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ぽつんと「い」世界~凡人の俺は誰もいない世界に一人きり~

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「なんだここは?」

 彼は自宅でテレビを見ていた――はずだった。ほんの一瞬の瞬き。数秒にも満たないわずかな時間で、周囲の光景は一変していた。

 一面荒れ果てた砂漠。じりじりと照りつける太陽が彼の体力と思考を奪う。何も考えることができなかった。訳の分からないまま、彼は歩いた。ひたすらに目的もなく、ただただ歩き続けた。

 ざくざくと砂を踏む音以外何も聞こえない。風すら吹いていなかった。草も木も花も水もない。生命の気配すら感じない。

 誰もいない。何もない。ただ――砂だけがあった。







 彼はバタリと地面に倒れた。変わり映えのしない景色に、体力よりも先に精神面が限界を迎えたのだ。

「み、水」

 喉もカラカラに乾いている。ポケットを探るが何も出てこない。

 諦めかけたそのとき、彼の目が水色の何かを捉えた。――まさか。彼は走った。崩れ落ちそうになる体に鞭打って、必死で走った。

「やった……やったぞ! 湖だ!」

 彼は湖の縁に座り、水の中に手を入れた。その瞬間、湖から赤い物体が飛び出した。

「な、何だ!?」

 赤い物体は細長かった。表面はザラザラしている。彼の体にぐるりとまとわりつき、凄まじいスピードと力で湖の中に引きずり込んだ。彼は必死でもがくが、すでに後の祭りだった。

 彼が最後に見たのは湖の底に沈む骨の数々と、そして巨大な――穴だった。







「いてて、なんだここは?」

「何、何が起きたの?」

 少年たちは遠足を楽しんでいた。そのはずだった。気がつくと、彼らは砂漠のど真ん中にいた。

「み、みんな落ち着ついて」

 一際高い女性の声が周囲一帯に響く。ざわめきは止まない。

「家に帰りたいよー」

「うわーん、ママー!」

 一人の少年が駆け出した。後を追うように、子供たちが思い思いの方向へと走っていく。

「ま、待ちなさい」

 女性は叫ぶも誰も耳を傾けない。はぁ、とため息をつき、がっくりと肩を落とす。足元に小さな違和感。

 視線を下に向けると、流砂が発生していた。がくっと足が沈む。もがけばもがくほど、体は砂に埋まっていく。

「だ、誰か助けてー!」

 彼女の叫びは誰にも届かなかった。辺りはシーンと静まり返っている。

 砂漠を照らす太陽がギョロリと動く。まるで何かを探すようにせわしなく動いている。表面には巨大な目が浮かび上がっていた。



『ようこそ、僕の"胃"世界へ』



 どこからともなく低い声が聞こえる。やがて――。

「きゃー」

「やめてー」

「いやだ、いやだ。まだ死にたくないよー!」

 子供たちの悲痛な叫びが辺り一帯に響いた。
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