聖戦場の乙女

麻黄緑推

文字の大きさ
上 下
2 / 8
第一章 未だ見ぬ敵に備えて

強さの基準

しおりを挟む
ライヴ聖教国を潰す為、リーンは早速鍛練を始めた。
結論から言えば、彼女のポテンシャルは尋常では無かった。
今の彼女はタム王国軍の一個小隊よりも強い。
たった半年でもう目標にした強さに到達したんだ。


「何を寝ぼけた事を言っておりますの。この程度、まだ目標に到達したとは言えませんわ。」

「なんで?うちの軍人さんよりは間違いなく強くなってるよ。この前倒した魔獣とか、ゲームだと一個小隊で倒せなかったもん。」

「遊戯の世界ではそうかもしれませんが、実際の軍隊には強さにムラがありましてよ。私は我が国軍の精鋭を殲滅できる強さが欲しいのです。」

「精鋭ってもしかしてエストルテー隊の事!?」

「解ってるじゃありませんか。」


エストルテー隊とは、タム王国の最高戦力と呼ばれる国王陛下直属の精鋭部隊だ。
その優秀さはタム王国軍の中でも突き抜けていて、出陣は国王でさえ一人で決める事ができない。
実際ゲーム中でも彼らだけ性能が異常に高く、特に初登場する中盤では主人公のランよりも活躍する程だった。
文字通り国防の要、という訳だ。


「でも貴女の話を聞く限り、ライヴの軍にはあのエストルテーさえ屠る連中もいるんでしょう。」

「聖騎士団か・・・」


エストルテー隊が居るのにゲームの中でランが戦っていた理由、それがライヴ側の最高戦力である聖騎士団。
騎士"団"と言ってもその人数は四人だけ、所謂四天王・中ボスのポジションだ。
一人一人がエストルテー隊五十人を上回る彼らの登場で、タム王国はほぼ全壊。ゲーム終盤は殆どランが一人で戦う事になる。


「腹立たしき、腹立たしき!たかだか数年そこらでひょっこり出てきた新興宗教にうつつを抜かす軟弱者に、我らがエストルテーが劣るなんて・・・!」


ライヴ信仰自体は一応古くからある設定だけれど、言わなくても良いか。
彼女の父親はこの国の軍事のトップだ。
流石にエストルテー隊に関しては全面指揮をしている訳ではないけれど、思う所はあるのだろう。


「リーン!此処にいたんだ!」

「ああ・・・ランでし、だったの・・・ん?」

「どうしたの?」


いや、本当にどうしたんだろう。


「アー、イタタ!足ヲイタメテシマイマシタワー。」

「大丈夫?!」

「大丈夫だけれど少し痛むから、湿布持ってきて頂戴な。」

「う、うん。ちょっと待ってて!」

「ええ、ありがとう・・・」


そこまで言うとリーンは気を失い、私が居る精神世界に現れた。


「え・・・死んだの!?」

「そんな訳ないでしょう!声を出したらいきなり気が遠くなってきて・・・イオ、貴女何か知らないの?」

「・・・身体強化か!」

「しんたい・・・なにそれ。」

「知らないで使ってたの!?」


身体強化はゲーム内にも登場した技で、その効果は物理ダメージと物理防御を何倍にもする代わりに呪文が使えなくなるというもの。
確か体のリミットを外す為に脳のリソースを使うから、暫く言語野が使えなくなる、みたいな設定だったような・・・


「要は戦った後には喋れなくなるし、無理に喋ろうとすると今みたいに気絶する、と言う訳ね?」

「身体強化を使わなければ大丈夫だけど・・・」

「コレどうやって切るのかしら・・・」

「うーん、どうしよう。」

「でもおかしいですわ。この前の魔獣討伐の後、話せていたじゃありませんか。」


そういえばそうだ。この前魔獣を倒した後、リーンに何かあった時の為に、私が主人格になって練習がてら色々喋って遊んでたっけ。


「リーン、湿布持って来たよー。」


まずい、ランが戻ってきた。
このままリーンを気絶させておくわけにはいかない。
一か八か、試すしかない。


「ああ、ラン。いとありがたしですだよ。少々お疲れでウトウトなんだ、です・・・」


しまった、人間に化けた宇宙人みたいになってしまった。


「・・・リーン、また何かムリしてるでしょ。」

「え?」

「全くもう。部屋、二階の奥だよね。おぶって行くから、手。」

「いやいや!あのー・・・大丈夫!歩けるますわ!あと、あなた貴族の娘だし、あれですわ、はしたなくってよ!」

「喋り方変だし絶対大丈夫じゃないでしょ。それに去年も怪我した時におんぶしてあげたじゃないの、よいしょっと・・・重!」


こうして、身体強化を使った後でも、私が主人格になれば話せる様になる事が分かった。
でも、ランに背負われてる間、リーンが凄まじい怒りを飛ばしていて怖かった。
これが「重い」と言われたからなのか、それか私の話し方のせいなのか、私には分からない・・・


「いや、多分後者だな・・・」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...