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1巻
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辛そうに語るローマンに、ダリルもまた心が苦しくなって俯いた。
子供は得てして大人の感情に敏感なものだ。それが自分への負の感情であればなおさらだ。
まだ姿も見ていないが、ダリルはカイルに同情せずにはいられなかった。高額な給金に飛びついて意気揚々とやって来た自分が恥ずかしくなった。
「……貴方は呪いが怖くないのですか?」
ローマンが真っ直ぐ目を見据えて訊いてきた。ダリルは強く頷き返した。
「もちろんです。怖かったらここに来ていません。私は怖いものや嫌なものからは全力で逃げるタイプなので」
「そうですか」
冗談めかして言うダリルの返答に、ローマンは安堵するように目尻を下げた。
「ローマンさんは怖くないのですか?」
「もちろんです。怖かったらとっくの昔に隠居していますよ。それに私は老い先短い。呪いなど怖くありません」
「老い先短いって、まだまだお若いじゃないですか」
背筋がピンと伸びている凛とした佇まいや、穏やかでありながら強い意志を秘めたその瞳には、老いの兆しは感じられない。
「いえいえ、しっかりと体は歳をとっていますよ。本当はカイル様のお世話も私ひとりでやっていこうと思っていたのですが、老体にはなかなか厳しいものがありまして……。それで今回、新しく使用人を雇うことにしたのです」
ローマンが不甲斐なさそうに苦笑しながら腰を擦って言った。
「けれど、来てくれたのが貴方のような人で本当によかった。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダリルは差し出されたローマンの手を力強く握り返した。
「至らない点が多々あると思いますので、いろいろと教えてください」
「ええ、ビシバシと指導しますよ」
「はは、お手柔らかにお願いします」
冗談めかして言うローマンに、ダリルは笑って答えた。
その後は応接間を出て屋敷内を案内してもらった。屋敷自体は大きいものの、特段複雑な造りではないので、迷うようなことはなさそうだった。
(部屋数は多いから場所を覚えるのに苦労しそうだけど……)
胸の内で苦笑していると、ローマンが足を止めて振り返った。
「何かここまでで質問はありますか?」
「いえ、特にありません。働き始めたら分からないことが出てくると思いますので、その時にまた質問させてください」
「ええ、もちろん構いませんよ。気構える必要はありませんから、焦らずゆっくり覚えてください。――それでは最後に、カイル様のお部屋にご案内します」
実質、この屋敷の主であるカイルの名前にドキッとした。
決して呪いが怖いわけではない。ただ、相手は呪いの噂のせいでこれまでたくさん傷つけられてきた子供だ。言葉や態度には気をつけなければという緊張があった。
「緊張しますか?」
心の内を覗いたかのような問いに、ドキリとする。ローマンは優しく微笑んで「大丈夫ですよ」と言った。
「きっとカイル様はダリルさんを気に入りますよ。私が保証します」
優しく、しかしどこか力強くそう言われ、ダリルは少しだけ緊張を緩めることができた。
「ローマンさんの保証付きなら心強いです」
「ふふ、光栄です」
ローマンは嬉しそうに微笑むと、再び歩みを進め始めた。
屋敷のことについて補足の説明をしながら歩いていたローマンだったが、一際大きい扉の前で足を止めた。
「こちらがカイル様のお部屋でございます」
ダリルにそう言ってから、ローマンはドアをノックした。
「カイル様、いらっしゃいますか?」
「……ローマンか。何の用だ?」
やや間があって返ってきた声に、少し驚く。
確かに声は子供のものなのだが、暗く陰鬱な雰囲気はおよそ子供らしくない。声の幼さを除けば、世間を嫌厭して人里離れた森にこもる老人のようだ。
「先日お話した新しい使用人が来ました」
「ああ、そういえばそのような話をしていたな」
「挨拶をさせていただきたいので、中に入ってもよろしいですか」
言いながらドアノブに手をかけようとしたローマンだったが「だめだ」と部屋から寄越された冷たい返答を聞いて、その手を止めた。
「どうしてですか」
「どうせすぐにいなくなる。会うだけ時間の無駄だ」
「そんなことはありません」
「いや、無駄だ。現に今だって僕の読書の時間を無駄にしている」
「しかし――」
「くどいぞ、ローマン」
言い募るローマンを鋭い声が遮る。これ以上口を開くことは許さないという無言の圧が、ドア越しからでもひしひしと感じられた。
「とにかく僕はローマン以外の者と会うつもりはない。以上だ」
強引に話を打ち切ってドアの前から去ろうとするカイルの姿が、声の冷ややかさから容易に想像できた。
触らぬ神に祟りなし。そのまま黙っていればよかったのだが、ダリルはつい「あのっ」と呼び止めてしまった。
「……なんだ?」
冷たく不機嫌な声に怯みつつも、背筋を正してドアに向き直った。
「よければ名前だけでも名乗らせてください。名前が分からないと不便でしょうし」
「……」
返事はなかった。しかし、これまでのはっきりとした物言いから察するに、名乗ることさえ許さないのであれば、即座に「だめだ」と答えるはずだ。
そうしないということは、挨拶をするくらいの余地はあるのではないだろうか、とダリルは言葉を続けた。
「ダリル・コッドと申します。至らない点もあると思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
姿は見えないが礼儀を尽くして挨拶をする。しかし、ドアの向こうは沈黙したままだった。
もしかすると、図々しい使用人に呆れて部屋の奥へ戻ってしまったのではないかと思った時、沈黙が破られた。
「……ダリル・コッド」
思いもよらず名前を呼ばれ、弾けるようにして顔を上げた。
「は、はいっ、何でしょうか」
「ここに長くいたいのなら、守ることは三つだけだ。一つ、僕の前に姿を現さないこと。二つ、陰口は僕が近くにいないことをちゃんと確認してからすること。三つ、僕の顔を見ないこと――以上だ」
それだけ言うと足音を鳴らし、今度こそドアの向こうから気配を消した。
残されたダリルとローマンはどちらともなく互いに顔を見合わせた。
ダリルのことを気に入ると断言した手前、ローマンは気まずそうな表情をしており、そのことが一層ダリルを申し訳ない気持ちにさせた。
こうして、ダリルの第二の人生――ハウエル公爵家での使用人生活は、やや苦いつまずきはありつつも、幕を開けたのだった。
****
ハウエル公爵家の使用人の朝は早い。
厨房の料理人は朝食の準備を、新人のダリルは暖炉や主が使う部屋の掃除を始める。
主の使う部屋、と言ってもカイルはほとんど自室兼寝室にこもったままだ。食事も自室でとっており、三食ともローマンが部屋に運んでいる。
しかし、いつ気まぐれに部屋を出るか分からない。それにカイルの父であるカーティスも、今は繁忙期でなかなか別邸には来られないようだが、仕事が落ち着けばカイルの様子を見に来るようだ。普段は使わないからといって手を抜くことは許されない。
(高い給料をもらってるからそれなりの働きをしないとな。それに――)
掃除する部屋を移動している際、たまたま通りかかったカイルの部屋の前で足を止める。
