星に願っても叶わないから自分で叶えることにしました

空橋彩

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9・嘘つき

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「だいぶ調子が戻ってきたみたいだな、オリヴィア」

コンラッドが剣についたスライムの体液を振り払いながら、私の頭をポンポンとなでる。

「もう平気よ!回復魔法も今までより楽にかけられる様になったわ!訓練に付き合ってくれてありがとう。お姉様も。」

シュバルツはあれから夜にならないと帰ってきてくれなくなってしまった。フラフラとベットによじ登り、しばらくすると小さな背中を規則正しく上下させ、眠りにつく。そして朝も、フラフラとお母様のところへ通っている。ルビィも一緒に行っている様で、朝の準備を済ますといそいそと退室していってしまう。

「リビィ、冒険者としても良いランクまでいけそうだ!」

「お姉様ありがとう!」

「オリヴィア、今度昇格試験を受けてみたら?」

コンラッドが口にする未来に胸が締め付けられる様に痛くなる。ニコッと笑って誤魔化すが、きっとぎこちないんだろうと思う。

あれから1ヶ月が経とうとしている。私がヴィクトールに嫁ぐ事を知っているイヴお姉様は、コンラッドとできる限り予定を合わせて私を狩りに誘ってくれた。

それも今日で終わりだ。明日からツーデンの屋敷で花嫁修行が始まる為、家を出なければならない。
お姉様とコンラッドの背中を見ながら、ぎゅっと目を瞑る。きっとヴィクトール様も私を大切にしてくれるはず…あちらから望まれたのだから…

「じゃあ、オリヴィア、今度は3日後に一緒に狩に行こう。今度は泉の方まで行ってみような」

ギルドで精算を終える外に出ると夕焼けが綺麗だった。
振り返ったコンラッドの顔が逆光で少し見えにくい。

「ええ、コンラッドいつもありがとう。」

泣きそうになってしまうのであまり多くは口にできなかった。ふと空を見ると一番星が光っていた。

どうか、この人が私がいなくなった後も幸せに過ごします様に。

声に出さず、一番星に願うのは私の初恋の人の事だった。その願い事を持って初恋に蓋をする。





「では、行ってまいります」

次の日の朝、ツーデン家の家紋の入った立派な馬車が迎えにきた。トランクを3つ、肩にはシュバルツ、隣にルビィがついて来てくれている。

「たまには帰ってきておくれ。」

「辛くなったら逃げてきなさい!」

「リビィ、まってて!絶対に手柄を上げて見せる」

「いつでもシュバルツをよこしなさい。私がリビィを攫いにいくから」

家族も、使用人たちも目を赤くして見送ってくれた。

少しずつ小さくなる家、ツーデンの屋敷も王都にあるのだ、きっとまた直ぐに会えるだろう。
でもしばらくは、屋敷から出られなかったりするのかな?などとしばらくの別れに胸を痛めていた。その時は…自分の未来に不安しか無かった。




1時間ほど馬車を走らせると中心部にある屋敷に到着した。荷物を下ろすと執事と名乗る老齢の男性が丁寧に出迎えてくれた。

「大切なお嬢様をお預かりします」

と気遣いの言葉までかけてくれた。そのまま、ふかふかの絨毯の敷かれた屋敷内に案内され大広間へ通される。やはり、教育のしっかりした使用人たちなのだろう、笑顔もなくただ淡々と仕事をこなしている。

「旦那様をお呼びします、お待ちください。」

すかさずふくよかな侍女が紅茶を持って入ってきて、ティーカップを渡してくれる。いちごの乗ったケーキも机に置いてくれて、「ベティです。お嬢様のお世話をさせていただきます」と挨拶をしてくれた。
朗らかな笑顔に少し安心して、「よろしく」と答える。
するとバタバタと激しい足跡が響いて、ドアをバン!と乱暴に開けられた。
そこに立っていたのはあの洞窟の前で見た、強烈な金だった。

ソファから立ち上がりカテーシーをする。身分の低い者から話しかけられないのでそのまま待つが、一行に話しかけられないので少し顔を上げると予想外の表情が私を捉えていた。

「この嘘つき女め!貴族なら何をしても許されると思っている!傲慢な…貴様みたいな女を娶るなんて最悪だ。皇帝にまでとりいって、そこまでして公爵夫人になりたいのか!!」

輝く金の髪に、輝く透き通る様な金の瞳、たくましいその体に加えて長身で手足もスラッとしている。
その、美しくたくましい男が怒りに顔を真っ赤にして、立っていた。

「なんとか言ったらどうだ!人の手柄を奪って、俺を手に入れて嬉しくて仕方ないのだろう!」

ガシャン!と側にある花瓶を叩き落とすと直ぐに背中を向けてしまう。手からは血が垂れているようだ。
妙に頭が冴えてしまい、ヴィクトール様の言葉がまるで理解できなかった。

「貴様となんか口も聞きたくない。本当に俺を治したのはアリーナだ。いいか、俺から愛されるなんて思うな。貴様は自分が愚かな嘘をついた事を反省しろ!」

そういうと直ぐに部屋から出ていってしまう。顔もろくにみず、名乗ることさえさせず。ただ怒りだけをぶつけて出ていった。
カテーシーを辞め、ソファに座ると先ほどの執事とベティが慌てて近寄ってくる。

「申し訳ありません。お嬢様、旦那様は…その、平民の女性が自分を治した人だと、なぜか言い張って…その…」

ベティが申し訳なさそうに説明をする。その先を言い淀むので、うまく話がつかめないが、どうやら私はお呼びでないらしい。

「お嬢様にはそのうちバレてしまうので、ちゃんとお話しさせていただきます。今この屋敷には1人の平民の女性が暮らしておりますそれも、

執事が淡々と説明を始める。肩の上のシュバルツは怒りで持っていたどんぐりを握りつぶしていた。
力持ちね、と場違いな事を考えてしまった。
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