星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

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10・私だって怒ります

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「つまり、妻は私ではなく先に来てらっしゃるアリーナさん?かしら?そう言いたいのね。ヴィクトールさま…卿は。」

「はい。私共も審議を図りかねておりますゆえ…」

「そうね、卿を治したのを見ていた人はここにはいないものね。そう。わかったわ。」


ぎゅっと膝の上に置いた両手を握りしめる。


『お前が望んだせいでお嬢様は最愛の人達と離れ離れになったのにこの仕打ちか?』

仄暗い、静かに燃える炎の様な静かな怒りを孕んだルビィの一言にハッとして顔を上げると、真っ青な顔をして執事とベティが立っていた。

後ろで手を組んだルビィが、怒りを露わに詰め寄ろうとしている。ビリビリと空気がゆれ、窓が悲鳴を上げている。その中でも足をもつれさせながら、ルビィの横を通りベティが私に駆け寄る。

「お嬢様、ベティは、貴方様に誠心誠意お支えします。実は、息子が冒険者なのです。貴方に一度助けられています。」

そう言うと肌触りのいい、優しい布で目元を拭ってくれた。その布にはワンフルール家の紋章であるリスが縫い付けられていた。

「貴方が息子に巻いてくださったハンカチです。お守りがわりにさせていただいてます」

どうやら気がつかないうちに泣いていたらしい。

あの人に会いたい。

今すぐ会いたい。

私結婚しなくていいんだって…って帰りたい。

「では、用無しの花嫁は帰ります」

すっと立ち上がると、慌てて執事がとめにはいる。

「…いえ、それが旦那様は貴方をこの屋敷で住まわせろと…勅命では貴方との婚姻を結ばれてしまっていますゆえ…明日、婚姻届にサインを貰うためにと王宮から使者が参ります」

執事がさらに顔を青くして衝撃の事実を告げる。
あまりの勝手さに驚いて涙も止まってしまった。

「ふざけんじゃねえよ!!お飾りですらないのにオリヴィアを囲おうってのか!!」

「いいの。いいのよシュバルツ。」

激オコの頭の上のリスを宥めていると執事がこちらを驚いた様子でじっと見つめる。リスが話すなんて珍しいものね。

「私の友達のシュバルツです。ルビィと、シュバルツは一緒にここにいさせていただくわ。貴方に今、文句を言っても仕方がないもの。困らせてしまってごめんなさいね」

「お嬢様、お優しさに感謝いたします」

「…いいの。」
(よくないわ)

手のひらに爪が食い込んで血が滲む気配がする。
幸せになってね、と磨いてもらった爪が、ギシギシと音を立てている。

「きっと、ヴィクトール卿の思い違いが晴れる時が来るでしょう。私が、卿との行き違いを聞いてみます」
(あんな人ほっておいてコンラッドに会いに行きたい)

確かに私は嘘つき女だ。スラスラと本心とは正反対の言葉が出てくる。執事とベティは「しばらくお待ちください、部屋にご案内する準備をいたします。」と言って下がっていった。

『こんな屋敷すぐに燃やせるわよ』

「俺様は師匠(お母様!)に報告しにいってくる」

怒り心頭の心強い友人達は、この屋敷の者がいなくなるとダン!!と思い切り床を踏み締め叫ぶ。

「そうね、さすがの私も怒ったわ。でもまだ知らせなくていいわ。少し自分でもなんとかしてみて、それでもダメだったら…ね。というか、やられたらやり返してやりたいのよ。私も一応冒険者ですもの、やられっぱなしは性に合わないみたいなの。ルビィ、ベールを取ってくれる?薄いブルーのベールを…」

この屋敷の人達は、私が入ってきた時誰も歓迎してなどいなかったのだ。扉を開けた瞬間の、あの冷たい視線はこのを蔑む視線だったんだ。唯一ベティと執事だけが私をしっかり見極めようとしている様だ。

そんな人達にこれ以上こちらの情報をわたしてはいけない。薄い、チュール生地でできたベールを頭からスッポリかぶり、顔を隠す。

冒険者たるもの、敵に弱みを見せてはならぬ。
隠密者たるもの、無防備に姿を見せてはならぬ。
女たるもの、自分の価値を下げてはならぬ!

そっちがその気なら、私は勝手にこの屋敷のことを探ってやろうと思う。そんな事を考えているとベティが慌てて部屋に戻ってきた。
ベールを被った私をみて一瞬驚いたが丁寧に部屋まで案内してくれた。
大きくは無いが清潔で、甘く優しい香りがした。

大きなベットに横長のソファとローテーブル、化粧台がある。扉がない続き部屋が使用人用の部屋になっている様だ。おそらく貴人を招いた時の客間だろう。
反対側の部屋は小さなバスルームとトイレになっている。

「たくさん揃えてくださってありがとう。今日はもう休ませていただくわね」

「お嬢様、本当に、申し訳ありません」

「ベティが謝る事じゃないわ!ベティは私に優しくしてくれたじゃない!むしろ、ありがとう」

そう言って微笑み、ベティの手を取ると頬を赤く染めて目を潤ませながら手を握り返してくれた。そして、ゆっくりと部屋を後にしていった。
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