星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

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11・星に願いを

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公爵家に相応しい格好をと、家族が着せてくれた赤いエンパイアのドレスを脱ぐ。ありがたいことに、日頃の訓練で体が引き締まっているため、コルセットをしていない。そのまま、白い簡単なナイトワンピースを頭から被り、テラスに出る。少し肌寒いが、シンと静まり返った夜の空気で何故か胸がキュウと締め付けられる。

昨日は愛する人達と見た星が、今日も同じ様に綺麗に輝いている。

「はぁ。私の事をヴィクトール卿が受け入れてくださいます様に。」

ため息混じりに星空に願ってみる。きらりと星が一際強く光返事をしてくれた気がする。
きっと、明日にはヴィクトール卿も少しは落ち着いて話してくださるだろうと夜風でほてった心を冷ます。

望まれた結婚でもなければ、必要に駆られた結婚でもない。私はここに蔑まれにきた様なものだ。
いきなり罵られ、歓迎もされず。
思わずぎゅっと手すりを握りしめる。

『ねぇ、オリヴィア?貴方がいらないって言ったものは私いつでも炭にしてあげるわよ』

「うん。ありがとう。でも、ヴィクトール卿がいなくなるとこの帝国にたくさんの国が攻めてくるかもしれないの。彼は他国から恐れられるほどの力を持っているんですって。他国からの進軍の抑止力になっているのよ」

『それなら、私も持ってる』

「きっとルビィの方が強いよね。でも、誰かが攻めてくるって事は、争いが起こる。人間同士の争いが起こると言うことは、傷つき、死んでしまう人がたくさん出てくるってことよ。私はそれは嫌なの。」

『じゃあ、脱走しよ。逃げ出す?』

「そうしたら家族に咎が行く可能性があるわ。まずは、話してみましょう。ヴィクトール卿と、それから皇室の方にも話を通してもらって婚姻をなかった事にして貰えばいいのよ。私は望んでなんていないんだから」

『うまくいかなかったら、攫ってでもこの屋敷から連れ出すわよ。もし、その事でオリヴィアの“大切”に手を出すものがいれば片っ端から炭にしてやる。』

「そうならない事を祈るわ」

ルビィはテラスに出た私を追って温かい毛布を持ってきてくれた。ふわっと肩にかけられたそれは、ほのかに暖かかった。
暗い空と反対に微かに赤く光るルビィの瞳からは怒りと、悲しみの感情が溢れている。

私の部屋はどうやら最上階の3階、その一番端に位置するらしい。角部屋のため空が広く見える。

ふと、目線を下げると斜め下あたりにあるバルコニーにヴィクトール卿が姿を現した。
隣には霞んだ金…いや、オレンジ色の髪色の女性がいる。あの女性は、あの時森で飛び出してきた…?
慌てて姿を見られない様に物陰に隠れる。
耳をすませば、2人の声が聞こえてきた。

「ヴィクトール様。本当に明日結婚しちゃうの?」

「仕方がないんだ。皇帝があの女を治癒師だと信じきっている。どうも、俺の力とこの傷を癒した治癒の力を残したいが為の政略結婚の意味合いもあるらしい。」

「そんな!その傷を癒したのはあたしなのに!」

「わかってる。あの、貴族の女が嘘をついて皇帝に取り合ったんだ。だから、あの女となんか子供は作らないさ。」

「あたし…あたしが皇帝様にお話しします!治したのはあたしですって!!ヴィクトール様が可哀想!」

「大丈夫さ。あんな奴と寝台を共にしないから。せいぜい俺に愛されようともがき苦しめばいいんだ。俺が抱くはアリーナ、君だけだ。君が俺の子を産めば問題ないだろ?」

「そうね。でも怖いわ!明日からいじめられるんじゃないかって…あたし、平民だから…」

「使用人たちにはあいつを見張る様言い付けてある。安心しろ。みな、アリーナの味方だ」

「はい。せっかくヴィクトール様が治癒の乙女を褒賞として願ってくださったのに、とんだ邪魔者が入っちゃったわね」

アリーナと呼ばれた女性が甘える様な声でヴィクトール卿に話しかける。心なしか隣からパチパチと火花が散る音がすると思いルビィに目をやると瞳からパチパチと火花が散っていた。
怒っているらしい。とてつもなく。

『死にかけてまで治してやったのにあの恩知らずが』

と呟いて私の耳を塞ぐ。一瞬キィンと高い音が聞こえたがすぐになんの音もしなくなった。
10秒程で耳が開放されると、バルコニーにいた二人が「なんの音?!」と騒いでいた。

『夜風にあたりすぎは良くないわ。部屋に入りましょ』

と肩を抱かれて部屋へもどる。ルビィは女性の姿をしているがスラッと背が高く顔つきもシャープで整っている。吊り上がった目に、通った鼻筋、薄い唇。
声も中性的な声で心地よい。

子供の頃助けた時は手のひらサイズのドラゴンの姿をしていたが、あれは仮の姿だったらしい。

部屋に入るとベットまでエスコートしてくれ、優しく掛け布団をかけてくれる。そのまま、ベットのふちに腰掛けたと思ったら、トントンと心臓のあたりを心地よいリズムで優しく叩かれる。

『私が死にかけてた時、オリヴィアは毎晩こうして寝かせてくれたわ。あの時の暖かさと貴女の魔力に魅せられて、ずっと貴女を遠くから見守っていたの。』

「そうだったの?会いにきてくれれば良かったのに」

『あら、無理よ。貴女ガチガチに守られてるんだもの。近づけなかったのよ』

「?そうなの?あの屋敷はそんなに警備は厳しくないと思うけど、それぞれが強いからね」

『クス。可哀想なお兄ちゃんだわ』

ルビィがボソッと呟くが何を言ったのか聞き取れなかった。月明かりが窓から差し込むと、普段は隠している額の核がきらりと煌めく。
思わず人差し指で、核をなぞりながら、ほんの少し魔力を流し込む。

『うふふ、相変わらず優しい魔力ね。この魔力を一度味わったら、忘れられないはずよ。』

「わすれ…られない?」

『おやすみ、オリヴィア。いい夢を』

ルビィの一言を最後に意識はプッツリと途切れてしまった。
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