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もうこの先に、定められた物語はありません
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だから、これはダリルとカーティスの物語だと、カリーナに明言された瞬間、胸にこびりついたその不安がようやく拭い去られ、安堵と喜びに胸が打ち震えた。
「……っ、ありがとうございます」
震える声で礼を言うと、カリーナは嬉しそうに頬を綻ばせた。
「いえいえ、喜んでいただけてよかったですわ。それに、お二人が結ばれたおかげで、私は晴れて自由の身になれましたし。今はジルドと各地の美味しいお酒を求めて放浪中です」
ふふっ、と茶目っ気のある可憐さを見せるカリーナは、これまでダリルに辛い選択を迫ってきた彼女とは別人だった。
だからダリルもつられて笑った。
「お酒がお好きなんですね」
「ええ。私、前世ではかなりの酒豪で、聖女になって一番辛かったのはお酒が飲めないことでしたわ」
カリーナはおどけるように顔を顰めて、肩をすくめた。
「今、一緒に旅をしているジルドは、神官のくせに前から隠れてお酒を飲んでいたんです。腹いせに告げ口しようかとも思っていたんですが、いろいろとお酒の情報にも詳しいようだったから、悪役聖女の役目を終えた時は絶対に旅に連れ回そうと思ったんです」
悪戯っぽく笑って言うと、カリーナはスッと立ち上がった。
「下にジルドも待たせていますし、そろそろ失礼しますわ。とにかく、お二人が無事に番となったことを知って安心しました。これで心置きなく旅を楽しめますわ」
にこりと清々しい笑みを浮かべて立ち去ろうとしたカリーナだったが、ドアの手前でダリルの方を振り返った。
「もしよかったら、旅の途中、近くまできたらまた、訪ねてきてもいいでしょうか?」
思いがけない申し出に驚くダリルに、カリーナはくすりと笑った。
「別に、深い意味はありませんのよ。ただ、その後お二人がどう過ごしているか知りたいだけです。……作者も知らないお二人のその後を知れるなんて、ファン冥利に尽きると思いません?」
無邪気に笑ってそう言うカリーナに、何か企みを隠し持つ悪役聖女の面影は微塵もなかった。
ようやく物語の役目を終え、自由の身になった時の清々しさを知っているダリルは、そんなカリーナに微笑ましい気持ちになった。
「ええ、もちろん、来てください。あまり面白い話は聞かせてあげられないかもしれませんが……」
自分たちの穏やかで、他人からすれば面白みのない日常を思い返して苦笑を漏らす。
しかし、カリーナは強く首を横に振った。
「いえいえっ、お二人の幸せなお話をきけるだけで十分です!」
若干、鼻息を荒くして断言する彼女に、ダリルは小さく笑った。
「それじゃあ、また来られるのを楽しみにしています」
「ええ、私もです」
手を差し出すと、カリーナはその手をぎゅっと握り返した。
そして、
「もうこの先に、定められた物語はありません。ですから、素敵な物語をお二人で紡いでくださいね」
軽やかに、しかし真面目に言って、カリーナは今度こそ部屋を後にした。
――素敵な物語をお二人で紡いでくださいね。
部屋に残ったダリルは、カリーナの言葉を胸の内で反芻しては、こそばゆい気持ちで頬を緩めた。
そして同時に、無性にカーティスに会いたくなった。
二人でこれから紡ぐまだ見ぬ物語の輪郭を、彼の優しい腕の中でなぞりたい。そう思ったのだ……――。
「……っ、ありがとうございます」
震える声で礼を言うと、カリーナは嬉しそうに頬を綻ばせた。
「いえいえ、喜んでいただけてよかったですわ。それに、お二人が結ばれたおかげで、私は晴れて自由の身になれましたし。今はジルドと各地の美味しいお酒を求めて放浪中です」
ふふっ、と茶目っ気のある可憐さを見せるカリーナは、これまでダリルに辛い選択を迫ってきた彼女とは別人だった。
だからダリルもつられて笑った。
「お酒がお好きなんですね」
「ええ。私、前世ではかなりの酒豪で、聖女になって一番辛かったのはお酒が飲めないことでしたわ」
カリーナはおどけるように顔を顰めて、肩をすくめた。
「今、一緒に旅をしているジルドは、神官のくせに前から隠れてお酒を飲んでいたんです。腹いせに告げ口しようかとも思っていたんですが、いろいろとお酒の情報にも詳しいようだったから、悪役聖女の役目を終えた時は絶対に旅に連れ回そうと思ったんです」
悪戯っぽく笑って言うと、カリーナはスッと立ち上がった。
「下にジルドも待たせていますし、そろそろ失礼しますわ。とにかく、お二人が無事に番となったことを知って安心しました。これで心置きなく旅を楽しめますわ」
にこりと清々しい笑みを浮かべて立ち去ろうとしたカリーナだったが、ドアの手前でダリルの方を振り返った。
「もしよかったら、旅の途中、近くまできたらまた、訪ねてきてもいいでしょうか?」
思いがけない申し出に驚くダリルに、カリーナはくすりと笑った。
「別に、深い意味はありませんのよ。ただ、その後お二人がどう過ごしているか知りたいだけです。……作者も知らないお二人のその後を知れるなんて、ファン冥利に尽きると思いません?」
無邪気に笑ってそう言うカリーナに、何か企みを隠し持つ悪役聖女の面影は微塵もなかった。
ようやく物語の役目を終え、自由の身になった時の清々しさを知っているダリルは、そんなカリーナに微笑ましい気持ちになった。
「ええ、もちろん、来てください。あまり面白い話は聞かせてあげられないかもしれませんが……」
自分たちの穏やかで、他人からすれば面白みのない日常を思い返して苦笑を漏らす。
しかし、カリーナは強く首を横に振った。
「いえいえっ、お二人の幸せなお話をきけるだけで十分です!」
若干、鼻息を荒くして断言する彼女に、ダリルは小さく笑った。
「それじゃあ、また来られるのを楽しみにしています」
「ええ、私もです」
手を差し出すと、カリーナはその手をぎゅっと握り返した。
そして、
「もうこの先に、定められた物語はありません。ですから、素敵な物語をお二人で紡いでくださいね」
軽やかに、しかし真面目に言って、カリーナは今度こそ部屋を後にした。
――素敵な物語をお二人で紡いでくださいね。
部屋に残ったダリルは、カリーナの言葉を胸の内で反芻しては、こそばゆい気持ちで頬を緩めた。
そして同時に、無性にカーティスに会いたくなった。
二人でこれから紡ぐまだ見ぬ物語の輪郭を、彼の優しい腕の中でなぞりたい。そう思ったのだ……――。
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