コンカツ~ありふれた、けれど現実的じゃない物語~

音無威人

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理由

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 僕と彼女はその後も逢瀬を交わし続けた。
 時にアバター同士手をつないだり、仮想上でデートをしたりと、彼女は僕のためにいろいろなことを考えてきてくれた。
 その甲斐あってか僕のコミュニケーション能力は少しずつだが、上達していった。
 今では女の子と面と向かって話せるようになった。
 彼女には感謝してもしきれないだろう。
 だから……だからこそ僕は……
『今日で訓練は終わりにしましょう、アントライト君。あなたはもう十分他者と関われる筈ですよ』
 ……彼女の言葉が信じられなかった。
『私とあなたの繋がりはこの訓練だけです。なのでもう会うことはないと思いますが』
 イヤだ。僕はそう思った。彼女と縁が切れるなんてとてもイヤだ。
 なぜか僕はそう思った。
『……前に言ったよな僕。恋人ができた暁には君を愛人にしてもいいって。恋人はできていない。けれど愛人にしてあげてもいい。僕と君の縁はまだ切れない』
 なぜ愛人なんだ僕のバカ。ここは恋人にしてあげるというべきじゃないか。
『……愛人ですか。お断りします。……本妻ならOKしていましたが』
 僕は彼女の発した言葉に……違和感を抱かずにはいられなかった。本妻、彼女は間違いなくそういった。
 その言葉の真意が分からない。なぜなのか? 僕に惚れているということはないはずだ。そんなそぶりを彼女は見せなかった。
 分からない、なら聞いてみよう。本音で語り合える仲になれば、会話力も上がると彼女は言っていたし。
『本妻とはどういう意味だ?』
『…………』
 黙秘権を貫く気か。
 ならば仕方ない。この手を使おう。
 僕はアバターを立ち上がらせ、顔を彼女の耳元に寄せた。
『本妻とはどういう意味だ? ……クラリ』
 これぞ、『もう暗いなんていわせない! 今日からあなたもモテ男!』に書いていた女を落とすコツ。かすれた声で囁くのがポイント。
 だけどアバターなのでかすれさすことはできない残念。
『……! えっあっ』
 彼女はうろたえている。これが現実世界であるならば、顔を真っ赤にしていること間違いなし。
 案外うぶなのかもしれない。
 ……ちょっと可愛いかもしれない。
『クラリ、教えてくれないのか? 君が言ったんじゃないか。本音で語り合えるようになれば、僕の会話力も上がると。だから本音で語り合えるようになろう。僕は今君の事を可愛いと思っている。僕も言ったんだ。次は君の番だ』
 僕は傍から見れば、迫っているように見える距離で陣取っている。この距離であるならば僕は彼女に勝てるような気がする。
『……可愛いと口にできるようになりましたか。ほら私の言ったとおりです。あなたはもう十分他者と関われると』
 確かにその通りだ。以前の僕なら絶対に可愛いなどと口にはしない。訓練の効果はでているということか。効果でるの早すぎる気もするが。
 僕はとんでもない才能の持ち主なのかもしれない。
『ですので私は今からあなたの悪口を言います。心して聞いてください』
 なぜ悪口を言われなければならない?
『私はあなたと初めて出会ったときに、生まれて初めての告白をされました。初めてのことだったのでどうしていいか分からず、動揺も多分にあり、罵倒という行動を取ってしまいました』
 つまりあの罵倒は照れ隠しか。僕は動揺のために罵倒されたのか。
『するとなぜかあなたは神頼みというわけの分からない行動を取り、私の動揺はより深くなりました。そして告白されたにもかかわらず悪魔などと言われてしまい、私の心は深く傷ついたのです。傷ついた私は自分の心を癒そうと、自分を褒めまくりました。恥ずかしかったですが。なので否定の言葉を最後に用いたところ、あなたは怒り出し、私に暴力を振るってきました。私はまた傷つきました。怒り出すということは、私の言葉は私自身にまったく当てはまっていないとあなたが思ったということです。私は女の子なので、可愛いとかきれいだとか言われるととても嬉しいのです。ですがあなたは私のことをそうは思わなかったのです。告白したにもかかわらずです。そこで私はふつふつと怒りが湧いてきました。なのであなたをコテンパンに殴り続けたわけですが』
 僕はどうやら彼女に酷いことをしていたようだ。確かに悪魔と言われれば傷つくか。
 しかし間違いは指摘しておかねば。
『君は一つ勘違いしている。僕は君のことを可愛くないと思っていたわけではない。ただあんなに長々と自分のことを褒めておいて、最後に否定したのがむかついただけだ』
『そうなのですか、それは失礼しました。しかし私が傷ついたのは事実なので』
 そうでした。ごめんなさい。
『その後私はあなたに告白した理由を聞きました。よりむかつきました。つまりは誰でもよかったということです。初めて告白されたのに、理由が本の効果を試したかったからでは到底納得できません。その後あなたは自分にコミュニケーション能力がないといいましたね?』
