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失恋の傷は新しい恋ですぐに癒えるものですわ
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何を馬鹿げたことを、と一蹴してやりたいのに、絶望感に目の前が真っ暗になって何一つ言葉が出てこない。
ダリルは立っていることもままならず、ソファに腰を落とした。
そんなダリルを見て、カリーナが満足そうに目を細める。
「ダリル様。さっき自分はカーティス様に何もしてあげられないと嘆かれてましたけど、ひとつあるではありませんか」
そう言うと、ダリルの後ろに回って背後からそっと唇を耳に近づけた。
「カーティス様に辛い選択をさせないために、貴方から別れを切り出すのです」
「……!」
耳打ちされた言葉に、目を見開く。
振り返ってカリーナを仰ぎ見ると、カリーナはにこりと微笑んだ。
「そうすれば、カーティス様は辛い決断をくださなくてもいいし、私も心置きなく彼の治癒に専念できますし、いいことだらけですわ」
さも名案と言わんばかりに嬉々と言われ、カッと熱いものが口元まで込み上げてきた。
しかし、カリーナの身勝手な言い分はカーティスの命を守るという点においては正しくもあり、口の先まで出かけた言葉がぐっと奥へと戻る。
喉の奥へと引き下がった言葉の気配を嘲笑気味に細めた目で見遣ってカリーナは続けた。
「自分の選択に対する後悔というものはどうやっても消えないものです。けれど、失恋の傷は新しい恋ですぐに癒えるものですわ」
自分の胸に両手を重ね、まるで聖書の言葉を引用するような清廉な声で説き伏せるようにして言った。
もし話の内容を知らずにこの光景だけを切り取って見れば、誰もがカリーナが正しいことを言っていると信じて疑わないだろう。
それほどまでに、彼女が浮かべる表情や纏う雰囲気は、美しく高潔なものだった。
ある種の敗北感にも似た絶望的な気持ちで黙り込むダリルに、カリーナは勝利を確信したようにフッと小さく笑ってくるりと背を向けた。
「次の治癒までまだ時間はありますから、どうぞそれまでゆっくりお考えください」
そう言って扉の方へ歩み始めたカリーナだが、扉の取っ手に手をかけた時、ふと何かを思い出したような軽さで振り返った。
「ちなみに、カーティス様に告げ口して、私を無理に従わせようとしても無駄です。教団への根回しはすませていますから、その場合、教団がオネアゼア国を動かし何かしらの行動に出るでしょう。聖女の力は今やオネアゼアにとって欠かせないものですから。……自分のことで国を巻き込むほどの大事になれば、カーティス様もさぞ困るでしょうね」
冷たい悪意を孕んだ嬉々とした声でダリルを追い詰めるようにして言うと、カリーナはそのまま部屋を後にした。
彼女がいなくなってもなお鼓動は不穏に荒れる一方で、ダリルは思わず顔を歪めて胸元を握りしめた。
(一体、俺はどうしたらいいんだ……)
カーティスの傍にずっといたい。しかし、そうなればカリーナの治癒を受けられなくなり、呪いが悪化し死に至るかもしれない。
だからといって、大人しく身を引くにはあまりにカーティスへの想いが強すぎる。別れを想像しただけで心が引き裂かれそうだった。
究極の二択を突きつけられ、ダリルは頭を抱えた。そんなダリルの脳裏に、カリーナの言葉が蘇る。
――カーティス様に辛い選択をさせないために、貴方から別れを切り出すのです。
それは、滅びへ誘う悪魔の囁きのようでもあり、救いへ導く神の啓示のようでもあり、ダリルの苦悩はさらに深くなった。
ダリルは立っていることもままならず、ソファに腰を落とした。
そんなダリルを見て、カリーナが満足そうに目を細める。
「ダリル様。さっき自分はカーティス様に何もしてあげられないと嘆かれてましたけど、ひとつあるではありませんか」
そう言うと、ダリルの後ろに回って背後からそっと唇を耳に近づけた。
「カーティス様に辛い選択をさせないために、貴方から別れを切り出すのです」
「……!」
耳打ちされた言葉に、目を見開く。
振り返ってカリーナを仰ぎ見ると、カリーナはにこりと微笑んだ。
「そうすれば、カーティス様は辛い決断をくださなくてもいいし、私も心置きなく彼の治癒に専念できますし、いいことだらけですわ」
さも名案と言わんばかりに嬉々と言われ、カッと熱いものが口元まで込み上げてきた。
しかし、カリーナの身勝手な言い分はカーティスの命を守るという点においては正しくもあり、口の先まで出かけた言葉がぐっと奥へと戻る。
喉の奥へと引き下がった言葉の気配を嘲笑気味に細めた目で見遣ってカリーナは続けた。
「自分の選択に対する後悔というものはどうやっても消えないものです。けれど、失恋の傷は新しい恋ですぐに癒えるものですわ」
自分の胸に両手を重ね、まるで聖書の言葉を引用するような清廉な声で説き伏せるようにして言った。
もし話の内容を知らずにこの光景だけを切り取って見れば、誰もがカリーナが正しいことを言っていると信じて疑わないだろう。
それほどまでに、彼女が浮かべる表情や纏う雰囲気は、美しく高潔なものだった。
ある種の敗北感にも似た絶望的な気持ちで黙り込むダリルに、カリーナは勝利を確信したようにフッと小さく笑ってくるりと背を向けた。
「次の治癒までまだ時間はありますから、どうぞそれまでゆっくりお考えください」
そう言って扉の方へ歩み始めたカリーナだが、扉の取っ手に手をかけた時、ふと何かを思い出したような軽さで振り返った。
「ちなみに、カーティス様に告げ口して、私を無理に従わせようとしても無駄です。教団への根回しはすませていますから、その場合、教団がオネアゼア国を動かし何かしらの行動に出るでしょう。聖女の力は今やオネアゼアにとって欠かせないものですから。……自分のことで国を巻き込むほどの大事になれば、カーティス様もさぞ困るでしょうね」
冷たい悪意を孕んだ嬉々とした声でダリルを追い詰めるようにして言うと、カリーナはそのまま部屋を後にした。
彼女がいなくなってもなお鼓動は不穏に荒れる一方で、ダリルは思わず顔を歪めて胸元を握りしめた。
(一体、俺はどうしたらいいんだ……)
カーティスの傍にずっといたい。しかし、そうなればカリーナの治癒を受けられなくなり、呪いが悪化し死に至るかもしれない。
だからといって、大人しく身を引くにはあまりにカーティスへの想いが強すぎる。別れを想像しただけで心が引き裂かれそうだった。
究極の二択を突きつけられ、ダリルは頭を抱えた。そんなダリルの脳裏に、カリーナの言葉が蘇る。
――カーティス様に辛い選択をさせないために、貴方から別れを切り出すのです。
それは、滅びへ誘う悪魔の囁きのようでもあり、救いへ導く神の啓示のようでもあり、ダリルの苦悩はさらに深くなった。
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