上 下
9 / 9

8

しおりを挟む
「うわぁ、引くわー。自分を好いてる子に他の子をあてがうとか私でもしないわよ」
「う……っ」

 類瀬博士の容赦ない言葉に胸が抉られる。

 確かにそう聞こえなくもないが、いや、でも違う、違うんだ……ッ!

「譲、安心して」

 頭を抱える俺に、優しい声が上から降ってきた。顔を上げるとユキヒロがにこりと笑った。

「俺が勝てばいいだけの話じゃん。つーかこのポンコツに俺が負けるわけないでしょ」
「ユキヒロ……!」

 今まで大っ嫌いだったその不敵な笑みが、この瞬間だけは救いの女神のように見えた。
 打倒ユキヒロを目標として作ったのに変な話だが、今回だけは何が何でもユキヒロに勝って欲しい。

「た、頼んだぞ、ユキヒ――」
「でもこのポンコツにはご褒美があって俺にはないってずるいよね」
「え?」

 思いがけない言葉に、嫌な予感が胸によぎった。
 ユキヒロがにやりと口の端を上げた。

「俺は譲とそこのポンコツと違ってもうとっくの昔に男になってるから、俺が勝った時は譲が俺の女になってね」
「はぁぁぁぁ!?」

 俺は思わずフロアに響き渡るほどの大きな声を上げた。

「ちょっと佐久間君、迷惑よ」

 面倒くさそうに類瀬博士が注意するが、それどころではない。

「い、いや、だって、こいつが……!」
「そうです、こいつが変なことを言うから悪いんです!」

 俺を庇うように言ってから、京司郎は目尻を吊り上げユキヒロに向き直った。

「貴様なにふざけたことを言っている! そんなこと許されるわけがないだろう!」

 激昂する京司郎に、ユキヒロが鼻で笑った。

「あれ? もしかして勝つ自信がないの?」

 ピクリ、と京司郎の整った眉が引き攣った。

「だよねぇ、俺に一回も勝ったこともないもんね。それは弱気になるよなぁ。負けた上に大好きな大好きな主殿が俺の女になるなんて俺だったら耐えられない」

 ケラケラと悪意に満ちた笑いを漏らすユキヒロに、京司郎のこめかみからブチ、と血管が切れるような音がした……気がした。

「上等だ……っ。やってやろうじゃないか。その代わり俺が勝ったら金輪際、俺と主の前に姿を現すなよ、この下衆野郎が……ッ」

 怒気がほとばしる低い声に、これは本当に俺の知る京司郎なのだろうかと知らず体がガタガタ震えた。

「じゃあ決まりだね。あー、明日が楽しみだなぁ」
「本当に楽しみです。俺と主が結ばれる上に、邪魔者がいなくなるなんて夢のよう……」
「い、いや、ちょっと待て! なんで当事者の俺の意見無視で話進んでるわけ!? おかしいだろ!?」

 しかし、俺がどれだけ異議を唱えようとも二人の耳に届くことはなかった……。
                    
                                     ―了―
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

かまどさん
2019.11.20 かまどさん

めっちゃ面白かったです!
スペック高いのに困り者の攻めをかかせたら作者様の右に出る者はいないのではないでしょうか
受けが形式じゃなく本気で嫌がってるのも楽しいです
ニヤニヤしながら読んでしまいました
これからも頑張って下さい

綺沙きさき(きさきさき)
2019.11.23 綺沙きさき(きさきさき)

かまどさん様

感想ありがとうございます!!
ハイスペック残念攻めが好きなので、そのような有り難いお言葉を頂き光栄です……!!
ラブラブが書けないのがコンプレックスなので、受けが本気で嫌がっているの好きと言ってもらえて嬉しいです!
いやよいやよも好きのうちをモットーにこれからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!

解除
霜月 幽
2019.10.24 霜月 幽

 とても楽しいお話でした。真面目に勘違いしている主人公へ、ひたすらブレないまっすぐアンドロイド君。幼馴染君とどっちを応援したら良いのやら迷います。(笑)
 どう転んでも逃げられない主人公君が可哀そうといいながら、つい笑ってしまいます。この先を読んでみたいような、このままのほうが幸せ? なのか。
 素敵なお話をありがとうございました。
 この感想を書きたくて、初めてこのサイトに来て登録いたしました。(^▽^)

綺沙きさき(きさきさき)
2019.10.26 綺沙きさき(きさきさき)

霜月幽様

感想ありがとうございます!!
この作品にはじめて感想をいただき、飛び上がるほど嬉しかったです!
しかも感想を書くためにサイト登録してくださったとか、神ですか…!!(感動)
主人公にとってはここで止まった方が幸せでしょうね笑
対局の後、どちらかに抱かれることは不可避なので笑
いつも丁寧な感想ありがとうございます!
本当に元気をいただきました…!!

解除

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果

はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。