あのドア越しの挨拶以来、ほとんどカイルとは関わりがない。カイルの身の回りの世話係として雇われたのに、と不甲斐なさを感じるほどだ。
ローマンは『カイル様にも少しずつ慣れてもらいましょう。焦ることはありませんよ』と優しく言ってくれたが、心苦しいばかりだ。
(まぁ、俺ひとりでどうにかなる問題じゃないし、信頼を得られるように今はできることをしよう)
掃除道具の入った木製バスケットを抱え直して、次の場所へ足早に向かった。
カイルの朝食の皿が下げられてから少し時間を置いて、ダリルは木製バスケットを携えてカイルの部屋へ向かった。
カイルの身の回りの世話のほとんどはローマンが請け負っているが、カイルの部屋の掃除はダリルが担当している。
まずはカイルの居住スペースにダリルが馴染むことで、カイルにダリルの存在にも慣れてもらおうというのがローマンの狙いだったが、これがなかなかうまくいかなかった。
「おはようございます。部屋の掃除に参りました」
ノックしてドア越しにそう伝える。
「……分かった。一分後に入れ」
すると、いつも通り神経質な声が返ってきた。
「はい」
ダリルは小さく溜め息をついてから、胸の内で数えた。
「――一分経ちました」
「……」
返事はない。つまり、入ってもいいということだ。
「失礼します」
部屋に入るが、カイルの姿はない。
ダリルは部屋の隅にバスケットを置いて、クローゼットの前に立った。
「今から掃除をさせていただきます。すぐに終わらせますので少々お待ちください」
「……」
やはり返事はない。だが、クローゼットの中にいることは分かっている。
初日、ローマンと掃除に来た時は、まさかクローゼットに隠れるなどと思ってもいなかったので驚いたが、今ではもう慣れてしまった。
どうやらカイルは、ダリルと顔を合わせるつもりはさらさらないようだ。
ローマンとしては、ゆくゆくはカイルに関わる仕事をすべてダリルに任せたいようだが、これでは先が思いやられる。
『私も若くありませんから、いつ急に倒れるか分かりません。呪いなど怖くないと言いましたが、もし私が倒れたら、カイル様は繊細で優しい方ですから、きっとご自分を責め、気に病まれるでしょう。……私はそれが何より怖いのです』
悲しげに微笑みながら言うローマンに、ダリルは一層頑張らねばと思ったのだが、当のカイルは完全に心を閉ざしており、心が折れそうだった。
「今日も天気がいいですね。庭園でお昼をとるのもいいかもしれませんね」
窓を開けながらクローゼットの中のカイルに話しかける。当然、返事はない。部屋に緩やかに流れこむ風に独り言のように溶けていく。
黙々と掃除するだけでは事態の好転は望めないと思って時々話しかけてみるのだが、すべて無視されてしまう。
(鬱陶しいって思われてるかもしれないな)
自分の頑張りがどうも空回りしているような気持ちになり、切ない苦笑を零しながら床を拭いていると、床にこびりついている濃い赤色の水滴の跡に気づいた。
「……これ、何だ?」
水拭きだけではとれず、掃除用の薬品を使って力強くこすると何とか綺麗になった。
(確か昨日掃除した時はなかったはずだけど、何だろう?)
首を傾げながら考えていたダリルだが、ハッとした。
(も、もしかして、血……!)
ダリルは慌ててクローゼットのほうを振り返った。
(もしかして、怪我をしてるとか?)
水滴は乾いていたので怪我だとしても時間は経っているだろうが、床に滴り落ちるほどとなれば結構な血の量だったのではないだろうか。
ローマンは何も言っていなかったので、恐らく怪我のことは誰にも言っていないのだろう。だとすると、ちゃんとした処置を受けていないのではないか……
気づけばダリルはクローゼットをノックしていた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「……何がだ?」
やや間を置いて訝しげな声が寄越される。
「いえ、あの、床に血の跡のようなものが落ちていたので、怪我をされたのではないかと思って……」
言いながら自分の早とちりだったかもしれないと自信がなくなり、最後は尻すぼみになった。
「……大丈夫だ。怪我はしていない」
返ってきた声は、これまでとは違い少し険が和らいだものだった。どこか戸惑いを含んでいるようにすら感じた。
怪我をしていないとの返答に、とりあえずホッとする。
「それならよかったです」
「……血に触れたら呪われると思ったからか?」
「え?」
嫌味っぽく言われた言葉に目を丸くする。
「いや、全然そんなこと考えもしなかったです。というか、もう拭き取りましたし」
「はぁ?」
驚きの声と共に、ガタッとクローゼットが小さく揺れた。
「しょ、正気か? もし本当に僕の血だったらどうするつもりだったんだ! どうなっても僕は知らないぞ!」
考えなしだと責めるように言いながらも、声は狼狽しきっていた。
その反応に驚きつつも、ダリルは頬を緩めた。カイルの声がようやく年相応の少年らしさを見せたからだ。
「心配してくれたんですね。カイル様は優しいですね」
「……っ、別に心配してるわけじゃない。ただ、後から僕のせいだと難癖つけられても困るからな」
フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向く姿がありありと想像できて、ダリルは小さく笑った。
「なっ、何を笑ってるんだ!」
「す、すみませんっ。別に悪い意味の笑いではなく、カイル様はツンデレなんだなと思ったら微笑ましく思えてつい……」
「ツンデレ?」
怪訝そうな声で問い返され、ハッとする。
「い、いえ、私の故郷の方言みたいなもので……、あ、もちろん褒め言葉です!」
「……ならいい。掃除に戻れ」
「は、はいっ」
ダリルはクローゼットに向かって頭を下げると、掃除の続きに取り掛かった。
(やっと会話らしい会話ができたな)
床を拭きながら今のやり取りを思い返して、頬を緩める。少しだけ距離が近づいたようで嬉しかった。
(厳しくて冷たいのかと思ってたけど、意外といい子そうだ)
根が悪い子でなければ、会話を重ねる内に心を開いてくれるかもしれない、と淡い期待が胸に湧き上がった。
****
ハウエル公爵家に雇われてからしばらく経ち、屋敷の仕事にもだいぶ慣れてきた頃。
夕食の準備の手伝いで厨房に入っていたダリルは、料理長から野菜を採って来るように頼まれて菜園へ向かった。
通常、厨房から菜園に行くには庭園をぐるりと回らなくてはならないが、最近になってダリルは近道を見つけた。
それは生け垣の隙間をくぐり抜けるというもので、あまり行儀のいいものではない。なので、急ぎの時だけ利用するようにしていた。
その日は掃除の時間が押して、厨房に入る時間が遅くなったので、悪いとは思いつつも近道を使うことにした。
(いててて……)
生け垣の枝先に頭や顔を引っかかれながらくぐり抜けると、籠を片手に抱え直して庭園を突き進む。
頼まれた野菜の名前を頭の中で繰り返し呟きながら先を急ぐダリルだったが、前方に人影を認め、思わずその足を止めた。
男は生け垣の向こうにある屋敷をじっと見つめていた。
一瞬、不審者を疑ったが、それにしては周りを気にする素振りが少しもなく、遠目でもその身なりと威厳ある佇まいから高貴な身分であることは見て取れた。
客人かとも思ったが、来客の予定があればローマンから使用人たち全員へ通達されているはずだ。
