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その心配には及ばない
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「……――その言葉、そっくりそのまま、お返しします。貴女も俺に同情する余裕なんてないですよ」
「え……?」
苦悶の色がすっかり消えたダリルの声に、レイラは目を見開いた。
さらにスッとダリルが体を起こすと、レイラの顔は一層、驚愕と狼狽の色を深めた。
「ど、どうして……?」
ふらりと後ろによろめくレイラに、ダリルは先ほど咳き込んだ時に使ったハンカチを広げて見せた。
そこには小さく丸めた脱脂綿があった。
「すみません。さっきの紅茶、実は一口も飲んでいません。口の中にあらかじめ脱脂綿を入れておいて、全部それに吸わせました」
そして咳き込むふりをして、それをハンカチに吐き出したのだ。
「貴女の呪いは、呪詛だけでは不完全で、呪いの媒介となるものを相手の体内に入れないといけない……、そうですよね?」
「ど、どうして、そのことを……」
自分の呪いの仕組みを暴かれ、レイラはすっかり困惑していた。
「いろいろと調べたんです」
ダリルはやり直しで目覚めてから今日までの日々のことを思い返した。
まず、ダリルは王立図書館で呪いの文献を読み漁った。
前回、レイラが口にした呪詛らしき言葉を手がかりに、彼女の呪いの原理を知ろうと思ったのだが、文献を読んでいくうちに、呪詛だけでは人を死に至らしめることはできないことが分かった。
さらに、呪いの方法は同地域では似通ったものが多いということも知り、ダリルはカーティスに頼んで護衛を一人つけ、彼女の故郷の隣村へ向かった。
そこで村人たちと粘り強く交渉し情報を買い、ついに呪術師を名乗る老婆と話ができたのだ。
彼女の呪詛の響きはレイラのものとよく似ており、また呪いの媒介についてもそこで知った。
そして、老婆の部屋に漂う薬草の匂いは、あの日、レイラが淹れてくれた紅茶とよく似ていた。
そこで、ダリルはレイラの呪いがあの紅茶を媒介としたものだと仮定した。
しかし、あくまで呪いの方法が仮定できただけで、彼女がクリスティーナやカイル、そしてカーティスに呪いをかけた証拠を掴むには至らなかった。
恐らく過去のこと、しかも呪いという不明確なものの証拠を探すというのは極めて困難だろう。さらに、ダリルには時間がなかった。
だから、ダリルは一か八かで、あえてレイラに呪いをかける機会を与えることにした。
現行の証拠であれば、いくらでも掴める。
それに、もし自分の読みが外れていて、また呪いで死ぬことになっても、またやり直せるのだ。
そのためなら死の苦悶を味わうことくらい、何てことはなかった。
「……ふふっ」
うなだれていたレイラが、唐突に笑って顔を上げた。その瞳は普段の彼女から考えられないほど険しく、鋭いものだった。
「勝った気でいるようですけど、果たしてお兄様はそんな話を信じるかしら? それに証拠なんてひとつもない。その紅茶も呪詛がなければ、ただの紅茶。貴方の話は単なる妄想じみた憶測でしかなくってよ!」
目をギラギラと血走らせながら、口角に泡を溜めて叫ぶ。それは、追い詰められて余裕のない何よりの証拠で、虚勢じみた最後の悪あがきにしか見えなかった。
それが一層、痛々しかった。
「――その心配には及ばない」
ダリルでもレイラでもない声が、部屋に響いた。
レイラが驚愕の表情で振り返る。そこにはカーティスと、護衛の人間が三人立っていた。
「部屋の前で話は聞いていた。――レイラ・ハウエル、お前をクリスティーナ・ハウエル殺害の罪で拘束する」
「え……?」
苦悶の色がすっかり消えたダリルの声に、レイラは目を見開いた。
さらにスッとダリルが体を起こすと、レイラの顔は一層、驚愕と狼狽の色を深めた。
「ど、どうして……?」
ふらりと後ろによろめくレイラに、ダリルは先ほど咳き込んだ時に使ったハンカチを広げて見せた。
そこには小さく丸めた脱脂綿があった。
「すみません。さっきの紅茶、実は一口も飲んでいません。口の中にあらかじめ脱脂綿を入れておいて、全部それに吸わせました」
そして咳き込むふりをして、それをハンカチに吐き出したのだ。
「貴女の呪いは、呪詛だけでは不完全で、呪いの媒介となるものを相手の体内に入れないといけない……、そうですよね?」
「ど、どうして、そのことを……」
自分の呪いの仕組みを暴かれ、レイラはすっかり困惑していた。
「いろいろと調べたんです」
ダリルはやり直しで目覚めてから今日までの日々のことを思い返した。
まず、ダリルは王立図書館で呪いの文献を読み漁った。
前回、レイラが口にした呪詛らしき言葉を手がかりに、彼女の呪いの原理を知ろうと思ったのだが、文献を読んでいくうちに、呪詛だけでは人を死に至らしめることはできないことが分かった。
さらに、呪いの方法は同地域では似通ったものが多いということも知り、ダリルはカーティスに頼んで護衛を一人つけ、彼女の故郷の隣村へ向かった。
そこで村人たちと粘り強く交渉し情報を買い、ついに呪術師を名乗る老婆と話ができたのだ。
彼女の呪詛の響きはレイラのものとよく似ており、また呪いの媒介についてもそこで知った。
そして、老婆の部屋に漂う薬草の匂いは、あの日、レイラが淹れてくれた紅茶とよく似ていた。
そこで、ダリルはレイラの呪いがあの紅茶を媒介としたものだと仮定した。
しかし、あくまで呪いの方法が仮定できただけで、彼女がクリスティーナやカイル、そしてカーティスに呪いをかけた証拠を掴むには至らなかった。
恐らく過去のこと、しかも呪いという不明確なものの証拠を探すというのは極めて困難だろう。さらに、ダリルには時間がなかった。
だから、ダリルは一か八かで、あえてレイラに呪いをかける機会を与えることにした。
現行の証拠であれば、いくらでも掴める。
それに、もし自分の読みが外れていて、また呪いで死ぬことになっても、またやり直せるのだ。
そのためなら死の苦悶を味わうことくらい、何てことはなかった。
「……ふふっ」
うなだれていたレイラが、唐突に笑って顔を上げた。その瞳は普段の彼女から考えられないほど険しく、鋭いものだった。
「勝った気でいるようですけど、果たしてお兄様はそんな話を信じるかしら? それに証拠なんてひとつもない。その紅茶も呪詛がなければ、ただの紅茶。貴方の話は単なる妄想じみた憶測でしかなくってよ!」
目をギラギラと血走らせながら、口角に泡を溜めて叫ぶ。それは、追い詰められて余裕のない何よりの証拠で、虚勢じみた最後の悪あがきにしか見えなかった。
それが一層、痛々しかった。
「――その心配には及ばない」
ダリルでもレイラでもない声が、部屋に響いた。
レイラが驚愕の表情で振り返る。そこにはカーティスと、護衛の人間が三人立っていた。
「部屋の前で話は聞いていた。――レイラ・ハウエル、お前をクリスティーナ・ハウエル殺害の罪で拘束する」
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