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12・悲惨な結婚式
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昨日開けっぱなしで寝てしまった窓から日差しが差し込み、気持ちのいい朝を迎える。
シュバルツも、テラスから木をつたっていき、体を伸ばしているようだ。
少し、ボーッと外を見ているとノックの音が響く。
ベティとルビィが和やかに笑い合いながら入室する。
「おはようございます、オリヴィア様体調はいかがですか?」
温かい紅茶とクロワッサン、それからサラダを机に並べながらベティは笑顔で話しかけてくれる。
「食堂では落ち着かないと思いますから、朝くらいはお部屋でゆっくり召し上がってください」
まだ湯気が出ている紅茶を一口いただくと、口の中に豊かな香りが広がった。
「食事が終わりましたら、ドレスをお持ちしますから、着替えてくださいませね」
後ろから2人若いメイドがはいってくる。ノックもせず。ちらっとこちらを見るが、フン!と顔を背けてしまう。手に持っているのがドレスだろうか、吊るすわけでもなく雑に床に放り投げ、ぺちゃくちゃと喋り始めた。
「奥様になられる方になんて失礼な!」
とベティが叱ってくれるが、特に反応するわけでもなくそのまま、ただ立ってこちらを睨んでいる。
黙って見過ごせば、何をしてもいいと侮られるし、叱れば偉そうに、と罵られるんだろうな。
「ベティ、奥様ならもういます。そちらの方は…嘘つきの居候と聞いてます。旦那様が、そう扱っていいと。文句があるならそちらへお願いします」
どうやら彼女たちは本来、公爵夫人付きのメイドらしい。『顔覚えたからな』とルビィが後ろでつぶやいている。窓から帰ってきたシュバルツも、ブワッと体の毛を逆立てて威嚇していた。
「…はぁ。では、居候は自分で身支度しますのであとはお任せください」
あんに、出ていけと彼女たちに伝えると「はぁ?!私達を追い出すなんて図々しい!」と怒りながら出ていく。
「ルビィ、ベティ、お願いね。」
床に放られたドレスは白のシンプルすぎるドレスだった。襟元までしっかりと詰めてあり、プリーツも何もない普段着の様なワンピースだった。
ワンピースを頭から被り、その上からさらにベールを被る。薄い、青いベール。
ドレスがシンプルだからとベティが腕によりをかけて髪の毛を編み込んでくれた。
すけるような金の髪が集まって、発光しているように見える。「綺麗ですよ」とベティが褒めてくれる。
身支度が整うとちょうどコンコンと、扉がノックされる。「どうぞ、」と答えると執事が礼儀正しく入室してくる。
私の姿を見るなり、オラクルに隠れた細い目をギョッと見開くが、すぐにいつもの顔に戻り「お綺麗です」と一言褒めてくれる。
「あたりまえだ!お前んとこの主人は目が腐ってやがるからわかんねぇだろうがな!!」
と先程の怒り冷めやらぬシュバルツがどなる。
「返す言葉がございません。お嬢様、結婚式の準備が整いましたので、どうぞ。」
「え?!結婚式?!?!?」
聞いてないよ?!
