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少女の後悔
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少女の手は男のマフラーの両端に――向かっていた。男は止めてくれというように、首を横に振り続けた。
少女の手は止まらず、ついに紅いマフラーの両端にたどり着く。
男の脳裏には数時間前のことが――走馬灯のように蘇っていた。
薄暗い夜の中、男は一人廃墟の前で立っていた。男の首からは紅いマフラーが垂れ下がっている。
あまり見かけないような大きなバイクに腰掛けた男は、辺りをキョロキョロと落ち着きなく見渡している。手には封筒が握られており、その口から一枚の紙が除いていた。
中には――今は廃墟となってしまった工場で、夜会いましょう。少女より――と書かれていた。
少女の登場を今か今かと待ちわびている男は、少女に好意を抱いていた。過去に何度も告白し、良い返事を貰えず、落ち込んでいたところにこの手紙。
男は返事を貰えるのではと、気持ちが舞い上がっていた。
だから――気付けなかった。迫る脅威に。
少女は気配を殺して、男の背後に忍び寄る。そしておもむろに手に持っていたナイフを男の背に振り下ろす。
「あなたが悪いのよ。私に好きなんていうから。告白なんてするから悪いのよ」
少女の手はマフラーの端を掴んで、止まった。
「ど、ど、ど、どど、どういうこと、こと、だ?」
男は恐怖心で呂律が回らない状態になっていた。少女は蔑むように笑って、男の耳元に顔を近づけた。
「どういうことも何も、ずっと私をつけまわしていたじゃない。どんなに私が怖い思いをしていたか……ストーカー殺人のニュースを見るたび私もいつかその被害者になるんじゃないかとずっと怯えていたわ。そしてもう殺られる前に殺るしかないと……」
「ち、違うんだっ……それは勘違……」
少女は掴んでいた紅いマフラーの両端を力の限り引っ張った。
「がっ!? うぎぃい、うがががっがっががががぎぎぃぃいい!」
男はじたばたと暴れた。苦しみから逃れようと必死でもがく。しかし動けば動くほど、マフラーが男の首に巻きついていく。
「あがっ! ぐぎげっ? がっ!」
少女は輝くような笑顔を顔中に貼り付けた。
「――サヨウナラ」
男はその言葉を最期に、命の灯りを失った。
少女は必死で走っていた。その後ろを全身を黒い毛皮で覆った大男が追いかけていく。
男を殺した帰り道に、遭遇してしまったのだ。――巷で噂の化け物に。
少女は考える。どうして自分がこんな目に遭うのかと。今までは遭遇することはなかったのにと。
――化け物はヒーローが退治してくれているは……ずっ! 少女は足を止めた。
少女の頬を冷たいものが流れていく。気付いてしまった。少女はヒーローの正体に気付いてしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい、涙を流しながら少女は謝り続けた。
化け物が少女の背に向けて、巨大な爪を振り下ろす。
血の噴水が辺りを染め上げる。
少女は前のめりに地面に倒れ伏した。それでもなお少女はごめんなさいと呟き続ける。
化け物は少女の上にまたがり、左腕を噛み千切る。血が噴いた。次は右腕、右足、左足と順番に食いちぎっていく。
「――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。あなたは私を守ってくれていたのに。ごめんなさい。ごめんなさい」
化け物は少女の頭に手を伸ばし、かぶりついた。
少女は死ぬ間際まで、一人の男を想い――泣いていた。
少女の手は止まらず、ついに紅いマフラーの両端にたどり着く。
男の脳裏には数時間前のことが――走馬灯のように蘇っていた。
薄暗い夜の中、男は一人廃墟の前で立っていた。男の首からは紅いマフラーが垂れ下がっている。
あまり見かけないような大きなバイクに腰掛けた男は、辺りをキョロキョロと落ち着きなく見渡している。手には封筒が握られており、その口から一枚の紙が除いていた。
中には――今は廃墟となってしまった工場で、夜会いましょう。少女より――と書かれていた。
少女の登場を今か今かと待ちわびている男は、少女に好意を抱いていた。過去に何度も告白し、良い返事を貰えず、落ち込んでいたところにこの手紙。
男は返事を貰えるのではと、気持ちが舞い上がっていた。
だから――気付けなかった。迫る脅威に。
少女は気配を殺して、男の背後に忍び寄る。そしておもむろに手に持っていたナイフを男の背に振り下ろす。
「あなたが悪いのよ。私に好きなんていうから。告白なんてするから悪いのよ」
少女の手はマフラーの端を掴んで、止まった。
「ど、ど、ど、どど、どういうこと、こと、だ?」
男は恐怖心で呂律が回らない状態になっていた。少女は蔑むように笑って、男の耳元に顔を近づけた。
「どういうことも何も、ずっと私をつけまわしていたじゃない。どんなに私が怖い思いをしていたか……ストーカー殺人のニュースを見るたび私もいつかその被害者になるんじゃないかとずっと怯えていたわ。そしてもう殺られる前に殺るしかないと……」
「ち、違うんだっ……それは勘違……」
少女は掴んでいた紅いマフラーの両端を力の限り引っ張った。
「がっ!? うぎぃい、うがががっがっががががぎぎぃぃいい!」
男はじたばたと暴れた。苦しみから逃れようと必死でもがく。しかし動けば動くほど、マフラーが男の首に巻きついていく。
「あがっ! ぐぎげっ? がっ!」
少女は輝くような笑顔を顔中に貼り付けた。
「――サヨウナラ」
男はその言葉を最期に、命の灯りを失った。
少女は必死で走っていた。その後ろを全身を黒い毛皮で覆った大男が追いかけていく。
男を殺した帰り道に、遭遇してしまったのだ。――巷で噂の化け物に。
少女は考える。どうして自分がこんな目に遭うのかと。今までは遭遇することはなかったのにと。
――化け物はヒーローが退治してくれているは……ずっ! 少女は足を止めた。
少女の頬を冷たいものが流れていく。気付いてしまった。少女はヒーローの正体に気付いてしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい、涙を流しながら少女は謝り続けた。
化け物が少女の背に向けて、巨大な爪を振り下ろす。
血の噴水が辺りを染め上げる。
少女は前のめりに地面に倒れ伏した。それでもなお少女はごめんなさいと呟き続ける。
化け物は少女の上にまたがり、左腕を噛み千切る。血が噴いた。次は右腕、右足、左足と順番に食いちぎっていく。
「――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。あなたは私を守ってくれていたのに。ごめんなさい。ごめんなさい」
化け物は少女の頭に手を伸ばし、かぶりついた。
少女は死ぬ間際まで、一人の男を想い――泣いていた。
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