73 / 86
連載
聖女様の仕業でしょうか
しおりを挟む****
やり直しが始まってから五日目、前回レイラに殺されたその日がやってきた。
あの日と同じく、外は激しく雨が降っていた。
ただ、あの日と違うのは、レイラの屋敷ではなく、ハウエル公爵邸の寝室にいることだった。
「ダリル様、大丈夫ですか?」
ベッドで横になるダリルに、訪ねてきたレイラがベッドの脇から心配そうに声をかける。
ダリルはハンカチを口に当てごほごほと咳き込みながら、体をゆっくり起こした。
「大丈夫です。少し風邪を引いたみたいで……。寝てればすぐ治るそうです。それより、今日はせっかく招いてくれていたのに、すみません」
「お気になさらないで。どうぞゆっくり休まれてください。むしろ体調が悪い時に押しかけてごめんなさい」
「いえ、咳が少し出るくらいですから。むしろお見舞いに来ていただいて嬉しいくらいです」
「それならよかった」
ほっと頬を緩めて言って、レイラはベッド脇の椅子に腰掛けた。
「ところでお兄様は今もしかして聖女様と……?」
若干声を潜めてレイラが訊ねる。
「はい、そうです。今、自室で聖女様の治癒を受けています」
「……いいのですか? この間、聖女様から宣戦布告を受けたのでしょう?」
心配そうに眉根を寄せてレイラが言った。
前回となるべく同じ状況とするため、あえてレイラにはカリーナが今日、カーティスに想いを告げる件について事前に手紙で打ち明けていた。
「ええ、構いません。判断するのはカーティス様ですから」
「そんなの絶対にお兄様はダリル様をとるに決まっていますわ。……ただ、そうなった時、聖女様の憎しみがダリル様に向かうのではないかと思ったら心配で心配で……」
レイラは憂いを帯びた溜め息を吐いた。
とても自分に殺意を抱いているとは思えない顔で、ダリルは白々しく思うより切なくなった。
いっそあれが夢であったならどれだけいいだろう……などと思っていると、ドアをノックして使用人が紅茶を持ってきた。
ティーセットを受け取ると、レイラは使用人を下がらせた。
「今日の紅茶の茶葉は私が持ってきたものなんです。体に良いと言われる茶葉をブレンドしたんです。リラックス効果もありますから、きっと心も落ち着きますわ」
カップに紅茶を注ぎながら説明するレイラの言葉は、あの日聞いたものとよく似ていた。
「よかったらどうぞ」
微笑んでティーカップを差し出され、ごくりと息を呑んだ。
しかし、ダリルは緊張を気取られぬよう微笑み返してそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「ふふっ、お口に合うといいのですが」
善意に満ちた眼差しで、ダリルが紅茶を口にするのを待つレイラ。
ダリルは意を決してそれを口に運んだ。
「……ッ、ごほっ、ごほ……っ!」
「ダリル様!」
口に入れた途端、ハンカチで口を押さえながら咳き込み始めたダリルにレイラが驚いて腰を上げる。
「だ、大丈夫ですか……?」
背中を優しくさすりながら問うレイラに、ダリルは頷いて返した。
「大丈夫です。ただ、喉が少し腫れていて、それで少しむせてしまいました」
「まぁ、そうでしたので。通りで、今日は少し話しにくそうだと思ったんです」
「でも少し話しにくいだけでそんなに痛くないですから大丈夫ですよ。紅茶も美味しかったです。ありがとうございます」
そう言ってダリルはレイラにティーカップを返した。
「……もしかして、この体調の悪さ、聖女様の仕業でしょうか?」
受け取ったティーカップをテーブルに置きながら、レイラが言った。
「え?」
224
お気に入りに追加
7,005
あなたにおすすめの小説

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。