結婚式と言えば、憧れがある。光り輝く街の大聖堂で、愛する両親や冒険者仲間、街の友人に囲まれて、盛大にお祝い。豪華でなくていいから、愛するものに囲まれて、おめでとう、と祝福してほしい。
そんなものまるでなく。ツーデン家の来客間で何故呼ばれたのかギリギリまで知らされていなかった神父を目の前にして、超絶不機嫌な男に手を取られて向かい合って立っている。
「5大精霊の祝福の元に、愛し愛され、幸せになると誓いますか?」
ここで、愛し合う2人なら“誓います”と答えるのだが、ヴィクトール卿はムッと口を一文字に閉じて答える気配がない。私も答えずにただ黙って前を見る。
困った神父は「ち…誓いのキスを」と強引に先に進めるがヴィクトール卿は動かない。
「こいつ放電しすぎて電池切れたのか?」
とベールの中に隠れているシュバルツが突っ込む。つい、面白くてクスリと笑ってしまう。
「何が面白い」
ヴィクトール卿は笑った私が気に食わないのか繋いでいた手を弾き怒り始める。
「結婚できて嬉しいのか!!俺はお前なんか愛さない!!いいか!部屋から許可なく出ることは許さないからな!!おい神父!中庭へ!」
ヴィクトール卿は机の上の書類に乱雑に名前を書き神父様を連れて出て行こうと扉を開ける。
そこには、何重ものレースを繊細に重ねた、ふんわりとしたそれは立派なウエディングドレスを着たオレンジの髪の女性が立っていた。後ろには今朝のメイドがニコニコした顔で立っている。
「ヴィクトール様、中庭にパーティーの準備ができたわ!早く、結婚式を始めましょう!」
「ああ、アリーナ美しいよ。早く結婚式をしようね」
そう2人で見つめ合って扉をバタンとしめる。扉が閉まる瞬間、アリーナがこちらをチラッと見て勝ち誇った笑顔を見せた。
私の人生初の結婚式は、誓いの言葉も聞けず、ベールさえもあげられず乱暴なサインのみという悲惨な物になった。
『私が誓うわ。オリヴィア、私が永遠に愛してあげる。死が二人を分つまで』
「俺様もだぜ!全身全霊をもってお前を守ってやるから」
残された私に、ロマンティックに2人が誓いの言葉をかけてくれる。ありがとう、と二人のほっぺたにキスをする。
「ベティも、オリヴィア様を敬愛しておりますよ!」
「わたくしめも、お嬢様おっと失礼、オリヴィア様をもっと知りたいですな」
と、思わぬ3人目、4人目の登場に固まった顔の表情が綻ぶ。キスはいる?と聞くとベティはもちろんです!と答えた。執事も恥ずかしそうに私にもしていただけるんですかな?と意外と喜んでいた。
シュバルツも、テラスから木をつたっていき、体を伸ばしているようだ。
少し、ボーッと外を見ているとノックの音が響く。
ベティとルビィが和やかに笑い合いながら入室する。
「おはようございます、オリヴィア様体調はいかがですか?」
温かい紅茶とクロワッサン、それからサラダを机に並べながらベティは笑顔で話しかけてくれる。
「食堂では落ち着かないと思いますから、朝くらいはお部屋でゆっくり召し上がってください」
まだ湯気が出ている紅茶を一口いただくと、口の中に豊かな香りが広がった。
「食事が終わりましたら、ドレスをお持ちしますから、着替えてくださいませね」
後ろから2人若いメイドがはいってくる。ノックもせず。ちらっとこちらを見るが、フン!と顔を背けてしまう。手に持っているのがドレスだろうか、吊るすわけでもなく雑に床に放り投げ、ぺちゃくちゃと喋り始めた。
「奥様になられる方になんて失礼な!」
とベティが叱ってくれるが、特に反応するわけでもなくそのまま、ただ立ってこちらを睨んでいる。
黙って見過ごせば、何をしてもいいと侮られるし、叱れば偉そうに、と罵られるんだろうな。
「ベティ、奥様ならもういます。そちらの方は…嘘つきの居候と聞いてます。旦那様が、そう扱っていいと。文句があるならそちらへお願いします」
どうやら彼女たちは本来、公爵夫人付きのメイドらしい。『顔覚えたからな』とルビィが後ろでつぶやいている。窓から帰ってきたシュバルツも、ブワッと体の毛を逆立てて威嚇していた。
「…はぁ。では、居候は自分で身支度しますのであとはお任せください」
あんに、出ていけと彼女たちに伝えると「はぁ?!私達を追い出すなんて図々しい!」と怒りながら出ていく。
「ルビィ、ベティ、お願いね。」
床に放られたドレスは白のシンプルすぎるドレスだった。襟元までしっかりと詰めてあり、プリーツも何もない普段着の様なワンピースだった。
ワンピースを頭から被り、その上からさらにベールを被る。薄い、青いベール。
ドレスがシンプルだからとベティが腕によりをかけて髪の毛を編み込んでくれた。
すけるような金の髪が集まって、発光しているように見える。「綺麗ですよ」とベティが褒めてくれる。
身支度が整うとちょうどコンコンと、扉がノックされる。「どうぞ、」と答えると執事が礼儀正しく入室してくる。
私の姿を見るなり、オラクルに隠れた細い目をギョッと見開くが、すぐにいつもの顔に戻り「お綺麗です」と一言褒めてくれる。
「あたりまえだ!お前んとこの主人は目が腐ってやがるからわかんねぇだろうがな!!」
と先程の怒り冷めやらぬシュバルツがどなる。
「返す言葉がございません。お嬢様、結婚式の準備が整いましたので、どうぞ。」
「え?!結婚式?!?!?」
聞いてないよ?!
