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もし、人生をやり直せるとしたら
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しかし、徐々に腹の底から怒りが湧き上がり、次には目尻をあらん限りに吊り上げ、レイラを睨み据えた。
「どう、して……っ、どうし、て……!」
「だって、お兄様に次々と縁談がくるんですもの。鬱陶しい蝿を一掃するためには仕方のないことでした。もちろん、呪いの加減はしましたわ。だってカイルは大事な跡継ぎですもの。死んでしまったら、それこそ本末転倒ですわ。またお兄様が結婚しないといけなくなりますもの」
殺気立ったダリルの瞳に少しも動じることなく、まるで自分に何ひとつ非がないかのように平然と、肩をすくめさえして答えるレイラに、怒りの勢いが増した。
(カイルが……っ、カーティス様が、どれだけあの痣のことで悩んで傷ついてきたと思ってるんだ……っ!)
胸ぐらに掴みかかって怒鳴りつけたいくらいなのに、体が全く言うことをきかない。痛みが飽和状態になり、痛覚さえ麻痺してきたようだった。
「私の思惑通り、お兄様に縁談を持ちかける者もいなくなりましたわ」
するりと脚を組んで、涼しい顔で言うレイラは、どこか得意げですらあって、なおさら腹立たしかった。
「これでお兄様は生涯独身、もう誰のものにもならない……――、そう思っていたのに、ダリル様、貴方が現れてしまった」
レイラはそう言って、ダリルをじっと見下ろした。
そこには恋する乙女の嫉妬心もあることにはあったが、その表情は悲しげに歪んでいた。
彼女にとって恋敵に違いないだろうに、クリスティーナの名前を口にした時とは随分様子の違うその表情に、ダリルは少し戸惑った。
「……一年だけの契約結婚なら、別にいいと思っていました。ダリル様のことは見逃すつもりでしたわ。だから、契約延長となった時は心底驚きました」
膝の上でレイラがぎゅっと拳を握った。
「いろいろと嘘をついてきたから信じてもらえないかもしれませんけど、私、ダリル様とずっと友達でいたかった。それは本当ですのよ」
目に涙をためて、自嘲の色を微かに頬に浮かばせ力なく微笑む。
それが弁解じみた嘘ではなく紛れもない本心だということはその瞳を見ればすぐに分かった。
「だから警告として脅迫文まで送ったのに、ダリル様ったら少しも怯まないんですもの。それで、仕方なくお兄様に呪いをかけたんです。まぁ、それでもダリル様は引きませんでしたが……。本当に、残念です」
レイラは俯き、きゅっと唇を噛んだ。
しばらくの間、二人の間に沈黙が落ちた。
部屋には、雨風が荒々しく窓を叩く音と、ほとんど生命の気配がないダリルのかすれた喘鳴だけが響いていた。
どのくらいの時が経った頃だろうか。長く感じたが、ほんの数分かもしれない。
レイラがスッと立ち上がり、ダリルの顔を覗き込んだ。
しかし、ダリルの目はほとんど機能しておらず、ぼんやりとしたシルエットを捉えるだけで、その表情は見えなかった。
痛苦に満ちた体から、静かに生命の熱が引いていき、代わりに暗い死の気配がじわじわと全身に広がっていくのを感じた。
レイラはダリルの頬にそっと触れた。
「もし、人生をやり直せるとしたら、どうか、次はお兄様のもとを離れる選択をしてください。そうすれば、私たちきっといい友達でいられますわ」
「どう、して……っ、どうし、て……!」
「だって、お兄様に次々と縁談がくるんですもの。鬱陶しい蝿を一掃するためには仕方のないことでした。もちろん、呪いの加減はしましたわ。だってカイルは大事な跡継ぎですもの。死んでしまったら、それこそ本末転倒ですわ。またお兄様が結婚しないといけなくなりますもの」
殺気立ったダリルの瞳に少しも動じることなく、まるで自分に何ひとつ非がないかのように平然と、肩をすくめさえして答えるレイラに、怒りの勢いが増した。
(カイルが……っ、カーティス様が、どれだけあの痣のことで悩んで傷ついてきたと思ってるんだ……っ!)
胸ぐらに掴みかかって怒鳴りつけたいくらいなのに、体が全く言うことをきかない。痛みが飽和状態になり、痛覚さえ麻痺してきたようだった。
「私の思惑通り、お兄様に縁談を持ちかける者もいなくなりましたわ」
するりと脚を組んで、涼しい顔で言うレイラは、どこか得意げですらあって、なおさら腹立たしかった。
「これでお兄様は生涯独身、もう誰のものにもならない……――、そう思っていたのに、ダリル様、貴方が現れてしまった」
レイラはそう言って、ダリルをじっと見下ろした。
そこには恋する乙女の嫉妬心もあることにはあったが、その表情は悲しげに歪んでいた。
彼女にとって恋敵に違いないだろうに、クリスティーナの名前を口にした時とは随分様子の違うその表情に、ダリルは少し戸惑った。
「……一年だけの契約結婚なら、別にいいと思っていました。ダリル様のことは見逃すつもりでしたわ。だから、契約延長となった時は心底驚きました」
膝の上でレイラがぎゅっと拳を握った。
「いろいろと嘘をついてきたから信じてもらえないかもしれませんけど、私、ダリル様とずっと友達でいたかった。それは本当ですのよ」
目に涙をためて、自嘲の色を微かに頬に浮かばせ力なく微笑む。
それが弁解じみた嘘ではなく紛れもない本心だということはその瞳を見ればすぐに分かった。
「だから警告として脅迫文まで送ったのに、ダリル様ったら少しも怯まないんですもの。それで、仕方なくお兄様に呪いをかけたんです。まぁ、それでもダリル様は引きませんでしたが……。本当に、残念です」
レイラは俯き、きゅっと唇を噛んだ。
しばらくの間、二人の間に沈黙が落ちた。
部屋には、雨風が荒々しく窓を叩く音と、ほとんど生命の気配がないダリルのかすれた喘鳴だけが響いていた。
どのくらいの時が経った頃だろうか。長く感じたが、ほんの数分かもしれない。
レイラがスッと立ち上がり、ダリルの顔を覗き込んだ。
しかし、ダリルの目はほとんど機能しておらず、ぼんやりとしたシルエットを捉えるだけで、その表情は見えなかった。
痛苦に満ちた体から、静かに生命の熱が引いていき、代わりに暗い死の気配がじわじわと全身に広がっていくのを感じた。
レイラはダリルの頬にそっと触れた。
「もし、人生をやり直せるとしたら、どうか、次はお兄様のもとを離れる選択をしてください。そうすれば、私たちきっといい友達でいられますわ」
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