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でも、私も同じくらい
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カーティスがカリーナの治癒を受けている間、落ち着かない気持ちでいたのは、二人の間に恋が芽生えてしまうのではないかという不安ばかりのせいではなかった。
どんなにカーティスのことを想っていても、自分にはあの痣に関してできることは何もなく、ただ心配することしかできない。そんな自分の無力さが、歯痒くて悲しかった。
カーティスのダリルへの深い愛情を知っていながら、カリーナに心惹かれてしまうのではないかと不安に思ってしまうのも、そんな無力感からくる劣等感のせいだろう。
沈鬱な表情を見せるダリルに、カリーナがくすりと小さく笑った。
「ダリル様は本当にカーティス様を愛していらっしゃるんですね」
からかいや嫌味など含まずにしみじみと言われ、顔が熱くなった。
気恥ずかしさから言い淀んでいると、カリーナはその目をスッと細めた。そして、
「――でも、私も同じくらい、カーティス様を愛していますわ」
「え……」
少しも声の調子を変えることなく告げられたその言葉に、ダリルは
弾けるようにして顔を上げた。
驚き困惑するダリルに、カリーナはふふっと小さく笑った。
「そんなに驚くことないでしょうに。あんなにも優しく誠実で美しい人、好きにならない人の方が少ないと思いますけど」
「いや、でも……」
カリーナが少しの後ろめたさもなくあまりにも堂々としているので、かえってダリルの方がたじろいだ。
確かに、カーティスがたとえ既婚者だとしても心奪われる人間が少なくないことは知っている。
それは夜会での周囲の反応を見れば明らかだ。
しかし、こうしてわざわざ彼の伴侶であるダリルに明言する者は当然いなかった。言ったところで顰蹙を買うだけで、何もメリットがないからだ。
だから、カーティスを愛しているとわざわざダリルに打ち明けるカリーナの意図がまるで分からず、戸惑いを隠せずにいられなかった。
その戸惑いに答えるように、カリーナは話を続けた。
「もちろん、カーティス様は貴方のもので、彼も貴方を心から愛しているのは分かっていますわ。そしてそんなお二人の間に私なんかが入る余地もないことも……」
実らぬ恋の話をしているはずなのに、カリーナの微笑みには余裕があり、少しも憂いている様子はなかった。
そのことが余計にダリルを困惑させた。
「ですが、会えば会うほど私はカーティス様をどんどん好きになって、今ではこのどうしようもない胸の苦しさに夜も眠れないくらいです。――それくらい、彼を愛しています」
カリーナは秘めた想いを大事に抱きしめるように、胸の上にそっと両手を重ねた。
まるで恋する少女のような可憐な仕草だが、声や所作にどこか余裕めいたものがあり、自分に酔っている風にすら感じられた。
カリーナは胸元の拳からスッと視線を上げると、真っ直ぐダリルを見据えた。そして、
「この気持ちを断ち切るには、もう彼に想いを告げるしかありません。ですから次の治癒の時、私はカーティス様に告白しようと思っています」
「えっ」
ダリルは目を見開いた。
次々と打ち明けてくるカリーナに、理解が追いつかずただただ困惑するばかりだ。
「こ、告白って、でも……」
「分かっています。カーティス様はダリル様を愛していますから、当然、私などには見向きもしません。想いを告げたところで振られることは目に見えています。……ですが、そうすればカーティス様への想いも断ち切れて、晴れてオネアゼアに帰れますわ」
ダリルは耳を疑った。
「オネアゼアに帰る、のですか……?」
震える声で聞き返すと、カリーナは笑みを深めて頷いた。
どんなにカーティスのことを想っていても、自分にはあの痣に関してできることは何もなく、ただ心配することしかできない。そんな自分の無力さが、歯痒くて悲しかった。
カーティスのダリルへの深い愛情を知っていながら、カリーナに心惹かれてしまうのではないかと不安に思ってしまうのも、そんな無力感からくる劣等感のせいだろう。
沈鬱な表情を見せるダリルに、カリーナがくすりと小さく笑った。
「ダリル様は本当にカーティス様を愛していらっしゃるんですね」
からかいや嫌味など含まずにしみじみと言われ、顔が熱くなった。
気恥ずかしさから言い淀んでいると、カリーナはその目をスッと細めた。そして、
「――でも、私も同じくらい、カーティス様を愛していますわ」
「え……」
少しも声の調子を変えることなく告げられたその言葉に、ダリルは
弾けるようにして顔を上げた。
驚き困惑するダリルに、カリーナはふふっと小さく笑った。
「そんなに驚くことないでしょうに。あんなにも優しく誠実で美しい人、好きにならない人の方が少ないと思いますけど」
「いや、でも……」
カリーナが少しの後ろめたさもなくあまりにも堂々としているので、かえってダリルの方がたじろいだ。
確かに、カーティスがたとえ既婚者だとしても心奪われる人間が少なくないことは知っている。
それは夜会での周囲の反応を見れば明らかだ。
しかし、こうしてわざわざ彼の伴侶であるダリルに明言する者は当然いなかった。言ったところで顰蹙を買うだけで、何もメリットがないからだ。
だから、カーティスを愛しているとわざわざダリルに打ち明けるカリーナの意図がまるで分からず、戸惑いを隠せずにいられなかった。
その戸惑いに答えるように、カリーナは話を続けた。
「もちろん、カーティス様は貴方のもので、彼も貴方を心から愛しているのは分かっていますわ。そしてそんなお二人の間に私なんかが入る余地もないことも……」
実らぬ恋の話をしているはずなのに、カリーナの微笑みには余裕があり、少しも憂いている様子はなかった。
そのことが余計にダリルを困惑させた。
「ですが、会えば会うほど私はカーティス様をどんどん好きになって、今ではこのどうしようもない胸の苦しさに夜も眠れないくらいです。――それくらい、彼を愛しています」
カリーナは秘めた想いを大事に抱きしめるように、胸の上にそっと両手を重ねた。
まるで恋する少女のような可憐な仕草だが、声や所作にどこか余裕めいたものがあり、自分に酔っている風にすら感じられた。
カリーナは胸元の拳からスッと視線を上げると、真っ直ぐダリルを見据えた。そして、
「この気持ちを断ち切るには、もう彼に想いを告げるしかありません。ですから次の治癒の時、私はカーティス様に告白しようと思っています」
「えっ」
ダリルは目を見開いた。
次々と打ち明けてくるカリーナに、理解が追いつかずただただ困惑するばかりだ。
「こ、告白って、でも……」
「分かっています。カーティス様はダリル様を愛していますから、当然、私などには見向きもしません。想いを告げたところで振られることは目に見えています。……ですが、そうすればカーティス様への想いも断ち切れて、晴れてオネアゼアに帰れますわ」
ダリルは耳を疑った。
「オネアゼアに帰る、のですか……?」
震える声で聞き返すと、カリーナは笑みを深めて頷いた。
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