14 / 45
たかが
しおりを挟む
「どこへ、どこへやった!? 僕の大切な、大切なコレクションを」
身体は激しく震え、目は赤く充血している。男は今にも死にそうな顔をしていた。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない……」
女は怯えたように男から距離を取っている。
「怒るに決まっているだろ! 僕の大切なフィギュアを勝手に捨てて……なぜ怒らないと思うんだ? 誰だって大事なものを蔑ろにされたら怒る。お前はそんなことも分からないのか?」
男は女の肩を掴み詰め寄った。女は表情を歪め、男の手を振り払った。
「フィギュアって……あんなのただのおもちゃでしょ。大げさなのよ」
吐き捨てるような表情で女は言い放った。
「ただの……?」
男の顔から表情が消えた。その目には何の感情も浮かんではいない。ただ女の顔をじっと見つめるばかりだ。
しびれを切らしたように女は叫んだ。
「な、何よ! たかがおもちゃを捨てたくらいで、何で私が怒られなきゃいけないのよ。大切ならちゃんとしまっておきなさいよ。邪魔なところに置いてるあなたが悪いんじゃ……きゃっ?」
女は突き飛ばされた。男は女の髪を鷲掴みにし、力任せに引っ張る。
「い、痛い。止めて、は、離して」
男は女の頭を床に打ち付けた。何度も何度も何度も何度も。女が声を上げなくなるまで。
「なぜ殺した?」
うすぼんやりとした室内で二人の男が向かい合っていた。
「僕のフィギュアを捨てたからです」
刑事の問いに男は正直に答える。
「フィギュア? たかがそんなことで人を殺したのか貴様は!」
刑事はバンッと机を強く叩いた。その表情には劣化のごとき怒りが表れている。
「たかが? 僕にとってはたかがで済む出来事じゃない。僕の大事な宝物だったんです。僕の生きがいだったんです。彼女はそんな僕の宝物を奪ったんですよ。許されるはずがない。許していいはずがない。罪には罰が与えられるべきなんだ」
男は刑事の鋭い眼光に一切怯むことなく、自らの思いを語った。
「大事な宝物だったとしても人を殺していい理由にはならない。貴様は自分がどれほどの罪を犯したのか分かっていないのか!」
刑事は男の胸倉を掴んだ。今にも殴りかかりそうな勢いに、もう一人の警官が割って入る。
「気持ちは分かりますけど。暴力はダメですよ!」
小さく舌打ちをし、刑事は手を離した。男は不思議そうに首をかしげている。
「何がおかしい」
「いや、人を殺したくらいで大げさだなと思って」
何の悪気もなさそうに答える男に、刑事はなぐりかかった。今度は警官も止めなかった。
「大げさだと? 貴様は人の命を何だと思ってるんだ!」
男はポツリと答えた。
「――たかが"命"でしょ?」
身体は激しく震え、目は赤く充血している。男は今にも死にそうな顔をしていた。
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない……」
女は怯えたように男から距離を取っている。
「怒るに決まっているだろ! 僕の大切なフィギュアを勝手に捨てて……なぜ怒らないと思うんだ? 誰だって大事なものを蔑ろにされたら怒る。お前はそんなことも分からないのか?」
男は女の肩を掴み詰め寄った。女は表情を歪め、男の手を振り払った。
「フィギュアって……あんなのただのおもちゃでしょ。大げさなのよ」
吐き捨てるような表情で女は言い放った。
「ただの……?」
男の顔から表情が消えた。その目には何の感情も浮かんではいない。ただ女の顔をじっと見つめるばかりだ。
しびれを切らしたように女は叫んだ。
「な、何よ! たかがおもちゃを捨てたくらいで、何で私が怒られなきゃいけないのよ。大切ならちゃんとしまっておきなさいよ。邪魔なところに置いてるあなたが悪いんじゃ……きゃっ?」
女は突き飛ばされた。男は女の髪を鷲掴みにし、力任せに引っ張る。
「い、痛い。止めて、は、離して」
男は女の頭を床に打ち付けた。何度も何度も何度も何度も。女が声を上げなくなるまで。
「なぜ殺した?」
うすぼんやりとした室内で二人の男が向かい合っていた。
「僕のフィギュアを捨てたからです」
刑事の問いに男は正直に答える。
「フィギュア? たかがそんなことで人を殺したのか貴様は!」
刑事はバンッと机を強く叩いた。その表情には劣化のごとき怒りが表れている。
「たかが? 僕にとってはたかがで済む出来事じゃない。僕の大事な宝物だったんです。僕の生きがいだったんです。彼女はそんな僕の宝物を奪ったんですよ。許されるはずがない。許していいはずがない。罪には罰が与えられるべきなんだ」
男は刑事の鋭い眼光に一切怯むことなく、自らの思いを語った。
「大事な宝物だったとしても人を殺していい理由にはならない。貴様は自分がどれほどの罪を犯したのか分かっていないのか!」
刑事は男の胸倉を掴んだ。今にも殴りかかりそうな勢いに、もう一人の警官が割って入る。
「気持ちは分かりますけど。暴力はダメですよ!」
小さく舌打ちをし、刑事は手を離した。男は不思議そうに首をかしげている。
「何がおかしい」
「いや、人を殺したくらいで大げさだなと思って」
何の悪気もなさそうに答える男に、刑事はなぐりかかった。今度は警官も止めなかった。
「大げさだと? 貴様は人の命を何だと思ってるんだ!」
男はポツリと答えた。
「――たかが"命"でしょ?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
兵頭さん
大秦頼太
ホラー
鉄道忘れ物市で見かけた古い本皮のバッグを手に入れてから奇妙なことが起こり始める。乗る電車を間違えたり、知らず知らずのうちに廃墟のような元ニュータウンに立っていたりと。そんなある日、ニュータウンの元住人と出会いそのバッグが兵頭さんの物だったと知る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
扉の向こうは黒い影
小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。
夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
悪魔の家
光子
ホラー
バス事件に巻き込まれた乗客達が、生きて戻れないと噂される悪魔の森で、悲惨な事件に巻き込まれていくーー。
16歳の少女あかりは、無事にこの森から、生きて脱出出来るのかーー。
辛い悲しい人間模様が複雑に絡み合うダークな物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
【失言ホラー 二言目】励ましたつもりだったのに【なずみのホラー便 第162弾】
なずみ智子
ホラー
本作は「カクヨム」「アルファポリス」「エブリスタ」の3サイトで公開中です。
【なずみのホラー便】のネタバレ倉庫も用意しています。
⇒ https://www.alphapolis.co.jp/novel/599153088/606224994
★リアルタイムでのネタバレ反映ではなく、ちまちま更新予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
もしもし、あのね。
ナカハラ
ホラー
「もしもし、あのね。」
舌足らずな言葉で一生懸命話をしてくるのは、名前も知らない女の子。
一方的に掛かってきた電話の向こうで語られる内容は、本当かどうかも分からない話だ。
それでも不思議と、電話を切ることが出来ない。
本当は着信なんて拒否してしまいたい。
しかし、何故か、この電話を切ってはいけない……と……
ただ、そんな気がするだけだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる