの方を見るとガタガタ震えている。その視線の先を見ると、お母様が優しく微笑んで立っていた。

「こんな所で立ち話もなんですから。入って。ほら、みんな。シュバルツはコチラへ」

「俺が帰ってこなかったらガンナーによろしく伝えてくれ」

一言残してトテテとお母様の後をおってシュバルツは屋敷に入っていった。私もとりあえず中に入れてもらうことにした。
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