役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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他ならぬ君のことだからな

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 その視線を追ってダリルもそちらの方を見ると、テーブルの上には果物などが所狭しと並べられていた。

「食欲がないとはいえ、何か食べなければと思って買ってきた。食べやすいものや、胃腸の働きに効くもの、滋養のあるもの……、店主に聞いて片っ端から買っていたらいつの間にかあんな量になってしまった」

 恥じ入るように言うカーティスに、ダリルは小さく笑った。

「ははっ、あれを全部食べたら逆にお腹を壊しそうですね」
「面目ない……」
「いえ、嬉しいです。それに、あれを見ていたら何だか食欲が湧いてきました。ありがとうございます」
「それならよかった」

 カーティスは嬉しそうに目元を綻ばせた。

「医者は呼ばなくていいと言ったそうだが、本当に大丈夫か? 一応、診てもらおうか」
「大丈夫ですよ。さっきも言った通り、寝たいがための方便で、体はいたって健康です。カーティス様は心配性ですね」
「他ならぬ君のことだからな」

 からかうように言うダリルに、柔らかな真面目さで恥ずかしげもなく言い切って、ダリルの手にそっと自身の手を重ねた。

「君とはまだまだたくさん思い出を作りたいんだ。だから健康でいてもらわなくては困る」

 カーティスはそう言って、優しく微笑みかけた。

「私の痣がよくなったら、どこか遠出の旅行をしよう。カイルと三人で行くのもいいが、君と二人きりでも行ってみたい。旅先でまだ知らない君の一面をたくさん見たい」

 言いながら、ゆるりと指先を絡める。

「私はきっと君のことをまだまだ知らない。だからもっとたくさん、君のことを知りたい。この世界の誰よりも、君のことを知っている人間になりたいんだ」

 甘やかな、懇願にも似た声音で言うと、カーティスはダリルの手の甲に柔らかにキスした。

「……っ」

 カーティスの言葉に、胸が熱くなる。
 カーティスは真っ直ぐ二人でいる未来を見つめている。なのに、自分は何を弱気になっていたのだろう。
 たとえカリーナの話が真実で、カーティスを裏切るのがこの物語上の自分の役目だとしても知ったことではない。

(もう、役目なんかに縛られるのは懲り懲りだ……! 何百回、何千回、何万回とやり直しをされても、絶対に諦めない……!)

 ダリルの胸に、揺るぎない、熱い決意が湧き上がった。
 
(世界の方が諦めて結末を変えるくらい、何度だってやり直してやる……!)

 物語に対する宣戦布告のように言い放って、ダリルはその勢いに任せるようにカーティスにキスをした。
 突然のダリルからのキスに、カーティスは目を見張った。
 ダリルは唇を離すと、満面の笑みを浮かべた。

「私も、もっとカーティス様のことが知りたいです! だから、絶対に旅行に行きましょうね。絶対、絶対に……っ」

 胸から溢れ出る決意を込めるように、カーティスの拳を両手でぎゅっと包み込んだ。
 妙に意気込むダリルに驚くカーティスだったが、次には頬を綻ばせた。

「ああ、絶対だ」

 力強く答えて、カーティスが口づける。それだけで、カリーナの話に打ちしおれていた心が嘘のように、みなぎってきた。

 ――できることなら、君のいる百年を手に入れたい。そのためにはどんな手でも使うし、最後の最後まで諦めないつもりだ。

 いつかカーティスが言った言葉を思い出す。
 まさに今のダリルもこの時のカーティスの気持ちと同じだった。
 何が何でもカーティスと共にある未来を手に入れる。そのためには、絶対に諦めたりなんかしない。
 それに、何度あの死の苦悶を味わうことになっても、やり直しを繰り返す間は、カーティスの傍にいられるのだ。そんな幸せなことはない。

「……カーティス様」

 唇を離すと、ダリルは真っ直ぐカーティスを見て言った。

「少しお願いしたいことがあるのですが……――」
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