それに単なる客人にしては、その横顔はどこか切なげで思わず胸が締めつけられるほどだった。
(もしかして……)
無断で屋敷内に立ち入りできる高貴な身分の者となれば、考えられる人物も限られる。
「あの……」
呼びかけると、男がダリルのほうを向いた。ダリルはごくりと息を呑んだ。
(なんて、綺麗な人なんだろう……)
あまりの美しさに、言葉も忘れて立ち尽くす。
ただその美貌は、見惚れる、などという甘い感慨を抱くようなものではなかった。背筋に戦慄が走るような恐怖にも似た感情に居竦んでしまう、冷たく鋭利な美しさだった。
しかも人形めいた端整な顔立ちに加え、ダリルより頭ひとつ分以上も背が高く体格もいい。佇まいだけでも十分に威圧感がある存在だった。
「君はもしかして、新しい使用人の……」
じっとダリルを見据えた男が言った。
思わず吸いこまれるような美しさを持つ真紅の瞳は、高貴な輝きを放つ宝石のようだった。そんな瞳で無表情に見下ろされれば、誰だってありもしない後ろめたさのようなものを覚えて狼狽えてしまうに違いない。
現に、ダリルもやましいことなどひとつもないのにすっかり狼狽えきっていた。
「そ、そうです。ダリル・コッドと申します。お初にお目にかかります」
固い声で何とか名乗ったダリルだが、心臓がドクドクと強く鳴っていた。声に鼓動が混じって漏れ出ないのが不思議なくらいだった。
緊張は増すばかりで、その居心地の悪さに、いっそのこと無視をしてもいいからその目を余所に向けてくれと心から願うほどだった。
しばらくして、男はゆっくりと口を開いた。
「ハウエル・カーティスだ。……ローマンから話は聞いているよ。よく働いてくれているようで感謝している。これからもよろしく頼む」
淡々とした物言いだが、声には言葉通りの誠実な労いが感じられた。顔は相変わらず無表情ではあるものの、極限まで緊張で張り詰めているダリルを安堵させるにはその労いだけでも十分すぎるくらいだった。
「あ、ありがとうございますっ。頑張らせていただきます!」
ダリルが頭を下げると、おもむろにカーティスはダリルのほうへ手を伸ばした。
反射的に体を強張らせたダリルだったが、カーティスの手は髪に触れただけですぐに離れた。
「すまない、急に触れて。これが髪についていた」
カーティスの指先の葉を見て、ハッとする。
恐らく生け垣をくぐり抜けた際についたものだろう。ダリルは恥ずかしくなり、赤面した。
「す、すみませんっ。見苦しい姿をお見せして」
「いや、構わない。それじゃあ私は失礼する」
淡々と言って、カーティスはその場を後にした。
カーティスの気配が消えたところで、頭を上げて後ろを振り返った。
「あの方がハウエル公爵か……」
遠のいていくカーティスの後ろ姿を見送りながら呟く。
呪われた公爵、と眉を顰められる一方で、その美しい容貌についても、社交界では常に噂の的だった。前妻があのような最期でなければ、次の公爵夫人に立候補する者は後を絶たなかっただろうと言われている。
噂以上の美しさに圧倒されて狼狽えたダリルだったが、とりあえず大きなへまをしでかさずに済んでホッと胸を撫で下ろした。
(それにしても俺がここで働き始めてしばらく経つのに、初めて会ったな)
やはり公爵となると相当忙しいのだろう。本来、当主であるカーティスが来るとなればあらかじめ使用人たちにも連絡があるはずだが、それがなかったことからすると急な来訪だったことが窺える。
ダリルは何とはなしに、先ほどカーティスが見つめていた視線の先に目を遣った。
そこにはカイルの部屋があり、カーテンさえ閉まってさえいなければちょうど部屋の様子が見える位置だった。
ダリルはバッと振り返ってカーティスのほうを見た。しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。
一体どんな気持ちで、あの心を閉ざすように閉められたカーテンの向こうを見ていたのだろうか……
初対面で、まだ雇われて日の浅い一介の使用人であるダリルには分からなかった。ただ、あの切なげな横顔から、決してその胸中が明るいものでないことは明らかだ。
ダリルは持っていた籠を胸元でぎゅっと抱え直して、再び菜園に向かって駆け出した。
****
いつも通りカイルの部屋の窓を開け、空気の入れ替えをしていると、部屋のすぐ傍に据えられている花壇の花が開いていることに気づき、ダリルは表情を明るくした。
「あっ、花壇に赤い花が咲いてますよ! ついこの間まで蕾だったのに」
「……知ってる」
クローゼットの中からやや間を置いて言葉が返ってくる。
「なんて花ですかね?」
「リコルコの花だ。他にも黄色や白もあるが、その中でも赤色は希少らしい」
「へぇ、知りませんでした。すごくお詳しいですね。私なんて食べられる植物の名前しか知らないです」
「なんで食べられる植物限定なんだ? コッド家はそんなにも困窮しているのか?」
「い、いえいえ、ただの私の趣味です」
勘当される未来に備えて食べられる雑草や木の実について勉強していたとは、さすがに言えない。
「ふぅん……、変なの」
悪態を吐きつつも、その声は小さく笑っていた。その表情が直に見えないのが残念なくらいだ。
あのクローゼット越しの会話以来、言葉は少ないが、ダリルの声がけにカイルも答えるようになった。
しかし、依然として姿を見せようとはしない。
(ローマンさんのように信頼を得るのはまだまだ先のことになりそうだな)
クローゼットにこもったままのカイルに胸の内で苦笑しつつ、その日も滞りなく掃除を終えた。
「それでは失礼しました」
軽く頭を下げ部屋を出ると、ダリルは掃除用の木製バスケットを持ち直して次の掃除場所へと向かった。
「……あれ?」
カイルの部屋を出て、次の部屋で掃除をしていたダリルは小さく呟いた。
(汚れ落としの薬品がない)
バスケットの中を再度探すが、見つからない。
(えっと、あの薬品を最後に使ったのは……――)
ぼんやりとした記憶を辿る。そして、思い出した。
(あ! そうだ、さっきカイル様の部屋で使ったんだ!)
カイルの部屋の床に黒い染みがこびりついており、それを擦り落とす際に使用したことを思い出す。
(やばいな、置きっぱなしにしてしまったか)
額に手を当てて渋い溜め息をつく。
屋敷の主人の部屋に掃除道具を忘れるなど言語道断である。しかもあの薬品は、触れて肌が爛れるほどの劇薬ではないにしろ、扱いには注意が必要なもの。
あの年齢不相応の賢さを持つカイルが口にすることはないだろうが、それでも心配だ。
(とりあえず事情を話して取らせてもらおう)
またクローゼットに隠れてもらうことになるのは申し訳ないが、置きっぱなしというわけにもいかない。
それに今の二人の関係であれば、呆れられはすれど、怒られることはないだろう。
ダリルは掃除用のバスケットを持ち、再びカイルの部屋へ向かった。
部屋のドアの前に立つと、ダリルは控えめにノックして呼びかけた。
「失礼します。カイル様、先ほど掃除に入らせていただいたダリルです。実は掃除の際に薬品を置き忘れてしまい、それを取らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
しかし、返事はなかった。
「……カイル様?」
何度かノックをして呼びかけるが、返答はない。
(まさか、倒れてないよな……?)
