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初めてできた私の大事なお友達
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思いもよらない問いかけに戸惑うダリルに、レイラは躊躇いがちに続けた。
「ダリル様は今、ハウエル家を呪う人間と聖女様、双方に狙われていると言っても過言ではない状況ですわ。もちろん、お兄様もダリル様も互いを深く大事に想われていて、その上での決断だということは重々承知しています。……ですが、私にとってダリル様は大事な友達です。ですから、ハウエル家を去ることでダリル様が無事となるなら、私はそちらの方がいいと思うんです」
そう言うと、レイラはソファの下からトランクを取り出しテーブルの上に置いた。そして、
「今日、ここにダリル様を呼んだのは、聖女様から守るということもありますが、ハウエル家から逃げるお手伝いをしたいと思ったからでもあるんです」
「え……っ」
予想だにしていなかった言葉が続き、ダリルはすっかり困惑した。しかし、レイラは真剣そのものの表情で、畳み掛けるように話し続けた。
「屋敷の外に馬車を準備しています。この中にはしばらくは生活に困らないお金も入っています。もし足りなくなったら、私に連絡してくださればいくらでも援助しますわ。あと住む場所についてですが――」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
ダリルは思わずレイラの話を遮った。
「は、話が急すぎて、ちょっと理解が……」
戸惑って言うと、レイラはそこでようやくハッとして、自身の言動を恥じ入るように俯いた。
「……ごめんなさい。先走って勝手なことを言って……。でもっ、私、ダリル様に危ない目にあってほしくないんですっ」
そう言って、弾けるようにして顔を上げた。
「だって……、ダリル様は、初めてできた私の大事なお友達なんですもの」
泣きそうな声で言って、レイラはダリルを真っ直ぐ見つめた。涙に濡れた瞳は切実そのものであり、レイラがダリルを友としてどれだけ大事に思ってくれてるかが伝わってきて、嬉しさに胸が熱くなった。
しかし、自分はもう決めたのだ。
最後の最後まで諦めないと口にしたカーティスの強い決意が込められた腕の中、ダリルもまた決心したのだった。
ダリルは目尻に滲んだ涙を指で払って、レイラに向き直った。
「ありがとうございます。レイラ様の気持ちはすごく嬉しいです。……でも、私はこの先もずっとハウエル家に居続けます」
柔らかな、しかし揺るぎない芯のある声ではっきりと言うと、レイラは目を見張った。
ダリルはその瞳に自身の決心を語りかけるように微笑みかけた。
「カーティス様と約束したんです。何があってもずっと傍に居続けるって。だから、たとえ呪いが明日この身に降りかかると分かっても、離れるつもりはありません」
言い切って、胸から爽快な決意が溢れ出るのを感じた。
窓の外の暗鬱な空模様も吹き飛ぶような清々しさが、そこにはあった。
向けられる眼差しにダリルの決意の固さを感じ取ったのだろう、レイラは最初こそ目を見張っていたが、次にはフッと微かに笑んだ。
「……気持ちはもう変わらないのですね」
念を押すように確認するレイラに、ダリルは頷き返した。
「はい、変わりません」
「そう……。それは――すごく残念です」
「え……?」
口元に微笑を保ちながら紡がれた思いもよらぬ言葉、そしてその冷たい声に、耳を疑った。
「ダリル様は今、ハウエル家を呪う人間と聖女様、双方に狙われていると言っても過言ではない状況ですわ。もちろん、お兄様もダリル様も互いを深く大事に想われていて、その上での決断だということは重々承知しています。……ですが、私にとってダリル様は大事な友達です。ですから、ハウエル家を去ることでダリル様が無事となるなら、私はそちらの方がいいと思うんです」
そう言うと、レイラはソファの下からトランクを取り出しテーブルの上に置いた。そして、
「今日、ここにダリル様を呼んだのは、聖女様から守るということもありますが、ハウエル家から逃げるお手伝いをしたいと思ったからでもあるんです」
「え……っ」
予想だにしていなかった言葉が続き、ダリルはすっかり困惑した。しかし、レイラは真剣そのものの表情で、畳み掛けるように話し続けた。
「屋敷の外に馬車を準備しています。この中にはしばらくは生活に困らないお金も入っています。もし足りなくなったら、私に連絡してくださればいくらでも援助しますわ。あと住む場所についてですが――」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
ダリルは思わずレイラの話を遮った。
「は、話が急すぎて、ちょっと理解が……」
戸惑って言うと、レイラはそこでようやくハッとして、自身の言動を恥じ入るように俯いた。
「……ごめんなさい。先走って勝手なことを言って……。でもっ、私、ダリル様に危ない目にあってほしくないんですっ」
そう言って、弾けるようにして顔を上げた。
「だって……、ダリル様は、初めてできた私の大事なお友達なんですもの」
泣きそうな声で言って、レイラはダリルを真っ直ぐ見つめた。涙に濡れた瞳は切実そのものであり、レイラがダリルを友としてどれだけ大事に思ってくれてるかが伝わってきて、嬉しさに胸が熱くなった。
しかし、自分はもう決めたのだ。
最後の最後まで諦めないと口にしたカーティスの強い決意が込められた腕の中、ダリルもまた決心したのだった。
ダリルは目尻に滲んだ涙を指で払って、レイラに向き直った。
「ありがとうございます。レイラ様の気持ちはすごく嬉しいです。……でも、私はこの先もずっとハウエル家に居続けます」
柔らかな、しかし揺るぎない芯のある声ではっきりと言うと、レイラは目を見張った。
ダリルはその瞳に自身の決心を語りかけるように微笑みかけた。
「カーティス様と約束したんです。何があってもずっと傍に居続けるって。だから、たとえ呪いが明日この身に降りかかると分かっても、離れるつもりはありません」
言い切って、胸から爽快な決意が溢れ出るのを感じた。
窓の外の暗鬱な空模様も吹き飛ぶような清々しさが、そこにはあった。
向けられる眼差しにダリルの決意の固さを感じ取ったのだろう、レイラは最初こそ目を見張っていたが、次にはフッと微かに笑んだ。
「……気持ちはもう変わらないのですね」
念を押すように確認するレイラに、ダリルは頷き返した。
「はい、変わりません」
「そう……。それは――すごく残念です」
「え……?」
口元に微笑を保ちながら紡がれた思いもよらぬ言葉、そしてその冷たい声に、耳を疑った。
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