結婚式と言えば、憧れがある。光り輝く街の大聖堂で、愛する両親や冒険者仲間、街の友人に囲まれて、盛大にお祝い。豪華でなくていいから、愛するものに囲まれて、おめでとう、と祝福してほしい。
そんなものまるでなく。ツーデン家の来客間で何故呼ばれたのかギリギリまで知らされていなかった神父を目の前にして、超絶不機嫌な男に手を取られて向かい合って立っている。
「5大精霊の祝福の元に、愛し愛され、幸せになると誓いますか?」
ここで、愛し合う2人なら“誓います”と答えるのだが、ヴィクトール卿はムッと口を一文字に閉じて答える気配がない。私も答えずにただ黙って前を見る。
困った神父は「ち…誓いのキスを」と強引に先に進めるがヴィクトール卿は動かない。
「こいつ放電しすぎて電池切れたのか?」
とベールの中に隠れているシュバルツが突っ込む。つい、面白くてクスリと笑ってしまう。
「何が面白い」
ヴィクトール卿は笑った私が気に食わないのか繋いでいた手を弾き怒り始める。
「結婚できて嬉しいのか!!俺はお前なんか愛さない!!いいか!部屋から許可なく出ることは許さないからな!!おい神父!中庭へ!」
ヴィクトール卿は机の上の書類に乱雑に名前を書き神父様を連れて出て行こうと扉を開ける。
そこには、何重ものレースを繊細に重ねた、ふんわりとしたそれは立派なウエディングドレスを着たオレンジの髪の女性が立っていた。後ろには今朝のメイドがニコニコした顔で立っている。
「ヴィクトール様、中庭にパーティーの準備ができたわ!早く、結婚式を始めましょう!」
「ああ、アリーナ美しいよ。早く結婚式をしようね」
そう2人で見つめ合って扉をバタンとしめる。扉が閉まる瞬間、アリーナがこちらをチラッと見て勝ち誇った笑顔を見せた。
私の人生初の結婚式は、誓いの言葉も聞けず、ベールさえもあげられず乱暴なサインのみという悲惨な物になった。
『私が誓うわ。オリヴィア、私が永遠に愛してあげる。死が二人を分つまで』
「俺様もだぜ!全身全霊をもってお前を守ってやるから」
残された私に、ロマンティックに2人が誓いの言葉をかけてくれる。ありがとう、と二人のほっぺたにキスをする。
「ベティも、オリヴィア様を敬愛しておりますよ!」
「わたくしめも、お嬢様おっと失礼、オリヴィア様をもっと知りたいですな」
と、思わぬ3人目、4人目の登場に固まった顔の表情が綻ぶ。キスはいる?と聞くとベティはもちろんです!と答えた。執事も恥ずかしそうに私にもしていただけるんですかな?と意外と喜んでいた。
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