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「うわぁ、引くわー。自分を好いてる子に他の子をあてがうとか私でもしないわよ」
「う……っ」
類瀬博士の容赦ない言葉に胸が抉られる。
確かにそう聞こえなくもないが、いや、でも違う、違うんだ……ッ!
「譲、安心して」
頭を抱える俺に、優しい声が上から降ってきた。顔を上げるとユキヒロがにこりと笑った。
「俺が勝てばいいだけの話じゃん。つーかこのポンコツに俺が負けるわけないでしょ」
「ユキヒロ……!」
今まで大っ嫌いだったその不敵な笑みが、この瞬間だけは救いの女神のように見えた。
打倒ユキヒロを目標として作ったのに変な話だが、今回だけは何が何でもユキヒロに勝って欲しい。
「た、頼んだぞ、ユキヒ――」
「でもこのポンコツにはご褒美があって俺にはないってずるいよね」
「え?」
思いがけない言葉に、嫌な予感が胸によぎった。
ユキヒロがにやりと口の端を上げた。
「俺は譲とそこのポンコツと違ってもうとっくの昔に男になってるから、俺が勝った時は譲が俺の女になってね」
「はぁぁぁぁ!?」
俺は思わずフロアに響き渡るほどの大きな声を上げた。
「ちょっと佐久間君、迷惑よ」
面倒くさそうに類瀬博士が注意するが、それどころではない。
「い、いや、だって、こいつが……!」
「そうです、こいつが変なことを言うから悪いんです!」
俺を庇うように言ってから、京司郎は目尻を吊り上げユキヒロに向き直った。
「貴様なにふざけたことを言っている! そんなこと許されるわけがないだろう!」
激昂する京司郎に、ユキヒロが鼻で笑った。
「あれ? もしかして勝つ自信がないの?」
ピクリ、と京司郎の整った眉が引き攣った。
「だよねぇ、俺に一回も勝ったこともないもんね。それは弱気になるよなぁ。負けた上に大好きな大好きな主殿が俺の女になるなんて俺だったら耐えられない」
ケラケラと悪意に満ちた笑いを漏らすユキヒロに、京司郎のこめかみからブチ、と血管が切れるような音がした……気がした。
「上等だ……っ。やってやろうじゃないか。その代わり俺が勝ったら金輪際、俺と主の前に姿を現すなよ、この下衆野郎が……ッ」
怒気がほとばしる低い声に、これは本当に俺の知る京司郎なのだろうかと知らず体がガタガタ震えた。
「じゃあ決まりだね。あー、明日が楽しみだなぁ」
「本当に楽しみです。俺と主が結ばれる上に、邪魔者がいなくなるなんて夢のよう……」
「い、いや、ちょっと待て! なんで当事者の俺の意見無視で話進んでるわけ!? おかしいだろ!?」
しかし、俺がどれだけ異議を唱えようとも二人の耳に届くことはなかった……。
―了―
「う……っ」
類瀬博士の容赦ない言葉に胸が抉られる。
確かにそう聞こえなくもないが、いや、でも違う、違うんだ……ッ!
「譲、安心して」
頭を抱える俺に、優しい声が上から降ってきた。顔を上げるとユキヒロがにこりと笑った。
「俺が勝てばいいだけの話じゃん。つーかこのポンコツに俺が負けるわけないでしょ」
「ユキヒロ……!」
今まで大っ嫌いだったその不敵な笑みが、この瞬間だけは救いの女神のように見えた。
打倒ユキヒロを目標として作ったのに変な話だが、今回だけは何が何でもユキヒロに勝って欲しい。
「た、頼んだぞ、ユキヒ――」
「でもこのポンコツにはご褒美があって俺にはないってずるいよね」
「え?」
思いがけない言葉に、嫌な予感が胸によぎった。
ユキヒロがにやりと口の端を上げた。
「俺は譲とそこのポンコツと違ってもうとっくの昔に男になってるから、俺が勝った時は譲が俺の女になってね」
「はぁぁぁぁ!?」
俺は思わずフロアに響き渡るほどの大きな声を上げた。
「ちょっと佐久間君、迷惑よ」
面倒くさそうに類瀬博士が注意するが、それどころではない。
「い、いや、だって、こいつが……!」
「そうです、こいつが変なことを言うから悪いんです!」
俺を庇うように言ってから、京司郎は目尻を吊り上げユキヒロに向き直った。
「貴様なにふざけたことを言っている! そんなこと許されるわけがないだろう!」
激昂する京司郎に、ユキヒロが鼻で笑った。
「あれ? もしかして勝つ自信がないの?」
ピクリ、と京司郎の整った眉が引き攣った。
「だよねぇ、俺に一回も勝ったこともないもんね。それは弱気になるよなぁ。負けた上に大好きな大好きな主殿が俺の女になるなんて俺だったら耐えられない」
ケラケラと悪意に満ちた笑いを漏らすユキヒロに、京司郎のこめかみからブチ、と血管が切れるような音がした……気がした。
「上等だ……っ。やってやろうじゃないか。その代わり俺が勝ったら金輪際、俺と主の前に姿を現すなよ、この下衆野郎が……ッ」
怒気がほとばしる低い声に、これは本当に俺の知る京司郎なのだろうかと知らず体がガタガタ震えた。
「じゃあ決まりだね。あー、明日が楽しみだなぁ」
「本当に楽しみです。俺と主が結ばれる上に、邪魔者がいなくなるなんて夢のよう……」
「い、いや、ちょっと待て! なんで当事者の俺の意見無視で話進んでるわけ!? おかしいだろ!?」
しかし、俺がどれだけ異議を唱えようとも二人の耳に届くことはなかった……。
―了―
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