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それでも……っ
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そして、自分の嫌な予感が現実のものとなったことを知る。
レイラが死に際に残した言葉――、あれは紛れもなく呪いだ。
レイラ自身にそういった意図があったかは定かではないが、現にカーティスはこうして自責の念に襲われ、あの言葉に囚われている。
これは、誰が何を言おうと解けない呪いだ。
(それでも……っ)
ダリルは意を決して口を開いた。
「……以前、レイラ様が話していました。自分には予知夢が見れるのだと」
「予知夢?」
「はい」
頷いて答えながら、ダリルは話すべきか未だに迷っていた。
それでも躊躇いがちに話を続けた。
「……レイラ様は昔、生まれ育った故郷で母親からも村人からも奴隷同然のひどい扱いをうけていたそうです。そんな辛い中、予知夢でカーティス様に出会ったと言っていました。優しいカーティス様は、その時の彼女にとって、生きる希望だったと話していました」
レイラの恋心は確かに間違った方向へと暴走してしまった。
しかし、カーティスとの予知夢での出会いを語る彼女の瞳には、闇から抜け出すための細い糸をようやく見つけ出したかのような、もうこの一縷の望みに縋りつくしかないという妄信的な危うさがあった。
そこまでレイラは過酷な状況にあったのだ。もし、予知夢の中でカーティスが彼女に優しく微笑みかけることがなかったなら、彼女は死ぬまで希望というものを知らず、あの閉鎖的な村で生涯を終えていたのかもしれない。
実の母にも愛されることなく疎まれ、奴隷扱いされる日々が淡々と続く人生……。想像しただけで、胸が締め付けられた。
「確かにそれはレイラ様が恋心を抱くきっかけになったのかもしれません。……でも、カーティス様の優しさが、レイラ様を救ったことには間違いありません。それは、誇るべきことで、カーティス様の優しさは間違いなく美点です。だから、レイラ様に優しく接したこと、後悔なんてしないでください」
自分は亡くなったクリスティーナのことを知らないからそう言えるだけかもしれない。
しかし、カーティスに幼いレイラの心を救ったこと、そして自身の優しさを否定してほしくなかった。
「それに、カーティス様はもしレイラ様の気持ちに気づいていたとしても、きっと突き放したりできなかったと思いますよ。だって、カーティス様は優しいから。……そんな優しいカーティス様が、俺は大好きです。だから、自分をそんなに責めないでください」
そう言って、ダリルはカーティスが先ほどしてくれたように、彼の膝の上で痛々しく握られた拳をそっと包み込んだ。
「……っ」
カーティスの瞳に涙の気配が漂う。
抑えていたものが溢れ出てくるのを必死に耐えるようにして言葉を飲み込むと、カーティスはダリルを強く抱き寄せた。
無言のまま深く強く抱きしめるカーティスの腕から、胸中の悲痛な叫びが痛いほど伝わってきた。その腕に暴力的な荒々しさなど一切ないのに、まるで竜巻の中にいるかのような錯覚に陥るのは、恐らくそのためだろう。
だからダリルも黙ったまま背中に手を回し、同じ、いやそれ以上の強さで抱きしめ返した。
そして嵐が去るのを待つように、カーティスの胸中の悲しい猛りがおさまるのをただひたすら待ち続けた。
「――……すまない。ずっと同じ体勢で辛かっただろう」
しばらくして、カーティスは落ち着いた口調で労るように言って体を離した。
強く抱きしめられ続け、少し体がジンジンしていたが、ダリルは首を横に振った。
「いえ、全然辛くないですよ。むしろ、まだ腕の中にいたいほどです」
気を遣わせないよう少しおどけて言うと、カーティスは愛おしげに目を細め、唇にキスをした。
レイラが死に際に残した言葉――、あれは紛れもなく呪いだ。
レイラ自身にそういった意図があったかは定かではないが、現にカーティスはこうして自責の念に襲われ、あの言葉に囚われている。
これは、誰が何を言おうと解けない呪いだ。
(それでも……っ)
ダリルは意を決して口を開いた。
「……以前、レイラ様が話していました。自分には予知夢が見れるのだと」
「予知夢?」
「はい」
頷いて答えながら、ダリルは話すべきか未だに迷っていた。
それでも躊躇いがちに話を続けた。
「……レイラ様は昔、生まれ育った故郷で母親からも村人からも奴隷同然のひどい扱いをうけていたそうです。そんな辛い中、予知夢でカーティス様に出会ったと言っていました。優しいカーティス様は、その時の彼女にとって、生きる希望だったと話していました」
レイラの恋心は確かに間違った方向へと暴走してしまった。
しかし、カーティスとの予知夢での出会いを語る彼女の瞳には、闇から抜け出すための細い糸をようやく見つけ出したかのような、もうこの一縷の望みに縋りつくしかないという妄信的な危うさがあった。
そこまでレイラは過酷な状況にあったのだ。もし、予知夢の中でカーティスが彼女に優しく微笑みかけることがなかったなら、彼女は死ぬまで希望というものを知らず、あの閉鎖的な村で生涯を終えていたのかもしれない。
実の母にも愛されることなく疎まれ、奴隷扱いされる日々が淡々と続く人生……。想像しただけで、胸が締め付けられた。
「確かにそれはレイラ様が恋心を抱くきっかけになったのかもしれません。……でも、カーティス様の優しさが、レイラ様を救ったことには間違いありません。それは、誇るべきことで、カーティス様の優しさは間違いなく美点です。だから、レイラ様に優しく接したこと、後悔なんてしないでください」
自分は亡くなったクリスティーナのことを知らないからそう言えるだけかもしれない。
しかし、カーティスに幼いレイラの心を救ったこと、そして自身の優しさを否定してほしくなかった。
「それに、カーティス様はもしレイラ様の気持ちに気づいていたとしても、きっと突き放したりできなかったと思いますよ。だって、カーティス様は優しいから。……そんな優しいカーティス様が、俺は大好きです。だから、自分をそんなに責めないでください」
そう言って、ダリルはカーティスが先ほどしてくれたように、彼の膝の上で痛々しく握られた拳をそっと包み込んだ。
「……っ」
カーティスの瞳に涙の気配が漂う。
抑えていたものが溢れ出てくるのを必死に耐えるようにして言葉を飲み込むと、カーティスはダリルを強く抱き寄せた。
無言のまま深く強く抱きしめるカーティスの腕から、胸中の悲痛な叫びが痛いほど伝わってきた。その腕に暴力的な荒々しさなど一切ないのに、まるで竜巻の中にいるかのような錯覚に陥るのは、恐らくそのためだろう。
だからダリルも黙ったまま背中に手を回し、同じ、いやそれ以上の強さで抱きしめ返した。
そして嵐が去るのを待つように、カーティスの胸中の悲しい猛りがおさまるのをただひたすら待ち続けた。
「――……すまない。ずっと同じ体勢で辛かっただろう」
しばらくして、カーティスは落ち着いた口調で労るように言って体を離した。
強く抱きしめられ続け、少し体がジンジンしていたが、ダリルは首を横に振った。
「いえ、全然辛くないですよ。むしろ、まだ腕の中にいたいほどです」
気を遣わせないよう少しおどけて言うと、カーティスは愛おしげに目を細め、唇にキスをした。
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