少し悩んだが、もう一度呼びかけて返事がなければ中の様子をそっと見てみよう、とダリルは再度、ノックをした。
「カイル様、いらっしゃいますか」
やはり返ってくるのは沈黙ばかりである。ダリルはそっとドアを開け、部屋の中を覗いた。
(あ……)
ダリルは思わず足を止めた。
窓際に背を向けて座っている黒髪の少年の姿があった。声しか知らないが、彼がこの屋敷の主、カイルで間違いなさそうだ。
彼の前には大きなキャンバスがあり、筆を走らせていた。ダリルの呼びかけに反応しないとは、よほど集中しているようだ。
とりあえず倒れていないことにホッとした。
(邪魔するのも悪いし、これは出直したほうがよさそうだな)
そっとドアを閉めようとしたダリルだったが、キャンバスの絵に気づき、目を見開いた。
「うわっ、うますぎ……」
思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。慌てて口元を手で押さえたが、カイルはこちらなど見向きもしなかった。
そのことに胸を撫で下ろし、改めてカイルの絵をじっくりと見た。
それは窓から見える庭の景色を描いたものだったが、いくつもの色を重ねて塗ったその繊細な色合いは、とても子供が描いたものとは思えなかった。
(すごいな。天才ってこういう子のことを言うんだろうな)
キャンバスに色を与える迷いのない筆の動きに感心しながら、ダリルはその絵にすっかり見惚れていた。
声を漏らしても気づかれなかったことで緊張が解けてしまったのだろう、気づけばさらにドアから顔を出し、前のめりになっていた。
しかし、それがいけなかった。肘にかけていたバスケットからドサドサと音を立てて掃除道具が落ちてしまった。
その物音に、カイルが素早く振り返った。噂通り、顔の右半分には赤黒い痣が広がっていた。まるで火傷の痕のようで痛々しかった。
カイルはダリルの姿を認めると、驚愕の表情をみるみるうちに青くして顔を引き攣らせた。
「み、見るな!」
悲鳴にも似た声で叫ぶと、カイルはベッドの中に潜りこんだ。
「見るな見るな見るなっ! 出ていけ!」
いつもの落ち着きなど微塵もない、ほぼ半狂乱に近い声を振り立てるカイルに、ダリルは狼狽えた。
「も、申し訳ございませんっ。た、ただ、あまりにも美しかったので……」
「美しい……?」
勢いよく頭を下げて謝るダリルの言葉に、怪訝な声を返すカイルだったが、すぐに冷笑を吐き捨てた。
「これのどこが美しいというんだ。嫌味か。それともご機嫌取りをしようとしているのか?」
「いえ、ご機嫌取りとかじゃありません。本当に美しいと思って……。とても子供が描いたとは思えない色遣いで、感動しました!」
「……え?」
絵を見た時の衝撃と感動を声に熱をこめて伝えると、カイルから刺々しさが抜けた声が返ってきた。
「さっきから何の話をしている?」
「え、だからカイル様が描いた絵の話を……」
「……お前、僕の顔を見なかったのか?」
問われ、言葉に詰まる。気持ちとしては「見ていない」と答えたかった。そうすれば初日に言い渡された禁止事項を破らなかったことにできる。
だが、見てしまった。視線がしっかりとかち合うほどに……。これでは言い逃れできない。
ダリルは再び頭を深く下げた。
「すみません、見てしまいました……!」
「……なら、どうして謝罪の次が絵の話になるんだ?」
「た、確かに、先に禁止事項を破ったことを謝るべきでしたね。すみませんっ。ただ、絵があまりにも綺麗だったのでつい……」
「僕の顔を見て、何も思わなかったのか?」
「……」
「正直に答えろ」
言葉に迷うダリルに、カイルがやや強めの口調で言った。
これは誤魔化しの言葉は通用しない、むしろ逆効果になるだろうと悟ったダリルは観念して口を開いた。
「正直なところ『やばい、振り返ってしまった……! 怒られる! あー、もっとじっくり絵を見たかったかったなぁ、なんで今、振り返っちゃうんだよ……!』って思いました」
二つも禁止事項を破っているのだ、どうせ解雇になると半分自棄になったダリルは言葉を繕うことなく正直に答えた。
そんな正直すぎる返答に呆れたのか、沈黙が落ちる。
だが、しばらくすると包まったシーツの中からフッ、と小さく笑いが聞こえた。
「それは正直すぎるだろう」
呆れきった苦笑混じりの声だったが、先ほどまでの険はすっかり消え失せていた。
「僕の顔……、痣を見て何か思わなかったのか?」
静かに問われて、顔の右半分を覆う痣のことを思い出す。
「えっと、そうですね、事前に話を聞いていたので、本当に痣があるな、と思いました。あと痛そうだな、と」
「……時々痛むこともあるが、そんなに頻繁じゃない」
「それならよかったです」
ダリルはホッと息を吐くようにして頬を緩めた。
「でも、痛い時は我慢せずに言ってくださいね」
「言ったところでどうにもならないだろ。何か秘策でもあるのか?」
棘のある言い方だが、からかうようなわざとらしさが感じられた。
「えっと……、とりあえずローマンさんに相談します」
「ははっ、頼りない秘策だな」
笑う声は快活ですらあった。そのことにダリルは胸を撫で下ろした。
「秘策は頼りなくてもローマンさんは頼りになる方なので。まぁもっとも私は解雇されるでしょうから、その秘策を使うことはないかもしれませんが……」
「は? なんでお前が解雇されるんだ?」
苦笑して頭を掻きながらダリルが言うと、カイルの険しく鋭い声が迫ってきた。
「誰が解雇すると言ったんだ」
「いや、あの……」
「僕のところにそんな話は来ていない。とにかく、お前を解雇すると言ったそいつの名前を教えろ。そっちを解雇にしてやる」
憤然とした声で詰め寄るように問われ、ダリルは戸惑った。
「えっと、別に誰かに言われたわけではありません。ただ今さっき私は『姿を見せるな』『顔を見るな』の二つの言いつけを破ってしまったので……」
おずおずと言うとカイルは再び黙りこんでいたが、しばらくして「……お前はいい」とぼそりと答えた。
「え?」
「だから、お前は僕の前に姿を見せることも、……僕の顔を見ることも、特別に許可するということだ」
「ほ、本当ですか!」
思いもよらない展開にダリルは表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
頭を下げながら、心底安堵した。
(よかった……! 今クビになったら野外生活だからな)
食べられる雑草や木の実について勉強してきたとはいえ、できることならその知識は活用せずに済ませたい。
子供は得てして大人の感情に敏感なものだ。それが自分への負の感情であればなおさらだ。
まだ姿も見ていないが、ダリルはカイルに同情せずにはいられなかった。高額な給金に飛びついて意気揚々とやって来た自分が恥ずかしくなった。
「……貴方は呪いが怖くないのですか?」
ローマンが真っ直ぐ目を見据えて訊いてきた。ダリルは強く頷き返した。
「もちろんです。怖かったらここに来ていません。私は怖いものや嫌なものからは全力で逃げるタイプなので」
「そうですか」
