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これは紛れもなく

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 ダリルは意を決して頷いて返した。

「ええ、カーティス様と正式に番となりました」

 緊張しつつも、ダリルは背筋をしっかり伸ばしてはっきりと言った。
 すると、

「そう、それは……――」

 カリーナは言葉を切って俯いた。
 しかし、次にはすぐに顔を上げて、腰を浮かせるとその手をダリルの方へ伸ばした。
 反射的に身構えたが、カリーナはダリルの右手をガッ、と両手で掴んだ。
 そして、

「……っ、おめでとうございます!」
「……え?」

 予想だにしなかった言葉を寄越され、ダリルは唖然とした。
 最初、嫌味の類かと思ったが、その目はキラキラと純粋な少女のように輝いており、心の底から祝福しているのが分かった。
  カリーナはダリルの手を離すと「はぁ~~~」と大きく溜め息を吐いて、再びソファに腰を下ろした。

「よかったぁ、これで私も悪役聖女はお役御免。これからは好きに第二の人生が歩めますわ~!」

 まるで縛られていたものから解放されたような晴れやかさで言って、伸びをした。

「え、ちょ、ちょっと、待って、え……? ど、どういう意味ですか?」

 話についていけず混乱するダリルに、カリーナはくすりと軽く笑った。

「貴方もあの預言書を見た時、私が転生者であることはお気づきになったでしょう?」
「あ……」

 確かに、カリーナの本を見た時、そこに書かれた日本語に彼女も自分と同じ転生者ではないかと思った。
 しかし如何せん、カーティスと結ばれるのは自分ではなくカリーナだという可能性にショックを受けて、すっかり頭から抜けていた。

「大変でしたのよ。前世の私はこのお話の熱心なファンでしたから、まさか二人の仲を裂こうとする悪役聖女になるなんて、本当にショックでしたわ」

 頬に手を当て、ふぅ、と憂いを帯びた溜め息を漏らす。

「ついつい、お二人を応援したくなって悪女具合を加減してしまって、やり直しを何回も食らって……。頭で分かっていても、ついオタク魂が逆らってしまうのです……っ」

 く……っ、と拳を握って、カリーナは悔しそうに眉間に皺を寄せた。
 カリーナが真相を明かしてくれているというのに、ダリルは混乱しきっていた。

「ちょ、ちょっと待ってください。この世界は『薔薇色の君』というアルフレッドとフィルが主役の話じゃ……」
「そういえば確かに、作者曰くずっと昔に書いた『薔薇色の君』をもとに作ったって言っていましたわね。……でも、これは紛れもなく、ダリル様とカーティス様の物語ですわ」

 穏やかに、しかし力強く言って、カリーナは微笑んだ

「じゃ、じゃあ……、もうやり直しさせられることは……?」
「ありませんわ」

 はっきりとカリーナに答えられ、ダリルの目頭にじわりと涙が滲んだ。
 ずっと不安だった。
 ハウエル家の呪いが解けても、カーティスと番となれても、またいつかやり直しをさせられるのではないか。
 姿をくらましたカリーナが戻ってきて、まるで正しい物語に導くようにカーティスを奪い去るのではないか……。
 かつて見た、カリーナの預言書に書かれたカーティスとカリーナが結ばれる物語が心の隅にこびりついていた。
 どんなにカーティスの温もりに包まれ幸せを感じていても、ふと心の隅でそれが疼いて、ダリルをひどく不安にさせた。
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