役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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聖女様の仕業でしょうか

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 やり直しが始まってから五日目、前回レイラに殺されたその日がやってきた。
 あの日と同じく、外は激しく雨が降っていた。
 ただ、あの日と違うのは、レイラの屋敷ではなく、ハウエル公爵邸の寝室にいることだった。

「ダリル様、大丈夫ですか?」

 ベッドで横になるダリルに、訪ねてきたレイラがベッドの脇から心配そうに声をかける。
 ダリルはハンカチを口に当てごほごほと咳き込みながら、体をゆっくり起こした。

「大丈夫です。少し風邪を引いたみたいで……。寝てればすぐ治るそうです。それより、今日はせっかく招いてくれていたのに、すみません」
「お気になさらないで。どうぞゆっくり休まれてください。むしろ体調が悪い時に押しかけてごめんなさい」
「いえ、咳が少し出るくらいですから。むしろお見舞いに来ていただいて嬉しいくらいです」
「それならよかった」

 ほっと頬を緩めて言って、レイラはベッド脇の椅子に腰掛けた。

「ところでお兄様は今もしかして聖女様と……?」

 若干声を潜めてレイラが訊ねる。

「はい、そうです。今、自室で聖女様の治癒を受けています」
「……いいのですか? この間、聖女様から宣戦布告を受けたのでしょう?」

 心配そうに眉根を寄せてレイラが言った。
 前回となるべく同じ状況とするため、あえてレイラにはカリーナが今日、カーティスに想いを告げる件について事前に手紙で打ち明けていた。

「ええ、構いません。判断するのはカーティス様ですから」
「そんなの絶対にお兄様はダリル様をとるに決まっていますわ。……ただ、そうなった時、聖女様の憎しみがダリル様に向かうのではないかと思ったら心配で心配で……」

 レイラは憂いを帯びた溜め息を吐いた。
 とても自分に殺意を抱いているとは思えない顔で、ダリルは白々しく思うより切なくなった。
 いっそあれが夢であったならどれだけいいだろう……などと思っていると、ドアをノックして使用人が紅茶を持ってきた。
 ティーセットを受け取ると、レイラは使用人を下がらせた。
 
「今日の紅茶の茶葉は私が持ってきたものなんです。体に良いと言われる茶葉をブレンドしたんです。リラックス効果もありますから、きっと心も落ち着きますわ」

 カップに紅茶を注ぎながら説明するレイラの言葉は、あの日聞いたものとよく似ていた。

「よかったらどうぞ」

 微笑んでティーカップを差し出され、ごくりと息を呑んだ。
 しかし、ダリルは緊張を気取られぬよう微笑み返してそれを受け取った。

「ありがとうございます」
「ふふっ、お口に合うといいのですが」

 善意に満ちた眼差しで、ダリルが紅茶を口にするのを待つレイラ。
 ダリルは意を決してそれを口に運んだ。

「……ッ、ごほっ、ごほ……っ!」
「ダリル様!」

 口に入れた途端、ハンカチで口を押さえながら咳き込み始めたダリルにレイラが驚いて腰を上げる。

「だ、大丈夫ですか……?」

 背中を優しくさすりながら問うレイラに、ダリルは頷いて返した。

「大丈夫です。ただ、喉が少し腫れていて、それで少しむせてしまいました」
「まぁ、そうでしたので。通りで、今日は少し話しにくそうだと思ったんです」
「でも少し話しにくいだけでそんなに痛くないですから大丈夫ですよ。紅茶も美味しかったです。ありがとうございます」

 そう言ってダリルはレイラにティーカップを返した。

「……もしかして、この体調の悪さ、聖女様の仕業でしょうか?」

 受け取ったティーカップをテーブルに置きながら、レイラが言った。

「え?」
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