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明日死に逝く君へ
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君は明日死ぬ。それは避けられない運命だ。僕は知っている。君の魂の限界を。
君はきっと信じないだろう。僕の妄言だと吐き捨てるだろう。それでいい、それでいいんだ君は。
僕はそういう君をこそ好いているのだから。僕を嫌いな君をこそ愛しているのだから。
戯言だと思って聞き流してくれ。僕には人の死を視る力がある。誰がいつ死ぬのか手に取るように分かるんだ。この能力を僕は「死終」と呼んでいる。
君のエンディングは明日だ。
私には嫌いな奴がいた。神様って奴だ。
両親はいない。早くに死んだ。親戚は誰も私を引き取ろうとはしなかった。私を受け入れてくれたのは施設だった。
私と同じ境遇の子がたくさんいて、みんな優しかった。幸せだった。幸せになれると思っていた。
けど神様は残酷だ。皆死んでしまった。原因はタバコのポイ捨て。施設は跡形もなく燃えた。生き残ったのは私だけだ。
全てを失った私に手を差し伸べたのは、火事の中から救い出してくれた消防士だった。彼も彼の奥さんも優しかった。両親の愛情を知らない私に、多くの愛を与えてくれた。
でも彼は殉職し、奥さんは後を追って自殺した。私はまだ十六だった。
私の周りからは次々と大切な人がいなくなる。だから私は神様が嫌いだ。祈っても願っても叶えてくれやしない。与えてくれるのは不幸と絶望だけ。お前なんか大嫌いだ。
「だ、誰だお前は? 一体何が起きてるんだ」
空が割れていた。ぱらぱらと空の欠片が降ってくる。地面は大きく揺れ、立っていることもままならない。
それなのに目の前の男は平気な顔で驚くこともなく、ただそこに立って私を見下ろしている。
「手紙は読まなかったのかい? 君の命は今日までだと忠告したはずだ」
「あの訳の分からない手紙はお前の仕業か! 何なんだお前は? 何なんだこの状況は?」
私は怖かった。死が身近に迫っている。その事実が怖かった。
「僕は君が心底憎んでいた神様だ。ようやく会えたね。嬉しいよ」
「お前が……神?」
こいつが神。私を助けてくれなかった神。
「目的は何だ?」
訳の分からないまま死ぬのは嫌だ。今、何が起きているのかを知りたい。
「僕の目的はただ一つ――物語を終わらせることだ」
「はっ?」
言っている意味が分からなかった。
「僕だって心苦しいんだ。でも君が死なないと終わらないんだ。ごめんね、僕に才能があれば、もっとマシな人生を与えられたんだろうけど。……思いつかないんだよね、良いオチっていうのがさ」
なんだ、何を言っているんだ、この男は。分からない。分からない。分からないはずなのに、なぜ私はナイフを握っている?
「僕が思い描く君の「死終」は世界への絶望だよ。君は世界に絶望し、死を選んだ。他でもない君自身の手で終わらせるんだ。さぁ、そのナイフを自分の胸に突き刺せ。そうすればすべて終わる」
「い、嫌だ!」
手が勝手に動く。死にたくない、死にたくない。止まれ、止まれ、止まれ、頼む、止まってくれ!
「君が死ねば、世界は終わる。なぜなら、この物語は君を中心に形作られているからだ。君こそが世界の核であり、世界そのものなんだ。空が割れているのは君が死に近づいている証だよ。もう止まらないよ。僕の描いた結末はどうあがいたところで変わらない。キャラは神様には勝てない」
「――さようなら。僕の愛しい愛しい主人公さん」
「あ、あ、ああああああああ!」
君はきっと信じないだろう。僕の妄言だと吐き捨てるだろう。それでいい、それでいいんだ君は。
僕はそういう君をこそ好いているのだから。僕を嫌いな君をこそ愛しているのだから。
戯言だと思って聞き流してくれ。僕には人の死を視る力がある。誰がいつ死ぬのか手に取るように分かるんだ。この能力を僕は「死終」と呼んでいる。
君のエンディングは明日だ。
私には嫌いな奴がいた。神様って奴だ。
両親はいない。早くに死んだ。親戚は誰も私を引き取ろうとはしなかった。私を受け入れてくれたのは施設だった。
私と同じ境遇の子がたくさんいて、みんな優しかった。幸せだった。幸せになれると思っていた。
けど神様は残酷だ。皆死んでしまった。原因はタバコのポイ捨て。施設は跡形もなく燃えた。生き残ったのは私だけだ。
全てを失った私に手を差し伸べたのは、火事の中から救い出してくれた消防士だった。彼も彼の奥さんも優しかった。両親の愛情を知らない私に、多くの愛を与えてくれた。
でも彼は殉職し、奥さんは後を追って自殺した。私はまだ十六だった。
私の周りからは次々と大切な人がいなくなる。だから私は神様が嫌いだ。祈っても願っても叶えてくれやしない。与えてくれるのは不幸と絶望だけ。お前なんか大嫌いだ。
「だ、誰だお前は? 一体何が起きてるんだ」
空が割れていた。ぱらぱらと空の欠片が降ってくる。地面は大きく揺れ、立っていることもままならない。
それなのに目の前の男は平気な顔で驚くこともなく、ただそこに立って私を見下ろしている。
「手紙は読まなかったのかい? 君の命は今日までだと忠告したはずだ」
「あの訳の分からない手紙はお前の仕業か! 何なんだお前は? 何なんだこの状況は?」
私は怖かった。死が身近に迫っている。その事実が怖かった。
「僕は君が心底憎んでいた神様だ。ようやく会えたね。嬉しいよ」
「お前が……神?」
こいつが神。私を助けてくれなかった神。
「目的は何だ?」
訳の分からないまま死ぬのは嫌だ。今、何が起きているのかを知りたい。
「僕の目的はただ一つ――物語を終わらせることだ」
「はっ?」
言っている意味が分からなかった。
「僕だって心苦しいんだ。でも君が死なないと終わらないんだ。ごめんね、僕に才能があれば、もっとマシな人生を与えられたんだろうけど。……思いつかないんだよね、良いオチっていうのがさ」
なんだ、何を言っているんだ、この男は。分からない。分からない。分からないはずなのに、なぜ私はナイフを握っている?
「僕が思い描く君の「死終」は世界への絶望だよ。君は世界に絶望し、死を選んだ。他でもない君自身の手で終わらせるんだ。さぁ、そのナイフを自分の胸に突き刺せ。そうすればすべて終わる」
「い、嫌だ!」
手が勝手に動く。死にたくない、死にたくない。止まれ、止まれ、止まれ、頼む、止まってくれ!
「君が死ねば、世界は終わる。なぜなら、この物語は君を中心に形作られているからだ。君こそが世界の核であり、世界そのものなんだ。空が割れているのは君が死に近づいている証だよ。もう止まらないよ。僕の描いた結末はどうあがいたところで変わらない。キャラは神様には勝てない」
「――さようなら。僕の愛しい愛しい主人公さん」
「あ、あ、ああああああああ!」
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