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夢見ループ
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「~~~~」
はっ。なんだろう変な夢を見ていたような気がする。目覚ましを見ると、まだ夜中の三時だった。中途半端な時間、眠ろうにも眠れそうにない。
喉が渇いた。ベッド脇の冷蔵庫を漁る。水があった。冷たくておいしい。
バタンとベッドに背を預ける。
「えっ?」
天井に女の人が張り付いていた。血走った目で私を見ている。女の人はニタリと笑い、長い黒髪が意思を持った生物のように私に襲い掛かる。
た、助けて。
「はあはあ」
汗が止まらない。チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
恐ろしく怖い夢を見た気がする。内容はあまり覚えていない。思い出したくもない。
コンコンとノックの音がした。思わず身構えてしまう。
「お姉ちゃん、朝ごはん出来たよ」
なんだ妹か。ほっとした。
「今、行く」
服を脱ぎ、タオルで体を拭う。汗が気持ち悪い。シャワーでも浴びようかな。
「お姉ちゃん、まだー!」
「今行くから、もう少し待ってて!」
せっかちなんだから。私は脱ぎ終わった服を畳み、ベッドの上に置いた。扉を開け、廊下に出る。
今日の朝ごはんはなんだろう。妹の喜ぶ声が聞こえる。大好きなハンバーグでも出た……あれ、というか私、妹なんていたっけ。背筋がゾクリとした。
足は止まらない。意思と反して、手が扉に伸びる。リビングには母と妹が座っていた。
「~~」
「~~」
何か言っている。でもよく聞こえない。彼女たちの顔がぐにゃりと歪む。ぐるぐるぐるぐると世界が回転し始める。気づくと床にすっぽりと穴が開いていた。
「きゃああ」
落ちる。落ちる。落ちる。嫌だ、死にたくない。まだ死にたくない。
浮遊感が消えた。誰かが手を掴んでいる。知らない男だった。足を引っ張られる。妹だった。顔を殴られた。母だった。手を切られた。妹だった。足を潰された。母だった。服を破かれた。知らない男だった。
胸を刺された。――私だった。
「はっ!」
白い天井が見えた。手はある。足もある。あぁ、また夢だったのか。
「大丈夫? うなされてたけど」
隣に男が寝ていた。私の彼氏だ。本当にそうだろうか? 彼は私の彼氏だったか。この部屋は私の部屋だったか。
分からない。何も。まだ夢の世界にいるような気がする。眠りから覚めていないような気がする。
そもそも私は存在しているのだろうか。誰かが作り出した夢の中の登場人物ではないのか。ありえないと頭の片隅で声がする。
私が夢の住民だったら、目覚めれば消えてしまうのだろうか。私を生み出した主は誰なのだろう。もしかして隣の男だろうか。男が私を生み出したのなら、男が目覚めればこの世界は終わってしまう。
嫌だ。消えたくない。なんとかしないと。どうすればいい。男を目覚めさせなければいい。どうやって。殺せばいい。死んだら永遠に目覚めない。世界は永久に保たれる。
私は男の首に手を伸ばす。
「どうしたの?」
優しい声だ。触れた肌は暖かい。夢とは思えない感触だ。現実なのだろうか。……いや、違う。私は彼なんて知らない。知らないはずだ。本当にと誰かが囁いたような気がした。
足元がぐらりと揺らぐ。何を信じればいいのだろう。現実か夢か。殺すか殺さないか。
現実の世界だったら殺さないのが正解だ。でももし夢の世界だったら、殺すのが正しい選択だ。男が目覚めれば消えてしまうのだから。
「大丈夫?」
早く早く殺さないと手遅れになってしまう。そう思うのに、私の手は凍りついたように動かない。
現実だったら私は殺人犯だ。捕まりたくはない。でも消えたくもない。どうすればいい。どの道が正しい。何をすれば正解だ。分からない分からない。私には何も分からない。
