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「ただでさえ容量がいっぱいなんですからこれ以上余計な機能はつけれませんよ」
なぜ天才と謳われる彼女にこんな初歩的なことを説明しないといけないのかと、俺は溜め息を吐いた。
棋士アンドロイドは、人間に似せた所作や言動、表情などの高度な機能に加えて、複雑な将棋プログラムも搭載するため無駄な機能は減らさなければならない。あらゆる機能を複雑に、しかも同時に稼動させなければならないため負荷がかかるのだ。
将棋コンピューターが人間に勝利してから久しいが、棋士アンドロイドとなるとその勝率は格段に下がるのはそこに原因がある。
「人間もアンドロイドもたまにはご褒美がないと頑張れないわよ」
「類瀬殿……!」
京司郎が救いの女神でも見るかのように目を輝かせた。
「さすが類瀬殿は分かってらっしゃる」
「可愛い息子のお願いだものねぇ。叶えてやりたいっていうのが親心ってやつよ」
ふふふ、と和やかに笑い合いながら、話が着実に男性器をとりつける方向に向かっている。
これはよくないと、俺は慌てて口をはさんだ。
「いや、確かにご褒美も大事だと思いますよ。俺だっていつも頑張っている京司郎のお願いはきいてあげたい。でも、棋士アンドロイドとしては勝つことがまず大前提ですし……」
「じゃあこういうのはどう?」
長々と続く俺の言葉が面倒になったのか、類瀬博士は溜め息を吐いて言った。
「今度の対局で伊大知征弘九段に勝てたらつけてあげるのは?」
男の名前に京司郎の眉がピクリと神経質に動いた。
伊大知征弘――名人である父、祖父の才能を凌ぐと言われている男で、その上顔立ちがモデルのように整っているため将棋界の貴公子との異名を持ついけ好かない奴だ。
そして俺の幼馴染みでもある。それ故に、奴の性格の悪さはよく知っている。だからからこそ、こうして将棋界で天才の名を欲しいままにし、なおかつ女の子にモテまくりだということが許せない。
京司郎を造ったのも、こいつを打ち負かすのが理由の一つでもある。
俺が憎悪と言っても過言でもないくらいの黒い感情を抱いているせいか、京司郎もユキヒロをひどく嫌っている。俺が会場でユキヒロに絡まれると鬼の形相で間に入ってくるほどだ。
「なるほど、それはいい案ですね。あの男を打ち負かしなおかつ主殿に俺を男にしてもらえる……分かりました、そうしましょう」
黒い笑みを浮かべ承諾する京司郎に、なぜか背中にぞわぞわと鳥肌が立った。
「佐久間君はそれでいい?」
「え、あ、はい、じゃあそれで……」
ついでのような軽さで同意を求められ、なぜ唯我独尊を地で行く彼女が一介の助手に過ぎない俺の同意を確認するのか首を傾げつつ頷いた。
「はーい、じゃあ決定~! ということで京司郎ちゃん、頑張ってね」
「はい、精進致します」
ぽん、と類瀬博士に肩を叩かれた励まされた京司郎は頭を下げると、俺にくるりと向き直った。
「主殿、必ずや伊大知征弘に勝ってみせますね」
「あ、ああ、頼んだぞ……」
ずい、と近付いてきた京司郎の闘志が燃える瞳に気圧されつつも、俺は何とか頷き返した。
その日から妙に熱の入った京司郎との将棋の猛特訓が始まった。
なぜ天才と謳われる彼女にこんな初歩的なことを説明しないといけないのかと、俺は溜め息を吐いた。
棋士アンドロイドは、人間に似せた所作や言動、表情などの高度な機能に加えて、複雑な将棋プログラムも搭載するため無駄な機能は減らさなければならない。あらゆる機能を複雑に、しかも同時に稼動させなければならないため負荷がかかるのだ。
将棋コンピューターが人間に勝利してから久しいが、棋士アンドロイドとなるとその勝率は格段に下がるのはそこに原因がある。
「人間もアンドロイドもたまにはご褒美がないと頑張れないわよ」
「類瀬殿……!」
京司郎が救いの女神でも見るかのように目を輝かせた。
「さすが類瀬殿は分かってらっしゃる」
「可愛い息子のお願いだものねぇ。叶えてやりたいっていうのが親心ってやつよ」
ふふふ、と和やかに笑い合いながら、話が着実に男性器をとりつける方向に向かっている。
これはよくないと、俺は慌てて口をはさんだ。
「いや、確かにご褒美も大事だと思いますよ。俺だっていつも頑張っている京司郎のお願いはきいてあげたい。でも、棋士アンドロイドとしては勝つことがまず大前提ですし……」
「じゃあこういうのはどう?」
長々と続く俺の言葉が面倒になったのか、類瀬博士は溜め息を吐いて言った。
「今度の対局で伊大知征弘九段に勝てたらつけてあげるのは?」
男の名前に京司郎の眉がピクリと神経質に動いた。
伊大知征弘――名人である父、祖父の才能を凌ぐと言われている男で、その上顔立ちがモデルのように整っているため将棋界の貴公子との異名を持ついけ好かない奴だ。
そして俺の幼馴染みでもある。それ故に、奴の性格の悪さはよく知っている。だからからこそ、こうして将棋界で天才の名を欲しいままにし、なおかつ女の子にモテまくりだということが許せない。
京司郎を造ったのも、こいつを打ち負かすのが理由の一つでもある。
俺が憎悪と言っても過言でもないくらいの黒い感情を抱いているせいか、京司郎もユキヒロをひどく嫌っている。俺が会場でユキヒロに絡まれると鬼の形相で間に入ってくるほどだ。
「なるほど、それはいい案ですね。あの男を打ち負かしなおかつ主殿に俺を男にしてもらえる……分かりました、そうしましょう」
黒い笑みを浮かべ承諾する京司郎に、なぜか背中にぞわぞわと鳥肌が立った。
「佐久間君はそれでいい?」
「え、あ、はい、じゃあそれで……」
ついでのような軽さで同意を求められ、なぜ唯我独尊を地で行く彼女が一介の助手に過ぎない俺の同意を確認するのか首を傾げつつ頷いた。
「はーい、じゃあ決定~! ということで京司郎ちゃん、頑張ってね」
「はい、精進致します」
ぽん、と類瀬博士に肩を叩かれた励まされた京司郎は頭を下げると、俺にくるりと向き直った。
「主殿、必ずや伊大知征弘に勝ってみせますね」
「あ、ああ、頼んだぞ……」
ずい、と近付いてきた京司郎の闘志が燃える瞳に気圧されつつも、俺は何とか頷き返した。
その日から妙に熱の入った京司郎との将棋の猛特訓が始まった。
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