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僕は考えすぎです。
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「おい田中、なぜ奥さんとお腹にいる子供を殺したんだ――」
刑事の取調べに、彼は何も答えなかった。聞こえてないわけではない。彼は今、思考の波に沈んでいる。
彼は物事を深く考えすぎる傾向にあった。極端から極端に走ってしまう。思考に没頭するあまり、周りが見えなくなる。
彼は極度のネガティブ思考だった。何事も悪いほうへ悪いほうへ考えてしまう。空気を吸うように悪い考えが浮かぶ。それが彼の悪癖だった。
次郎は友人にバイクの免許を一緒に取りに行こうと誘われた。友人は勉強ができない。不合格になる恐れは十分にある。
次郎は勉強ができる。合格する可能性は高い。もし次郎だけが合格したら、友人は嫉妬のあまり殺そうとするかもしれない。それだけは回避しなければならない。友人の誘いは断るべきだ。そうすれば死は免れるだろう。
次郎は女性から告白された。その告白は断った。告白を受け入れると、相手の女性は喜ぶだろう。女性がハッピーになると、周囲が羨ましがる。その姿を羨ましく思った他の女性が、次々と次郎に告白するかもしれない。一途な次郎は他の女性の愛を拒む。フラれた女性は絶望して、きっと自殺する。
そうすると女性人口が減る。すなわち男性の相手が少なくなる。女性の数が少なくなれば、カップルが成立しづらくなる。結婚にまで発展しない。子供が生まれない。人口がどんどん減少する。日本は滅亡一直線だ。告白を受け入れてはいけない。
次郎は女性のポケットからハンカチが落ちたのに気づいた。持ち主にハンカチを拾う姿を目撃されたら。ストーカーだと思われ、警察を呼ばれたら。否定しても誰も信じてくれなかったら。牢屋にぶち込まれて、一生を刑務所の中で過ごすことになったら。拾わないほうが賢明だ。
次郎はコンビニの前でたむろする不良に遭遇した。不良はタバコを吸っている。通り過ぎる人々にメンチを切っては舌打ちし、大声で騒いでいる。迷惑極まりない行為だ。
いつ暴力沙汰を起こすか分かったものじゃない。殺人に発展する恐れだってある。殺された相手には子供がいたって不思議じゃない。その子供が大人になって復讐をしないと誰が言える。不良はそのときまかり間違って首相になっているかもしれない。首相が殺されたら大変なことになる。
次郎は閃く。不良が首相になる前に殺せばいいと。
「おい田中、聞いているのか!」
刑事の怒鳴り声を聞き、彼はようやく顔を上げた。
「刑事さん、僕はね」
彼は静かに口を開く。その表情は憂いを帯びていた。
「息子を殺人犯にしたくなかったんですよ」
彼の目から一筋の涙がこぼれた。
「悲しむ妻の顔も見たくなかった」
彼は苦悶の表情を浮かべる。歯を食いしばっていた。ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「だから僕は愛する妻と生まれるはずだった息子を殺したんです」
「あなた、今日病院に行ったらね。妊娠してるって言われたの。赤ちゃんができたみたい。あなたが一郎だからこの子の名前は次郎で決まりね」
刑事の取調べに、彼は何も答えなかった。聞こえてないわけではない。彼は今、思考の波に沈んでいる。
彼は物事を深く考えすぎる傾向にあった。極端から極端に走ってしまう。思考に没頭するあまり、周りが見えなくなる。
彼は極度のネガティブ思考だった。何事も悪いほうへ悪いほうへ考えてしまう。空気を吸うように悪い考えが浮かぶ。それが彼の悪癖だった。
次郎は友人にバイクの免許を一緒に取りに行こうと誘われた。友人は勉強ができない。不合格になる恐れは十分にある。
次郎は勉強ができる。合格する可能性は高い。もし次郎だけが合格したら、友人は嫉妬のあまり殺そうとするかもしれない。それだけは回避しなければならない。友人の誘いは断るべきだ。そうすれば死は免れるだろう。
次郎は女性から告白された。その告白は断った。告白を受け入れると、相手の女性は喜ぶだろう。女性がハッピーになると、周囲が羨ましがる。その姿を羨ましく思った他の女性が、次々と次郎に告白するかもしれない。一途な次郎は他の女性の愛を拒む。フラれた女性は絶望して、きっと自殺する。
そうすると女性人口が減る。すなわち男性の相手が少なくなる。女性の数が少なくなれば、カップルが成立しづらくなる。結婚にまで発展しない。子供が生まれない。人口がどんどん減少する。日本は滅亡一直線だ。告白を受け入れてはいけない。
次郎は女性のポケットからハンカチが落ちたのに気づいた。持ち主にハンカチを拾う姿を目撃されたら。ストーカーだと思われ、警察を呼ばれたら。否定しても誰も信じてくれなかったら。牢屋にぶち込まれて、一生を刑務所の中で過ごすことになったら。拾わないほうが賢明だ。
次郎はコンビニの前でたむろする不良に遭遇した。不良はタバコを吸っている。通り過ぎる人々にメンチを切っては舌打ちし、大声で騒いでいる。迷惑極まりない行為だ。
いつ暴力沙汰を起こすか分かったものじゃない。殺人に発展する恐れだってある。殺された相手には子供がいたって不思議じゃない。その子供が大人になって復讐をしないと誰が言える。不良はそのときまかり間違って首相になっているかもしれない。首相が殺されたら大変なことになる。
次郎は閃く。不良が首相になる前に殺せばいいと。
「おい田中、聞いているのか!」
刑事の怒鳴り声を聞き、彼はようやく顔を上げた。
「刑事さん、僕はね」
彼は静かに口を開く。その表情は憂いを帯びていた。
「息子を殺人犯にしたくなかったんですよ」
彼の目から一筋の涙がこぼれた。
「悲しむ妻の顔も見たくなかった」
彼は苦悶の表情を浮かべる。歯を食いしばっていた。ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「だから僕は愛する妻と生まれるはずだった息子を殺したんです」
「あなた、今日病院に行ったらね。妊娠してるって言われたの。赤ちゃんができたみたい。あなたが一郎だからこの子の名前は次郎で決まりね」
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