聖戦場の乙女

麻黄緑推

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第一章 未だ見ぬ敵に備えて

遭遇、未来の敵1

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偽名を決め、後は時間が経つのを待つだけになった私たちは、久しぶりにランと遊んでいた。


「チェック!はい、私の勝ち。軍人の娘なら、もうちょっと軍棋が上手くなった方が良いんじゃない?」

「う・・・もう一回!もう一回です、ラン!」


・・・そしてリーンはボコされていた。
ゲームでも言及されてたけど、リンはこういうボードゲームが異常に強い。
この世界では見ないけど、リバーシとか教えても、多分無双するだろう。


「はい、獲った。」

「あ。」


ランが将棋で言うところの飛車を獲って角も追い込んでいる。
そろそろ13連敗が見えて来た。


「・・・外に出れたらリーンの得意な遊びも出来るのに。」

「外の遊戯は話す余裕が無いじゃ有りませんか。私はランと・・・お話もしたいのです。」

「それは本心?でも何か隠してるね?」

「そんな・・・」


ランが咎める様な視線を、リーンの腕へ向ける。
普段なら彼女が着けない手袋を、じっと見つめていた。


「また怪我したでしょ。」

「ええ、少し転びまして・・・」

「嘘。骨折したら見せびらかしてくる様な貴女が、転んだ程度で傷を隠すわけが無い。」

「それはホントに小さい頃の話ですわ!」


逆に小さい頃はそんな事してたのか。


「リーンは活発だから、よく怪我するけれど、それは良いんだ。顔に怪我しても楽しそうだし、どうせすぐ治るし。・・・楽しそうだし。」

「・・・」

「でもね、隠す様な、後ろめたい怪我はね、しないで欲しいんだ。それに、あの、リーンが死んだりしたら・・・」

「もう、分かりましたわ!ほら、ご覧なさいラン。」


そう言うと、リーンはおもむろに手袋を外して患部を見せた。
少し瘡蓋がグロテスクだけれど、既に治りかけた腕がそこにあった。


「私だって淑女レディですのよ。そろそろこう言うものを見せびらかすのも憚られますわ。」

「・・・痛く無いの?」

「勿論。体を清める時、少ししみる程度ですわ。」

「なんだぁ。心配させないでよ!それにしても、派手に転んだんだねぇ。」


安心したのか、ランはもとの穏やかな表情なった。


「ええ、それはもう盛大に!でもねラン。私だって、この程度の怪我を隠す程には成長していますのよ。だから、心配しなくっても良いのよ。」

「みたいだね。もしかしたら私よりも大人かも。」

「貴女は正式な貴族の娘なのですから、もっと教養を積む事ですわね!」

「お、言ったね?じゃあ教養が試されるゲームを遊ぼっか。」

「勿論。"大人"で"淑女レディ"の私が相手をしますわ!」


こう言うところ、リーンは実に子供っぽい。
何にせよ、二人が仲直りして良かった。

トン。

その時、窓の外で何か音がした。
リーンもランも、勿論私もそちらを見やる。
カーテンで外は見えないけれど、映った影がそこに"何か"がいる事を示していた。


「何ですの・・・?」


リーンが呟くいたのとほぼ同時に、目の前の窓が勢いよく開けられた。
そこに居たのは、ペスト医師の様なマスクを被り、鳥の羽を集めた様なマントを羽織った小柄な男だった。


「イオ、まさかあの人は・・・」

「信じられない、あいつはライヴ聖教国の諜報部員だ!でも、攻めてくるには時期が早過ぎるし、姿が似てても違う人の可能性も・・・」


そんな希望は、男が放った言葉で直ぐに砕かれた。


「お迎えに上がりました、聖女様。」
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