おとなしあたー

音無威人

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ブレインスタンプ

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「あんた、私と付きあいなさいよ」
「ずるいわ。タカシ君は私のものなんだから」
「小娘どもよ。タカシはわらわのものじゃ」
「タ、タカシ。幼なじみの私を選ぶに決まってるわよね」
「タカシ君。先生と二人きりで授業しましょ」
 美女たちに囲まれ、タカシはニヤニヤが止まらなかった。タカシは昔からモテたわけではない。何度告白しても断られる毎日だった。
 そう――昔なら。モテ男の才能をした今、タカシは有頂天になっていた。


 世界は『ブレインスタンプ』と呼ばれる機械の誕生によって大きく変化した。ブレインスタンプはデータ化した才能を脳にインプットする装置で、後天的にスキルを獲得できる。
 否、才能とは何も技術に限った話ではない。モテるのも運が良いのもドジなのもすべて才能の一種だ。スキルは脳にインプットし、運や体質などといった才能は体に刻み込む。誰もが望む自分になれる、才能は時代になった。


「いい時代になった。次は何の才能を刻むかな」
 タカシは美女たちとのデートを終え、才能カタログを手に自室でくつろいでいた。
「天才になれる才能か。欲しいな。でもメモリ量がな」
 才能は無制限に脳に刻めるわけではない。才能を刻み込める領域はメモリ領域と呼ばれており、その大きさには個人差がある。才能のデータ量はメモリ量と称されている。
 メモリ領域が十だとすると、才能のメモリ量の合計も十に抑える必要がある。ビギナーレベルのメモリ量は少ないが、プロレベルの才能ともなるとメモリ量も桁外れの大きさだ。
「まぁ、いい。女にモテさえすれば。次はナンパの才能でも手に入れるか」
 特殊な才能でもない限り、メモリ量は総じて低い。ナンパの才能は誰もが持っているものではないが、特殊というほど特別な才でもない。
 タカシはメモリ領域が多い方ではなかった。だから質よりも量を選んだ。低レベルのスキルでも多く揃えれば、天才にも勝てる。
 それがタカシの考え方であり、持たざる者が選んだ生きる道でもあった。何の才能もなかったタカシにとって、ブレインスタンプは希望だった。
 

「まさか。深窓の令嬢まで俺に落ちるとは。モテ男と巧みな話術の才能の合わせ技だな」
「タカシ君。私は君がここまでイイ男とは知らなかった。胸がドキドキしてる」
 タカシは深窓の令嬢を胸に抱きよせた。彼女は耳まで赤く染まっている。学園のマドンナすらタカシは掌握してしまった。
 外を歩けば女が釣れる。何も言わなくても女が近寄ってくる。話しかければ口説き落とせる。今までの人生は何だったのかと思うような巡分満帆な日々に笑いが止まらなかった。
「はっはっはっ。ブレインスタンプはなんて素晴らしいんだ。俺はなんでもできる。すべて俺の思い通りだ」




「どうしたらいいんでしょうか。私心配で心配で」
 中年女性と白衣を着た男が、部屋の前で向かい合っていた。扉には『タカシの部屋』と書かれている。
「治療法は一つです。タカシ君の脳に刻んだ才能を取り除くしかありません。問題は彼が応じてくれるかどうかですが……私も精一杯力を尽くします」
 中年女性は涙を流しながら頭を下げた。
「タカシを……息子をよろしくお願いします」



 タカシの脳のメモリ領域は僅かしなかった。一つの才能しか刻めず、選べる才能はメモリ量が一のものだけ。誰もが羨ましがるような才能を刻む"才能"が彼にはなかった。
 絶望した彼が選んだのは――の才能だった。
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