56 / 86
連載
あらあら、怖い
しおりを挟む
「ええ。だって、自分を振った人と顔を突き合わせるなんて、普通に考えて気まずいでしょう?」
少しも悪びれることなく言うカリーナに唖然とする。
オネアゼア国はこのオーデル王国から遠くの地にあり、そう簡単に通える距離ではない。つまりカリーナがオネアゼアに帰れば、カーティスの痣の治癒もできなくなるということだ。
「ま、待ってくださいっ。それじゃあ、カーティス様の痣の治癒はどうするんですか!」
ダリルは思わずテーブルを両手で叩いて立ち上がった。しかしカリーナは少しも動じることなく、視線だけでダリルを追った。
「さぁ、それはそちらの問題ですから、私は分かりませんわ。まぁ、世界中をくまなく探せば、もしかしたら私と同じような力を持つ者がいるかもしれませんよ」
泰然とした態度で呑気なことを言うカリーナに、カッと頭に血がのぼった。
「そんな、無責任な……っ!」
軽蔑と非難を露わにした言葉を投げつけられても、カリーナは笑みひとつ崩すことはなかった。
「ええ、そうですわね。無責任ですわね。でも、そんな無責任なことをさせるかどうかは、カーティス様の返答次第ですわ」
スッと歪に細められた目から聖女らしからぬ邪悪さが滲み出ていて、ダリルは思わず息を呑んだ。
カリーナはその怯んだ隙をつくように畳み掛けてきた。
「私だってできればカーティス様を救いたいです。ですから、カーティス様が私の気持ちを受け入れてくれたら、私もこの国を去ることなく治癒に専念できますわ」
「そ、そんなの脅しじゃないですか」
バンッ、とテーブルを叩いて立ち上がる。しかし、カリーナは少しも怯むことなく、むしろ余裕のある笑みを深めた。
「ふふっ、そうですわね。でも仕方ないじゃありませんか。正攻法で手に入らないほど、カーティス様の貴方への愛は深いんですもの」
カリーナが小さく肩を竦める。
カーティスのダリルに対する想いの深さを知りながらなおも、余裕の態度を崩さない。それが何とも腹立たしいと同時に、恐ろしくもあった。
「ご安心ください。自分の命のために貴方を捨てて私をとるなんてこと、カーティス様はまずしないですわ」
「そ、それのどこが安心できると言うんですか!」
ダリルは思わず声を荒げた。
それはつまり、ダリルをとる代わりに自分の命を捨てるということと同義だ。安心などできるはずがない。
「あらあら、怖い」
白々しく言って、カリーナはクスクスと笑った。
「まぁ、でも、いくら貴方を愛してるとはいえ、カーティス様はひどく迷われるでしょうね。貴方とは絶対に別れたくない。でも、私の治癒の力なしではいずれ呪いで死ぬかもしれない……。ダリル様を選んでも、私を選んでも、お辛いでしょうねぇ」
辛い選択を突きつけている張本人でありながら、ふぅ、と同情めいた溜め息を吐くカリーナ。鼻につく白々しさだ。
「ちなみに、一度離縁して呪いが消えてから復縁なんてこと考えても無駄ですわよ。痣は消えても呪いをかけた本人を消せたわけではないですから」
逃げ道を塞ぐようにしてカリーナが言い加えた。
正直なところ、動揺が大きくそんな考えまで至っていなかったのだが、カリーナの用意周到さに背中が震えた。
カリーナは暗い愉悦を孕んだ瞳を細めて言葉を続けた。
「呪いをかけた本人がいなくならない限り、呪いは永遠に続きます。──つまり、カーティス様はもう私の力なしでは生きていけないのです」
うっとりと歪んだ恍惚の笑みを浮かべながらカリーナが断言する。
少しも悪びれることなく言うカリーナに唖然とする。
オネアゼア国はこのオーデル王国から遠くの地にあり、そう簡単に通える距離ではない。つまりカリーナがオネアゼアに帰れば、カーティスの痣の治癒もできなくなるということだ。
「ま、待ってくださいっ。それじゃあ、カーティス様の痣の治癒はどうするんですか!」
ダリルは思わずテーブルを両手で叩いて立ち上がった。しかしカリーナは少しも動じることなく、視線だけでダリルを追った。
「さぁ、それはそちらの問題ですから、私は分かりませんわ。まぁ、世界中をくまなく探せば、もしかしたら私と同じような力を持つ者がいるかもしれませんよ」
泰然とした態度で呑気なことを言うカリーナに、カッと頭に血がのぼった。
「そんな、無責任な……っ!」
軽蔑と非難を露わにした言葉を投げつけられても、カリーナは笑みひとつ崩すことはなかった。
「ええ、そうですわね。無責任ですわね。でも、そんな無責任なことをさせるかどうかは、カーティス様の返答次第ですわ」
スッと歪に細められた目から聖女らしからぬ邪悪さが滲み出ていて、ダリルは思わず息を呑んだ。
カリーナはその怯んだ隙をつくように畳み掛けてきた。
「私だってできればカーティス様を救いたいです。ですから、カーティス様が私の気持ちを受け入れてくれたら、私もこの国を去ることなく治癒に専念できますわ」
「そ、そんなの脅しじゃないですか」
バンッ、とテーブルを叩いて立ち上がる。しかし、カリーナは少しも怯むことなく、むしろ余裕のある笑みを深めた。
「ふふっ、そうですわね。でも仕方ないじゃありませんか。正攻法で手に入らないほど、カーティス様の貴方への愛は深いんですもの」
カリーナが小さく肩を竦める。
カーティスのダリルに対する想いの深さを知りながらなおも、余裕の態度を崩さない。それが何とも腹立たしいと同時に、恐ろしくもあった。
「ご安心ください。自分の命のために貴方を捨てて私をとるなんてこと、カーティス様はまずしないですわ」
「そ、それのどこが安心できると言うんですか!」
ダリルは思わず声を荒げた。
それはつまり、ダリルをとる代わりに自分の命を捨てるということと同義だ。安心などできるはずがない。
「あらあら、怖い」
白々しく言って、カリーナはクスクスと笑った。
「まぁ、でも、いくら貴方を愛してるとはいえ、カーティス様はひどく迷われるでしょうね。貴方とは絶対に別れたくない。でも、私の治癒の力なしではいずれ呪いで死ぬかもしれない……。ダリル様を選んでも、私を選んでも、お辛いでしょうねぇ」
辛い選択を突きつけている張本人でありながら、ふぅ、と同情めいた溜め息を吐くカリーナ。鼻につく白々しさだ。
「ちなみに、一度離縁して呪いが消えてから復縁なんてこと考えても無駄ですわよ。痣は消えても呪いをかけた本人を消せたわけではないですから」
逃げ道を塞ぐようにしてカリーナが言い加えた。
正直なところ、動揺が大きくそんな考えまで至っていなかったのだが、カリーナの用意周到さに背中が震えた。
カリーナは暗い愉悦を孕んだ瞳を細めて言葉を続けた。
「呪いをかけた本人がいなくならない限り、呪いは永遠に続きます。──つまり、カーティス様はもう私の力なしでは生きていけないのです」
うっとりと歪んだ恍惚の笑みを浮かべながらカリーナが断言する。
238
お気に入りに追加
7,015
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する
モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。
番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。
他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。
◇ストーリー◇
孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人
姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。
そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。
互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!?
・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。
総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。
自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。