冗談めかして言うダリルの返答に、ローマンは安堵するように目尻を下げた。
「ローマンさんは怖くないのですか?」
「もちろんです。怖かったらとっくの昔に隠居していますよ。それに私は老い先短い。呪いなど怖くありません」
「老い先短いって、まだまだお若いじゃないですか」
背筋がピンと伸びている凛とした佇まいや、穏やかでありながら強い意志を秘めたその瞳には、老いの兆しは感じられない。
「いえいえ、しっかりと体は歳をとっていますよ。本当はカイル様のお世話も私ひとりでやっていこうと思っていたのですが、老体にはなかなか厳しいものがありまして……。それで今回、新しく使用人を雇うことにしたのです」
ローマンが不甲斐なさそうに苦笑しながら腰を擦って言った。
「けれど、来てくれたのが貴方のような人で本当によかった。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダリルは差し出されたローマンの手を力強く握り返した。
「至らない点が多々あると思いますので、いろいろと教えてください」
「ええ、ビシバシと指導しますよ」
「はは、お手柔らかにお願いします」
冗談めかして言うローマンに、ダリルは笑って答えた。
その後は応接間を出て屋敷内を案内してもらった。屋敷自体は大きいものの、特段複雑な造りではないので、迷うようなことはなさそうだった。
(部屋数は多いから場所を覚えるのに苦労しそうだけど……)
胸の内で苦笑していると、ローマンが足を止めて振り返った。
「何かここまでで質問はありますか?」
「いえ、特にありません。働き始めたら分からないことが出てくると思いますので、その時にまた質問させてください」
「ええ、もちろん構いませんよ。気構える必要はありませんから、焦らずゆっくり覚えてください。――それでは最後に、カイル様のお部屋にご案内します」
実質、この屋敷の主であるカイルの名前にドキッとした。
決して呪いが怖いわけではない。ただ、相手は呪いの噂のせいでこれまでたくさん傷つけられてきた子供だ。言葉や態度には気をつけなければという緊張があった。
「緊張しますか?」
心の内を覗いたかのような問いに、ドキリとする。ローマンは優しく微笑んで「大丈夫ですよ」と言った。
「きっとカイル様はダリルさんを気に入りますよ。私が保証します」
優しく、しかしどこか力強くそう言われ、ダリルは少しだけ緊張を緩めることができた。
「ローマンさんの保証付きなら心強いです」
「ふふ、光栄です」
ローマンは嬉しそうに微笑むと、再び歩みを進め始めた。
屋敷のことについて補足の説明をしながら歩いていたローマンだったが、一際大きい扉の前で足を止めた。
「こちらがカイル様のお部屋でございます」
ダリルにそう言ってから、ローマンはドアをノックした。
「カイル様、いらっしゃいますか?」
「……ローマンか。何の用だ?」
やや間があって返ってきた声に、少し驚く。
確かに声は子供のものなのだが、暗く陰鬱な雰囲気はおよそ子供らしくない。声の幼さを除けば、世間を嫌厭して人里離れた森にこもる老人のようだ。
「先日お話した新しい使用人が来ました」
「ああ、そういえばそのような話をしていたな」
「挨拶をさせていただきたいので、中に入ってもよろしいですか」
言いながらドアノブに手をかけようとしたローマンだったが「だめだ」と部屋から寄越された冷たい返答を聞いて、その手を止めた。
「どうしてですか」
「どうせすぐにいなくなる。会うだけ時間の無駄だ」
「そんなことはありません」
「いや、無駄だ。現に今だって僕の読書の時間を無駄にしている」
「しかし――」
「くどいぞ、ローマン」
言い募るローマンを鋭い声が遮る。これ以上口を開くことは許さないという無言の圧が、ドア越しからでもひしひしと感じられた。
「とにかく僕はローマン以外の者と会うつもりはない。以上だ」
強引に話を打ち切ってドアの前から去ろうとするカイルの姿が、声の冷ややかさから容易に想像できた。
触らぬ神に祟りなし。そのまま黙っていればよかったのだが、ダリルはつい「あのっ」と呼び止めてしまった。
「……なんだ?」
冷たく不機嫌な声に怯みつつも、背筋を正してドアに向き直った。
「よければ名前だけでも名乗らせてください。名前が分からないと不便でしょうし」
「……」
返事はなかった。しかし、これまでのはっきりとした物言いから察するに、名乗ることさえ許さないのであれば、即座に「だめだ」と答えるはずだ。
そうしないということは、挨拶をするくらいの余地はあるのではないだろうか、とダリルは言葉を続けた。
「ダリル・コッドと申します。至らない点もあると思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
姿は見えないが礼儀を尽くして挨拶をする。しかし、ドアの向こうは沈黙したままだった。
もしかすると、図々しい使用人に呆れて部屋の奥へ戻ってしまったのではないかと思った時、沈黙が破られた。
「……ダリル・コッド」
思いもよらず名前を呼ばれ、弾けるようにして顔を上げた。
「は、はいっ、何でしょうか」
「ここに長くいたいのなら、守ることは三つだけだ。一つ、僕の前に姿を現さないこと。二つ、陰口は僕が近くにいないことをちゃんと確認してからすること。三つ、僕の顔を見ないこと――以上だ」
それだけ言うと足音を鳴らし、今度こそドアの向こうから気配を消した。
残されたダリルとローマンはどちらともなく互いに顔を見合わせた。
ダリルのことを気に入ると断言した手前、ローマンは気まずそうな表情をしており、そのことが一層ダリルを申し訳ない気持ちにさせた。
こうして、ダリルの第二の人生――ハウエル公爵家での使用人生活は、やや苦いつまずきはありつつも、幕を開けたのだった。
****
ハウエル公爵家の使用人の朝は早い。
厨房の料理人は朝食の準備を、新人のダリルは暖炉や主が使う部屋の掃除を始める。
主の使う部屋、と言ってもカイルはほとんど自室兼寝室にこもったままだ。食事も自室でとっており、三食ともローマンが部屋に運んでいる。
しかし、いつ気まぐれに部屋を出るか分からない。それにカイルの父であるカーティスも、今は繁忙期でなかなか別邸には来られないようだが、仕事が落ち着けばカイルの様子を見に来るようだ。普段は使わないからといって手を抜くことは許されない。
(高い給料をもらってるからそれなりの働きをしないとな。それに――)
掃除する部屋を移動している際、たまたま通りかかったカイルの部屋の前で足を止める。
あのドア越しの挨拶以来、ほとんどカイルとは関わりがない。カイルの身の回りの世話係として雇われたのに、と不甲斐なさを感じるほどだ。
ローマンは『カイル様にも少しずつ慣れてもらいましょう。焦ることはありませんよ』と優しく言ってくれたが、心苦しいばかりだ。
(まぁ、俺ひとりでどうにかなる問題じゃないし、信頼を得られるように今はできることをしよう)
掃除道具の入った木製バスケットを抱え直して、次の場所へ足早に向かった。
カイルの朝食の皿が下げられてから少し時間を置いて、ダリルは木製バスケットを携えてカイルの部屋へ向かった。
