役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

連載

だから、あえて言わせてください

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　カリーナが治癒に来る当日――、つまり彼女がカーティスに想いを告げると予告した日、ダリルはレイラの屋敷に居た。
　事情を知ったレイラが、万が一、ダリルの身に何かあっては危ないと屋敷に招いてくれたのだ。
　自分の目論見通りの展開にならず自棄を起こしたカリーナが、ダリルに何かしかけないとは言い切れないからだ。
　カーティスはレイラの提案に賛成したが、ダリルの心は複雑だった。

「意中の相手に恋人がいて自分に振り向いてくれない時、男性は相手本人に、女性は相手の恋人に、憎悪の牙を向けると言われていますからね」

　向かいに座るレイラが紅茶をカップに注ぎながら言った。

「でも、なんか自分だけこっちに逃げてきたみたいで、落ち着かないです……」

　ダリルは言いながら、窓の外を見遣った。
　今日に限って、まるで不吉な予兆のように雨が激しく降りしきり、厚い雨雲のせいで昼間だというのに外は暗かった。激しい雨音が不安を煽り立てる。

「ダリル様は逃げてなんかいませんわ。その証拠に、聖女様の脅しに屈せず、お兄様と共にある道を選んだではありませんか」

　そう言って、レイラはティーカップをダリルの前に置いた。

「今日は特別な茶葉で作った私特製の紅茶です。どうぞご賞味くださいませ」
「ありがとうございます」

　沈鬱な表情のダリルを気遣うように明るくおどけて言うレイラに、ダリルは少しだけ頬を緩めて紅茶を口に運んだ。

「あ、確かに今日はいつもと何だか違いますね」

　いつもはフルーツ系やローズ系の甘い香りのものが多いが、今日の紅茶の香りは甘さが控えめだった。

「ふふっ、今日は特別な茶葉を使ったと言いましたでしょう？　きっと今日は心が落ち着かないだろうと思って、リラックス効果の強いものを選んでブレンドしたんです」
「そうなんですね。ありがとうございます」

　レイラの心遣いに礼を言って、ダリルは紅茶にまた口をつけた。

「それにしても、聖女様はひどい方ですわね。きっと神様も聖なる力を授ける人間を間違えたんでしょうね」

　肩を怒らせ、レイラが憤る。

「ははっ、確かに」

　ダリルは苦笑混じりに同調した。

「もしくは元々はいい人だったけど、力のせいで変わってしまったのかもしれませんね」
「確かに財力や権力を手に入れた途端、人が変わったという話はよくありますものね」

　しみじみと言って、レイラは紅茶をテーブルの上に置いた。

「だから、私、思うんです。ダリル様はすごいなと」
「え？」

　思いがけず自分の話になり、ダリルは目を丸くした。

「だって、ハウエル公爵家当主の伴侶となっても全く驕ることなく、誰にだって優しく敬意を持って接して……。私、ダリル様のそういうところすごく尊敬していますし、大好きです」

　尊敬の念と好意をまっすぐ伝えられ、ダリルはまごついた。

「あ、ありがとうございます。なんだか、嬉しような照れくさいような……、でもやっぱり嬉しいですね」

　頭を掻きながらはにかんで言うダリルを微笑ましそうに見つめていたレイラだが、次には少し俯いて、神妙な顔で向き直った。

「ダリル様、私は貴方のことを大切な友人だと思っています。だから、あえて言わせてください。……本当にこのままハウエル家に居続けていいんですか？」
「え……？」