私は。私は。私は――。
はっ。なんだろう変な夢を見ていたような気がする。目覚ましを見ると、まだ夜中の三時だった。中途半端な時間、眠ろうにも眠れそうにない。
喉が渇いた。ベッド脇の冷蔵庫を漁る。水があった。冷たくておいしい。
バタンとベッドに背を預ける。
「えっ?」
天井に女の人が張り付いていた。血走った目で私を見ている。女の人はニタリと笑い、長い黒髪が意思を持った生物のように私に襲い掛かる。
た、助けて。
「はあはあ」
汗が止まらない。チュンチュンと小鳥の鳴き声が聞こえる。カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
恐ろしく怖い夢を見た気がする。内容はあまり覚えていない。思い出したくもない。
コンコンとノックの音がした。思わず身構えてしまう。
「お姉ちゃん、朝ごはん出来たよ」
なんだ妹か。ほっとした。
「今、行く」
服を脱ぎ、タオルで体を拭う。汗が気持ち悪い。シャワーでも浴びようかな。
「お姉ちゃん、まだー!」
「今行くから、もう少し待ってて!」
せっかちなんだから。私は脱ぎ終わった服を畳み、ベッドの上に置いた。扉を開け、廊下に出る。
今日の朝ごはんはなんだろう。妹の喜ぶ声が聞こえる。大好きなハンバーグでも出た……あれ、というか私、妹なんていたっけ。背筋がゾクリとした。
足は止まらない。意思と反して、手が扉に伸びる。リビングには母と妹が座っていた。
「~~」
「~~」
何か言っている。でもよく聞こえない。彼女たちの顔がぐにゃりと歪む。ぐるぐるぐるぐると世界が回転し始める。気づくと床にすっぽりと穴が開いていた。
「きゃああ」
落ちる。落ちる。落ちる。嫌だ、死にたくない。まだ死にたくない。
浮遊感が消えた。誰かが手を掴んでいる。知らない男だった。足を引っ張られる。妹だった。顔を殴られた。母だった。手を切られた。妹だった。足を潰された。母だった。服を破かれた。知らない男だった。
胸を刺された。――私だった。
「はっ!」
白い天井が見えた。手はある。足もある。あぁ、また夢だったのか。
「大丈夫? うなされてたけど」
隣に男が寝ていた。私の彼氏だ。本当にそうだろうか? 彼は私の彼氏だったか。この部屋は私の部屋だったか。
分からない。何も。まだ夢の世界にいるような気がする。眠りから覚めていないような気がする。
そもそも私は存在しているのだろうか。誰かが作り出した夢の中の登場人物ではないのか。ありえないと頭の片隅で声がする。
私が夢の住民だったら、目覚めれば消えてしまうのだろうか。私を生み出した主は誰なのだろう。もしかして隣の男だろうか。男が私を生み出したのなら、男が目覚めればこの世界は終わってしまう。
嫌だ。消えたくない。なんとかしないと。どうすればいい。男を目覚めさせなければいい。どうやって。殺せばいい。死んだら永遠に目覚めない。世界は永久に保たれる。
私は男の首に手を伸ばす。
「どうしたの?」
優しい声だ。触れた肌は暖かい。夢とは思えない感触だ。現実なのだろうか。……いや、違う。私は彼なんて知らない。知らないはずだ。本当にと誰かが囁いたような気がした。
足元がぐらりと揺らぐ。何を信じればいいのだろう。現実か夢か。殺すか殺さないか。
現実の世界だったら殺さないのが正解だ。でももし夢の世界だったら、殺すのが正しい選択だ。男が目覚めれば消えてしまうのだから。
「大丈夫?」
早く早く殺さないと手遅れになってしまう。そう思うのに、私の手は凍りついたように動かない。
現実だったら私は殺人犯だ。捕まりたくはない。でも消えたくもない。どうすればいい。どの道が正しい。何をすれば正解だ。分からない分からない。私には何も分からない。
私は。私は。私は――。
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