カイルの身の回りの世話のほとんどはローマンが請け負っているが、カイルの部屋の掃除はダリルが担当している。
まずはカイルの居住スペースにダリルが馴染むことで、カイルにダリルの存在にも慣れてもらおうというのがローマンの狙いだったが、これがなかなかうまくいかなかった。
「おはようございます。部屋の掃除に参りました」
ノックしてドア越しにそう伝える。
「……分かった。一分後に入れ」
すると、いつも通り神経質な声が返ってきた。
「はい」
ダリルは小さく溜め息をついてから、胸の内で数えた。
「――一分経ちました」
「……」
返事はない。つまり、入ってもいいということだ。
「失礼します」
部屋に入るが、カイルの姿はない。
ダリルは部屋の隅にバスケットを置いて、クローゼットの前に立った。
「今から掃除をさせていただきます。すぐに終わらせますので少々お待ちください」
「……」
やはり返事はない。だが、クローゼットの中にいることは分かっている。
初日、ローマンと掃除に来た時は、まさかクローゼットに隠れるなどと思ってもいなかったので驚いたが、今ではもう慣れてしまった。
どうやらカイルは、ダリルと顔を合わせるつもりはさらさらないようだ。
ローマンとしては、ゆくゆくはカイルに関わる仕事をすべてダリルに任せたいようだが、これでは先が思いやられる。
『私も若くありませんから、いつ急に倒れるか分かりません。呪いなど怖くないと言いましたが、もし私が倒れたら、カイル様は繊細で優しい方ですから、きっとご自分を責め、気に病まれるでしょう。……私はそれが何より怖いのです』
悲しげに微笑みながら言うローマンに、ダリルは一層頑張らねばと思ったのだが、当のカイルは完全に心を閉ざしており、心が折れそうだった。
「今日も天気がいいですね。庭園でお昼をとるのもいいかもしれませんね」
窓を開けながらクローゼットの中のカイルに話しかける。当然、返事はない。部屋に緩やかに流れこむ風に独り言のように溶けていく。
黙々と掃除するだけでは事態の好転は望めないと思って時々話しかけてみるのだが、すべて無視されてしまう。
(鬱陶しいって思われてるかもしれないな)
自分の頑張りがどうも空回りしているような気持ちになり、切ない苦笑を零しながら床を拭いていると、床にこびりついている濃い赤色の水滴の跡に気づいた。
「……これ、何だ?」
水拭きだけではとれず、掃除用の薬品を使って力強くこすると何とか綺麗になった。
(確か昨日掃除した時はなかったはずだけど、何だろう?)
首を傾げながら考えていたダリルだが、ハッとした。
(も、もしかして、血……!)
ダリルは慌ててクローゼットのほうを振り返った。
(もしかして、怪我をしてるとか?)
水滴は乾いていたので怪我だとしても時間は経っているだろうが、床に滴り落ちるほどとなれば結構な血の量だったのではないだろうか。
ローマンは何も言っていなかったので、恐らく怪我のことは誰にも言っていないのだろう。だとすると、ちゃんとした処置を受けていないのではないか……
気づけばダリルはクローゼットをノックしていた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「……何がだ?」
やや間を置いて訝しげな声が寄越される。
「いえ、あの、床に血の跡のようなものが落ちていたので、怪我をされたのではないかと思って……」
言いながら自分の早とちりだったかもしれないと自信がなくなり、最後は尻すぼみになった。
「……大丈夫だ。怪我はしていない」
返ってきた声は、これまでとは違い少し険が和らいだものだった。どこか戸惑いを含んでいるようにすら感じた。
怪我をしていないとの返答に、とりあえずホッとする。
「それならよかったです」
「……血に触れたら呪われると思ったからか?」
「え?」
嫌味っぽく言われた言葉に目を丸くする。
「いや、全然そんなこと考えもしなかったです。というか、もう拭き取りましたし」
「はぁ?」
驚きの声と共に、ガタッとクローゼットが小さく揺れた。
「しょ、正気か? もし本当に僕の血だったらどうするつもりだったんだ! どうなっても僕は知らないぞ!」
考えなしだと責めるように言いながらも、声は狼狽しきっていた。
その反応に驚きつつも、ダリルは頬を緩めた。カイルの声がようやく年相応の少年らしさを見せたからだ。
「心配してくれたんですね。カイル様は優しいですね」
「……っ、別に心配してるわけじゃない。ただ、後から僕のせいだと難癖つけられても困るからな」
フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向く姿がありありと想像できて、ダリルは小さく笑った。
「なっ、何を笑ってるんだ!」
「す、すみませんっ。別に悪い意味の笑いではなく、カイル様はツンデレなんだなと思ったら微笑ましく思えてつい……」
「ツンデレ?」
怪訝そうな声で問い返され、ハッとする。
「い、いえ、私の故郷の方言みたいなもので……、あ、もちろん褒め言葉です!」
「……ならいい。掃除に戻れ」
「は、はいっ」
ダリルはクローゼットに向かって頭を下げると、掃除の続きに取り掛かった。
(やっと会話らしい会話ができたな)
床を拭きながら今のやり取りを思い返して、頬を緩める。少しだけ距離が近づいたようで嬉しかった。
(厳しくて冷たいのかと思ってたけど、意外といい子そうだ)
根が悪い子でなければ、会話を重ねる内に心を開いてくれるかもしれない、と淡い期待が胸に湧き上がった。
****
ハウエル公爵家に雇われてからしばらく経ち、屋敷の仕事にもだいぶ慣れてきた頃。
夕食の準備の手伝いで厨房に入っていたダリルは、料理長から野菜を採って来るように頼まれて菜園へ向かった。
通常、厨房から菜園に行くには庭園をぐるりと回らなくてはならないが、最近になってダリルは近道を見つけた。
それは生け垣の隙間をくぐり抜けるというもので、あまり行儀のいいものではない。なので、急ぎの時だけ利用するようにしていた。
その日は掃除の時間が押して、厨房に入る時間が遅くなったので、悪いとは思いつつも近道を使うことにした。
(いててて……)
生け垣の枝先に頭や顔を引っかかれながらくぐり抜けると、籠を片手に抱え直して庭園を突き進む。
頼まれた野菜の名前を頭の中で繰り返し呟きながら先を急ぐダリルだったが、前方に人影を認め、思わずその足を止めた。
男は生け垣の向こうにある屋敷をじっと見つめていた。
一瞬、不審者を疑ったが、それにしては周りを気にする素振りが少しもなく、遠目でもその身なりと威厳ある佇まいから高貴な身分であることは見て取れた。
客人かとも思ったが、来客の予定があればローマンから使用人たち全員へ通達されているはずだ。
それに単なる客人にしては、その横顔はどこか切なげで思わず胸が締めつけられるほどだった。
(もしかして……)
無断で屋敷内に立ち入りできる高貴な身分の者となれば、考えられる人物も限られる。
「あの……」