『確かに言った。君が神頼みの理由を聞いてきたから。神様は本当にひどいやつだ。僕に繋がりを与えてくれなかった』
『繋がりは自分で作るものですよ。それにあなたは今私と繋がっています。繋がりを与えてくれなかったという言葉は適切ではありませんよ。まさかあなたは私との繋がりなど大したことではないと思っているんじゃないでしょうね。これだからモテない男はダメなんです』
 そんなわけはない。僕にとっては初めてできた繋がりだ。大切にしたいと思っている。でなければ僕はわざわざ君に会うために、毎日ゲームにログインしない。
 本当ならこのセリフを言えばいいのだろうが、僕は最後の言葉に対する返答だけしようと思う。
『君はさっき初めて告白されたと言っていた。つまり君もモテないんだろう? にもかかわらず僕をダメ扱いするとは。何て女だクラリ……恐ろしい。やはり悪魔か!』
『あなたコミュニケーション能力上がりすぎです。悪口言う時だけ、やたら活き活きしていますよ。悪魔じゃありませんよ。私みたいに可愛い悪魔などいませんよ。私はどちらかと言えば天使なんです。間違えないでください』
『……ところで本妻の言葉についての真意をまだ聞いていないが?』
『分かりました。どの部位を折ってほしいですか。おすすめは首ですが、どうします』
 彼女の背後に修羅が見える。このゲームにそんな機能はついていない。
 まさか彼女の怒りがゲームプログラムを改変した? 末恐ろしい、これが怒り。
 僕には真似できない。この女やはり只者ではない。
『神様どうか彼女の怒りをお静めください。代わりに神様の名を書いた藁人形百体、プレゼントしますので。どうか僕の願いを聞き入れてください。でないと八つ裂きにします。どうかなにとぞご贔屓のほどを』
 神頼み、やはりこれしかない。
『……もういいです。真意についてでしたね。話しますよ』
 初めて神頼みが成功した。藁人形百体が効いたのだろう。
『ええとですね。私には好きな人がいるのです。これは現実世界のことですが。それで私の好きな人はクラスメイトなのですが、いつも一人きりで物静かに学校生活を送っているのです』
 まるで僕みたいなやつだな。
『それで私は何度か話しかけようと思ったのですが、恥ずかしさが先行して話しかけることができずにいるのです。そこで私はこのゲームの存在を知り、閃いたのです。ここで恋愛のイロハを学んでいけば、いつか恥ずかしがることなく好きな人に話しかけることができるのではないかと』
 それが一体さっきの本妻発言とどう繋がるのか?
『それでこのゲームをやり始めたのですがなかなか思うようにはいかず、もう止めようと思っていたときにあなたに告白されたのです』
 ほうほう、それで。
『そしてどうやらあなたはいつも孤独で恋人もできず、悪戦苦闘している。それもコミュニケーション能力がないのが悪いとあなたは言いました。そこで私は思ったのです。私の好きな人はもしかすると、コミュニケーション能力がないからいつも一人でいるのではないかと。あなたと同じでいつも一人で学校生活を営んでいる。なのであなたを私に惚れさすことができれば、現実世界でも好きな人を私に惚れさせることができるのではと思ったのです』
 なるほどつまり僕は、彼女が好きな人と両思いになるための練習相手に選ばれたと。
 僕と過ごした時間は彼女にとっては予行演習に過ぎなかったと。
 彼女の好きな人は僕と似通った部分が多少なりともある。なので僕相手に会話を滞りなく行えるようになれば、告白もスムーズに行くと。
 なるほど、よく考えたものだ。ハハハッ。
『帰りたい。割と本気で』
『どうしたのですか? 急にテンションが下がったように見えるのですが?』
『君が僕に協力するといったのは、僕のためというよりは君自身のためと考えたほうがいいというわけだ。君の恋愛事情のために僕を利用しようとしたわけだ。本妻というのも僕が君を本気で好きになれば、そのやり方を使えば好きな人を惚れさせることができるという考えの下。あぁ、やっぱり君は悪魔だよ。恐ろしくて身震いするほどの。僕程度じゃ相手にならない。というわけで協力関係解消しようか。君の恋愛事情なんて僕の知ったことではないし。まぁ、とりあえずは感謝しておくとする。ここまで人に高圧的な態度を取れるようになったのも、クラリさん君のおかげだ。本当にすごい人だねクラリさんは。すごいすごい、美人なだけじゃなく、他人を利用しようとする野心とそれを実現しようとする行動力と知能。どれも僕にはないものだ。僕の野心といえばただモテたいだけというちっぽけなもの。ここまで言われなければ気付かないなんて、クラリさんの言うとおり、僕は低脳な人物のようだ。悲しくなってくるなとても。それじゃ僕はログアウトするよ。もう会うことはないと思うけど元気でね』
 僕はそのままログアウトした。その間際何か彼女は言っていたような気もするが、どうでもいいことだ。
 神様やはり僕はあなたを恨む。折角好きになれるかもしれない人に会えたというのに。

 本当に――ついていない。
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