役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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もちろんです

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 普段こうしたねだるようなことを言わないので戸惑っているようだったが、ごくりと生唾を飲み込むような、欲情の高ぶりがその表情から感じられた。

「もう、がまんできません……。はやく、カーティス様がほしい、です……っ」

 羞恥よりも下腹部の疼きの方が勝って、はしたない欲の言葉が口を突いて出る。
 潤んだ瞳で切実な眼差しを向けられ、カーティスの方も理性の糸が切れたのか、口を覆って食らいつくようなキスをしてきた。

「ん……っ、は……ぁ」

 激しいキスに気持ちも高まり、体の奥が淫らな期待にさらに疼く。
 脚を押し広げ窄まりに熱いものをひたりとあてがわれただけで、鼓動が跳ね上がった。

「……動いてもいいか?」

 脇腹をするりとさすりながら労るような口調で訊ねられ、ダリルは一も二もなく頷いた。

「はっ、あぁ……っ、ん……」

 無理に押し開くようなことはせず緩く腰を動かすカーティスだが、熱い昂りは着実に奥へと迫っていた。
 あと少しで最奥の深い快楽の場所にその熱が触れるのだと考えるだけで、頭の芯まで甘く痺れた。
 待ち遠しさに奥がひくつき、カーティスの熱に絡みつく。吐息には疚しい期待に塗れた声が混じった。
 そんな扇情的なダリルにカーティスもあてられたのか、腰の動きが激しくなった。
 汗ばんだ肌と肌がぶつかる音が鼓膜を打って、一層気持ちが高ぶって、呼気が荒くなる。

「んっ、ぁ、はぁ……っ、あっ、あぁ……ッ」

 過敏な場所を何度も強く穿たれ、その度に気をやりそうになって、気づくとしがみつくようにしてカーティスの背に手を回していた。
 
「はっ、あ、あっ、あぁっ、あぁ……っ!」

 鮮烈な快感が背筋を駆け上がり、瞼の裏で白い光が弾けた。

「ふ……、は……ぁ」

 甘い余韻に浸りながら息を整えていると、

「ダリル君……」

 慈しむように名前を囁いて、カーティスが唇にキスをする。
 ぴったりと密着した肌の上で互いの熱が溶け合って、体の内に染み込んでいく。
 カーティスには恥ずかしくて言えないが、下で繋がったままキスをするのが、ダリルは好きだった。
 まるで二人がひとつになっていくようだ――、そんな甘い錯覚に、うっとりと胸に多幸感が満ちる。

「――ダリル君」

 唇を離すと、情事の余韻を帯びた熱っぽい声で言って、ダリルを見つめた。そして、

「君を私のものにしてもいいか……?」

 真摯な眼差しが真っ直ぐダリルに向けられる。
 ひたむきな愛が胸の奥にまで伝わってくるそれに、ドクン、と鼓動が甘く弾んだ。
 ダリルはそろりと首をひねって、白い首筋をさらした。

「もちろんです」

 頬を淡く染めながら微笑んで言うと、カーティスはほっと顔を緩めた。
 そして、まるで割れ物に触れるような慎重さでダリルの首筋に唇を寄せた。
 緊張して微かに震えるカーティスの吐息が肌をくすぐる。それだけで愛おしさに胸が締め付けられた。

「……っ」

 カーティスの歯が肌に浅く食い込む。それだけで、絶頂にも似た恍惚が全身を駆け巡った。

「……ッ、は、ぁ……っ!」

 声にならない甘い悲鳴が胸の底から湧き上がった。
 カーティスの匂いが濃密なものになり、深く包み込まれる。まるでカーティスの体の奥に閉じ込められるような錯覚に陥る。
 肌に歯を立てられているというのに全く痛みを感じない。むしろ痛みが鮮烈な快感となっている節すらあった。
 ドクドクと鼓動が甘美な音を奏でて胸を打つ。

 たとえこの先、カリーナのように二人の仲を裂こうとする者が現れても、もしくは世界が二人の愛を否定しようとも、決して二人を引き離すことはできない――、そんな強固で絶対的な確信が胸にみなぎってきた。
 
「――……ル君、ダリル君」

 心配そうに名を呼ぶカーティスの声にハッと我に返る。

「大丈夫か? もしかして相当痛かったんじゃないのか……?」

 申し訳なさそうに言われ慌てて首を横に振った。

「いえっ、そんなことはありません! むしろすごく気持ちいいくらいで……って、あ!」

 恥ずかしいことまで言ってしまい、赤面して口元を押さえる。
 そんなダリルの慌てぶりに、カーティスはくすりと笑った。

「それならよかった。深く噛みすぎたと申し訳なく思っていたんだ」

 そっと指先で噛んだ箇所を触れられると、確かにちりっと小さく痛みが走った。
 反射的に軽く顔を顰めたダリルに、カーティスは眉尻を下げた。

「本当は痛くするつもりなんてなかったんだ。……ただ、肌に歯を立てた時、君の匂いが急激に強くなって、それで我を忘れて深く噛みついていた。全く、自分のことながら恐ろしい」

 目を伏せてフッと自嘲的な笑いを漏らすカーティスだったが、次には視線を上げて、どこか吹っ切れたような清々しさを目元に漂わせて言った。

「私はどうにも君に関しては理性を失いやすいようだ。幼稚な独占欲もあるし、嫉妬深い。君に呆れられないようにしなくてはならないな」

 そう言ってダリルの頭を両手で包むと、鼻先や額に戯れのような軽やかさで唇を落とした。
 その淡い感触のくすぐったさと、冷静で真面目な普段のカーティスからは想像できない『独占欲』や『嫉妬』といった言葉に、思わずくすりと笑った。

「カーティス様でも嫉妬したりすることがあるんですね」
「当然だ。君の元婚約者のアルフレッドにも、君に言い寄っていたグラスター公爵にも、嫉妬していた。……白状すると、ネイト君との仲の良さにも少しだけ嫉妬している」
「えっ?」

 思いがけない告白に目を丸くすると、カーティスが小さく苦笑した。

「ほら、小さい男だろう? でも、もう君とは番になったんだ。嫉妬なんてせずに大きく構えていないといけないな」

 自身に言い聞かせるように言って、カーティスはダリルの唇にキスをした。

(番、か……)

 カーティスが口にした『番』の言葉に、胸が甘くとろける。
 二人を固く結ぶ番という、アルファとオメガにとって絶対的な繋がりに深い恍惚と安堵を覚えた。
 もう何があっても離れない、ずっとこの人の傍にいよう……――。
 そんな誓いめいた想いを込めるように、ダリルはカーティスの首に腕を回して、その深い口づけに応えた。
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