呼びかけると、男がダリルのほうを向いた。ダリルはごくりと息を呑んだ。
(なんて、綺麗な人なんだろう……)
あまりの美しさに、言葉も忘れて立ち尽くす。
ただその美貌は、見惚れる、などという甘い感慨を抱くようなものではなかった。背筋に戦慄が走るような恐怖にも似た感情に居竦んでしまう、冷たく鋭利な美しさだった。
しかも人形めいた端整な顔立ちに加え、ダリルより頭ひとつ分以上も背が高く体格もいい。佇まいだけでも十分に威圧感がある存在だった。
「君はもしかして、新しい使用人の……」
じっとダリルを見据えた男が言った。
思わず吸いこまれるような美しさを持つ真紅の瞳は、高貴な輝きを放つ宝石のようだった。そんな瞳で無表情に見下ろされれば、誰だってありもしない後ろめたさのようなものを覚えて狼狽えてしまうに違いない。
現に、ダリルもやましいことなどひとつもないのにすっかり狼狽えきっていた。
「そ、そうです。ダリル・コッドと申します。お初にお目にかかります」
固い声で何とか名乗ったダリルだが、心臓がドクドクと強く鳴っていた。声に鼓動が混じって漏れ出ないのが不思議なくらいだった。
緊張は増すばかりで、その居心地の悪さに、いっそのこと無視をしてもいいからその目を余所に向けてくれと心から願うほどだった。
しばらくして、男はゆっくりと口を開いた。
「ハウエル・カーティスだ。……ローマンから話は聞いているよ。よく働いてくれているようで感謝している。これからもよろしく頼む」
淡々とした物言いだが、声には言葉通りの誠実な労いが感じられた。顔は相変わらず無表情ではあるものの、極限まで緊張で張り詰めているダリルを安堵させるにはその労いだけでも十分すぎるくらいだった。
「あ、ありがとうございますっ。頑張らせていただきます!」
ダリルが頭を下げると、おもむろにカーティスはダリルのほうへ手を伸ばした。
反射的に体を強張らせたダリルだったが、カーティスの手は髪に触れただけですぐに離れた。
「すまない、急に触れて。これが髪についていた」
カーティスの指先の葉を見て、ハッとする。
恐らく生け垣をくぐり抜けた際についたものだろう。ダリルは恥ずかしくなり、赤面した。
「す、すみませんっ。見苦しい姿をお見せして」
「いや、構わない。それじゃあ私は失礼する」
淡々と言って、カーティスはその場を後にした。
カーティスの気配が消えたところで、頭を上げて後ろを振り返った。
「あの方がハウエル公爵か……」
遠のいていくカーティスの後ろ姿を見送りながら呟く。
呪われた公爵、と眉を顰められる一方で、その美しい容貌についても、社交界では常に噂の的だった。前妻があのような最期でなければ、次の公爵夫人に立候補する者は後を絶たなかっただろうと言われている。
噂以上の美しさに圧倒されて狼狽えたダリルだったが、とりあえず大きなへまをしでかさずに済んでホッと胸を撫で下ろした。
(それにしても俺がここで働き始めてしばらく経つのに、初めて会ったな)
やはり公爵となると相当忙しいのだろう。本来、当主であるカーティスが来るとなればあらかじめ使用人たちにも連絡があるはずだが、それがなかったことからすると急な来訪だったことが窺える。
ダリルは何とはなしに、先ほどカーティスが見つめていた視線の先に目を遣った。
そこにはカイルの部屋があり、カーテンさえ閉まってさえいなければちょうど部屋の様子が見える位置だった。
ダリルはバッと振り返ってカーティスのほうを見た。しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。
一体どんな気持ちで、あの心を閉ざすように閉められたカーテンの向こうを見ていたのだろうか……
初対面で、まだ雇われて日の浅い一介の使用人であるダリルには分からなかった。ただ、あの切なげな横顔から、決してその胸中が明るいものでないことは明らかだ。
ダリルは持っていた籠を胸元でぎゅっと抱え直して、再び菜園に向かって駆け出した。
****
いつも通りカイルの部屋の窓を開け、空気の入れ替えをしていると、部屋のすぐ傍に据えられている花壇の花が開いていることに気づき、ダリルは表情を明るくした。
「あっ、花壇に赤い花が咲いてますよ! ついこの間まで蕾だったのに」
「……知ってる」
クローゼットの中からやや間を置いて言葉が返ってくる。
「なんて花ですかね?」
「リコルコの花だ。他にも黄色や白もあるが、その中でも赤色は希少らしい」
「へぇ、知りませんでした。すごくお詳しいですね。私なんて食べられる植物の名前しか知らないです」
「なんで食べられる植物限定なんだ? コッド家はそんなにも困窮しているのか?」
「い、いえいえ、ただの私の趣味です」
勘当される未来に備えて食べられる雑草や木の実について勉強していたとは、さすがに言えない。
「ふぅん……、変なの」
悪態を吐きつつも、その声は小さく笑っていた。その表情が直に見えないのが残念なくらいだ。
あのクローゼット越しの会話以来、言葉は少ないが、ダリルの声がけにカイルも答えるようになった。
しかし、依然として姿を見せようとはしない。
(ローマンさんのように信頼を得るのはまだまだ先のことになりそうだな)
クローゼットにこもったままのカイルに胸の内で苦笑しつつ、その日も滞りなく掃除を終えた。
「それでは失礼しました」
軽く頭を下げ部屋を出ると、ダリルは掃除用の木製バスケットを持ち直して次の掃除場所へと向かった。
「……あれ?」
カイルの部屋を出て、次の部屋で掃除をしていたダリルは小さく呟いた。
(汚れ落としの薬品がない)
バスケットの中を再度探すが、見つからない。
(えっと、あの薬品を最後に使ったのは……――)
ぼんやりとした記憶を辿る。そして、思い出した。
(あ! そうだ、さっきカイル様の部屋で使ったんだ!)
カイルの部屋の床に黒い染みがこびりついており、それを擦り落とす際に使用したことを思い出す。
(やばいな、置きっぱなしにしてしまったか)
額に手を当てて渋い溜め息をつく。
屋敷の主人の部屋に掃除道具を忘れるなど言語道断である。しかもあの薬品は、触れて肌が爛れるほどの劇薬ではないにしろ、扱いには注意が必要なもの。
あの年齢不相応の賢さを持つカイルが口にすることはないだろうが、それでも心配だ。
(とりあえず事情を話して取らせてもらおう)
またクローゼットに隠れてもらうことになるのは申し訳ないが、置きっぱなしというわけにもいかない。
それに今の二人の関係であれば、呆れられはすれど、怒られることはないだろう。
ダリルは掃除用のバスケットを持ち、再びカイルの部屋へ向かった。
部屋のドアの前に立つと、ダリルは控えめにノックして呼びかけた。
「失礼します。カイル様、先ほど掃除に入らせていただいたダリルです。実は掃除の際に薬品を置き忘れてしまい、それを取らせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
しかし、返事はなかった。
「……カイル様?」
何度かノックをして呼びかけるが、返答はない。
(まさか、倒れてないよな……?)
