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人に同情している余裕はない
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思いがけない言葉に目を丸くする。
「いえ、ちょっと噂に聞いたんです。聖女様は邪術にも精通していると……。もしそうだとすれば、お兄様に振られることで、ダリル様への恨みをつのらせて、何か仕掛けてくるかもしれません」
深刻な面持ちで言いながら俯くレイラだったが、意を決したように顔を上げた。
「余計なお世話かもしれませんが、一度ハウエル家を離れることを考えてみてはどうですか? 住む場所や当面の生活費は私が準備しますわ。……大事なお友達であるダリル様に何かあったら、私、自分を恨んでも恨みきれません」
薄っすらと涙を浮かべた瞳で、真摯な眼差しを向けるレイラ。
恐らく、ダリルを大事な友達だと思っていることは本心なのだ。だからこそ、切なく悲しくなった。
もし、ここでレイラの提案を受け入れれば彼女はダリルのよき友人のままでいられるのだろう。
しかし、ダリルにはレイラの親愛を失ってでも、手に入れたい、手に入れなければならないものがあった。
ダリルは自分を奮い立たせるようにぎゅっと拳に力を入れた。
「……レイラ様、お気遣いいただきありがとうございます。でも、私――、いや、俺、決めたんです。何があっても絶対に傍にいるって。聖女様にも、呪いにも、絶対に負けません」
固い決意を宿した目で、真っ直ぐレイラを見据える。
思いもよらず向けられたその強い眼差しに、レイラは一瞬、怯むように戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに神妙な顔つきに戻った。
「……お気持ちは変わらないようですね」
「はい」
「そう、それは……――、とても残念です」
そう言うと、レイラは重く禍々しい声で呪詛の言葉を紡いだ。
あの時と同じだ。
「……ッ、あ……ッ、がっ、あぁ……っ」
ダリルはうめき声を上げながら、胸元を両手で掻きむしるようにして前に突っ伏した。
「……本当に残念ですわ。せっかく最後のチャンスをあげたのに」
あの時と同じ様に、冷たい憐れみと嘲りを含んだ声でレイラが言って、スッと立ち上がる。
「ま、まさか、これは……」
呼吸を荒らげながら顔を上げレイラの方を見ると、彼女は微笑んだ。
「ふふっ、クリスティーナ様と同じ呪いですわ」
得意げに微笑んで言うレイラに、ダリルは顔を歪めた。
「ど、どうして……」
「決まっています。――お兄様を愛しているからです」
レイラはうっとりと毒々しい微笑みを浮かべて言った。
その微笑みを見るのは二度目だが、それでも背筋に走る戦慄は止められなかった。
「クリスティーナ様に続き再婚相手のダリル様まで同じような死に方をすれば、さすがにもう誰もお兄様と結婚したいなんて名乗り出ないでしょう?」
「ま、まさか……、カーティス様に他の人間が言い寄ってこないようにするため、ただ、それだけのために……?」
「ええ、その通りです」
レイラはゆったりと頷いた。
「じゃあ、カイルの痣も……?」
「ええ、再婚希望者が予想以上に多くて、それを一掃するため、仕方なく。でも、加減はしましたからあの女のように死に至るほどの呪いではないですわ。その証拠に時と共に消えたでしょう?」
カイルとカーティスをあんなにも苦しめておきながら、レイラは相変わらず少しも悪びれる様子はなかった。
「ひ、ひどい……っ、よくも、そんな……っ! あっ、あぁあ、が……っ」
激しく呻いて再びうつ伏せるダリルに、レイラはくすりと冷たく笑った。
「あらあら、苦しそう。人に同情している余裕はないはずですわよ」
「いえ、ちょっと噂に聞いたんです。聖女様は邪術にも精通していると……。もしそうだとすれば、お兄様に振られることで、ダリル様への恨みをつのらせて、何か仕掛けてくるかもしれません」
深刻な面持ちで言いながら俯くレイラだったが、意を決したように顔を上げた。
「余計なお世話かもしれませんが、一度ハウエル家を離れることを考えてみてはどうですか? 住む場所や当面の生活費は私が準備しますわ。……大事なお友達であるダリル様に何かあったら、私、自分を恨んでも恨みきれません」
薄っすらと涙を浮かべた瞳で、真摯な眼差しを向けるレイラ。
恐らく、ダリルを大事な友達だと思っていることは本心なのだ。だからこそ、切なく悲しくなった。
もし、ここでレイラの提案を受け入れれば彼女はダリルのよき友人のままでいられるのだろう。
しかし、ダリルにはレイラの親愛を失ってでも、手に入れたい、手に入れなければならないものがあった。
ダリルは自分を奮い立たせるようにぎゅっと拳に力を入れた。
「……レイラ様、お気遣いいただきありがとうございます。でも、私――、いや、俺、決めたんです。何があっても絶対に傍にいるって。聖女様にも、呪いにも、絶対に負けません」
固い決意を宿した目で、真っ直ぐレイラを見据える。
思いもよらず向けられたその強い眼差しに、レイラは一瞬、怯むように戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに神妙な顔つきに戻った。
「……お気持ちは変わらないようですね」
「はい」
「そう、それは……――、とても残念です」
そう言うと、レイラは重く禍々しい声で呪詛の言葉を紡いだ。
あの時と同じだ。
「……ッ、あ……ッ、がっ、あぁ……っ」
ダリルはうめき声を上げながら、胸元を両手で掻きむしるようにして前に突っ伏した。
「……本当に残念ですわ。せっかく最後のチャンスをあげたのに」
あの時と同じ様に、冷たい憐れみと嘲りを含んだ声でレイラが言って、スッと立ち上がる。
「ま、まさか、これは……」
呼吸を荒らげながら顔を上げレイラの方を見ると、彼女は微笑んだ。
「ふふっ、クリスティーナ様と同じ呪いですわ」
得意げに微笑んで言うレイラに、ダリルは顔を歪めた。
「ど、どうして……」
「決まっています。――お兄様を愛しているからです」
レイラはうっとりと毒々しい微笑みを浮かべて言った。
その微笑みを見るのは二度目だが、それでも背筋に走る戦慄は止められなかった。
「クリスティーナ様に続き再婚相手のダリル様まで同じような死に方をすれば、さすがにもう誰もお兄様と結婚したいなんて名乗り出ないでしょう?」
「ま、まさか……、カーティス様に他の人間が言い寄ってこないようにするため、ただ、それだけのために……?」
「ええ、その通りです」
レイラはゆったりと頷いた。
「じゃあ、カイルの痣も……?」
「ええ、再婚希望者が予想以上に多くて、それを一掃するため、仕方なく。でも、加減はしましたからあの女のように死に至るほどの呪いではないですわ。その証拠に時と共に消えたでしょう?」
カイルとカーティスをあんなにも苦しめておきながら、レイラは相変わらず少しも悪びれる様子はなかった。
「ひ、ひどい……っ、よくも、そんな……っ! あっ、あぁあ、が……っ」
激しく呻いて再びうつ伏せるダリルに、レイラはくすりと冷たく笑った。
「あらあら、苦しそう。人に同情している余裕はないはずですわよ」
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