少し悩んだが、もう一度呼びかけて返事がなければ中の様子をそっと見てみよう、とダリルは再度、ノックをした。
「カイル様、いらっしゃいますか」
やはり返ってくるのは沈黙ばかりである。ダリルはそっとドアを開け、部屋の中を覗いた。
(あ……)
ダリルは思わず足を止めた。
窓際に背を向けて座っている黒髪の少年の姿があった。声しか知らないが、彼がこの屋敷の主、カイルで間違いなさそうだ。
彼の前には大きなキャンバスがあり、筆を走らせていた。ダリルの呼びかけに反応しないとは、よほど集中しているようだ。
とりあえず倒れていないことにホッとした。
(邪魔するのも悪いし、これは出直したほうがよさそうだな)
そっとドアを閉めようとしたダリルだったが、キャンバスの絵に気づき、目を見開いた。
「うわっ、うますぎ……」
思わず感嘆の声が漏れ出てしまった。慌てて口元を手で押さえたが、カイルはこちらなど見向きもしなかった。
そのことに胸を撫で下ろし、改めてカイルの絵をじっくりと見た。
それは窓から見える庭の景色を描いたものだったが、いくつもの色を重ねて塗ったその繊細な色合いは、とても子供が描いたものとは思えなかった。
(すごいな。天才ってこういう子のことを言うんだろうな)
キャンバスに色を与える迷いのない筆の動きに感心しながら、ダリルはその絵にすっかり見惚れていた。
声を漏らしても気づかれなかったことで緊張が解けてしまったのだろう、気づけばさらにドアから顔を出し、前のめりになっていた。
しかし、それがいけなかった。肘にかけていたバスケットからドサドサと音を立てて掃除道具が落ちてしまった。
その物音に、カイルが素早く振り返った。噂通り、顔の右半分には赤黒い痣が広がっていた。まるで火傷の痕のようで痛々しかった。
カイルはダリルの姿を認めると、驚愕の表情をみるみるうちに青くして顔を引き攣らせた。
「み、見るな!」
悲鳴にも似た声で叫ぶと、カイルはベッドの中に潜りこんだ。
「見るな見るな見るなっ! 出ていけ!」
いつもの落ち着きなど微塵もない、ほぼ半狂乱に近い声を振り立てるカイルに、ダリルは狼狽えた。
「も、申し訳ございませんっ。た、ただ、あまりにも美しかったので……」
「美しい……?」
勢いよく頭を下げて謝るダリルの言葉に、怪訝な声を返すカイルだったが、すぐに冷笑を吐き捨てた。
「これのどこが美しいというんだ。嫌味か。それともご機嫌取りをしようとしているのか?」
「いえ、ご機嫌取りとかじゃありません。本当に美しいと思って……。とても子供が描いたとは思えない色遣いで、感動しました!」
「……え?」
絵を見た時の衝撃と感動を声に熱をこめて伝えると、カイルから刺々しさが抜けた声が返ってきた。
「さっきから何の話をしている?」
「え、だからカイル様が描いた絵の話を……」
「……お前、僕の顔を見なかったのか?」
問われ、言葉に詰まる。気持ちとしては「見ていない」と答えたかった。そうすれば初日に言い渡された禁止事項を破らなかったことにできる。
だが、見てしまった。視線がしっかりとかち合うほどに……。これでは言い逃れできない。
ダリルは再び頭を深く下げた。
「すみません、見てしまいました……!」
「……なら、どうして謝罪の次が絵の話になるんだ?」
「た、確かに、先に禁止事項を破ったことを謝るべきでしたね。すみませんっ。ただ、絵があまりにも綺麗だったのでつい……」
「僕の顔を見て、何も思わなかったのか?」
「……」
「正直に答えろ」
言葉に迷うダリルに、カイルがやや強めの口調で言った。
これは誤魔化しの言葉は通用しない、むしろ逆効果になるだろうと悟ったダリルは観念して口を開いた。
「正直なところ『やばい、振り返ってしまった……! 怒られる! あー、もっとじっくり絵を見たかったかったなぁ、なんで今、振り返っちゃうんだよ……!』って思いました」
二つも禁止事項を破っているのだ、どうせ解雇になると半分自棄になったダリルは言葉を繕うことなく正直に答えた。
そんな正直すぎる返答に呆れたのか、沈黙が落ちる。
だが、しばらくすると包まったシーツの中からフッ、と小さく笑いが聞こえた。
「それは正直すぎるだろう」
呆れきった苦笑混じりの声だったが、先ほどまでの険はすっかり消え失せていた。
「僕の顔……、痣を見て何か思わなかったのか?」
静かに問われて、顔の右半分を覆う痣のことを思い出す。
「えっと、そうですね、事前に話を聞いていたので、本当に痣があるな、と思いました。あと痛そうだな、と」
「……時々痛むこともあるが、そんなに頻繁じゃない」
「それならよかったです」
ダリルはホッと息を吐くようにして頬を緩めた。
「でも、痛い時は我慢せずに言ってくださいね」
「言ったところでどうにもならないだろ。何か秘策でもあるのか?」
棘のある言い方だが、からかうようなわざとらしさが感じられた。
「えっと……、とりあえずローマンさんに相談します」
「ははっ、頼りない秘策だな」
笑う声は快活ですらあった。そのことにダリルは胸を撫で下ろした。
「秘策は頼りなくてもローマンさんは頼りになる方なので。まぁもっとも私は解雇されるでしょうから、その秘策を使うことはないかもしれませんが……」
「は? なんでお前が解雇されるんだ?」
苦笑して頭を掻きながらダリルが言うと、カイルの険しく鋭い声が迫ってきた。
「誰が解雇すると言ったんだ」
「いや、あの……」
「僕のところにそんな話は来ていない。とにかく、お前を解雇すると言ったそいつの名前を教えろ。そっちを解雇にしてやる」
憤然とした声で詰め寄るように問われ、ダリルは戸惑った。
「えっと、別に誰かに言われたわけではありません。ただ今さっき私は『姿を見せるな』『顔を見るな』の二つの言いつけを破ってしまったので……」
おずおずと言うとカイルは再び黙りこんでいたが、しばらくして「……お前はいい」とぼそりと答えた。
「え?」
「だから、お前は僕の前に姿を見せることも、……僕の顔を見ることも、特別に許可するということだ」
「ほ、本当ですか!」
思いもよらない展開にダリルは表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
頭を下げながら、心底安堵した。
(よかった……! 今クビになったら野外生活だからな)
食べられる雑草や木の実について勉強してきたとはいえ、できることならその知識は活用せずに済ませたい。
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