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知っておいてほしいんです
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「大丈夫ですよ。カイルの痣に触っても何もありませんでしたから」
痣が触れてうつるようなものでないことは、カーティスが一番知っているはずだ。
なのに、本当に万が一の可能性を恐れるようにしてたしなめるカーティスに、ダリルは思わず苦笑した。
そして、額をカーティスの痣の上にそっと押し当てた。
「カーティス様に分かってほしいんです。私が呪いなんかを恐れて逃げ出す薄情な人間ではないと。……もう、そんな簡単にカーティス様から離れられないほど好きだってことも、知っておいてほしいんです」
「え……」
信じられない言葉を聞いたかのようにカーティスが目を見開く。
ダリルは微笑んで、その唇をカーティスの唇に重ねた。
それは夜会の日、自身の愛を伝えるためのカーティスの口づけを真似たものだった。
「……私の気持ち、伝わりましたか?」
不安な気持ちを押し隠しながら、胸元から見上げておずおずと問う。
頬を紅潮させ息を呑むカーティスだったが、次には勢いよくダリルを抱き寄せその唇を奪った。
「んっ、ふ……っ」
胸の底から湧き上がる衝動に駆られるような激しく深い口づけだった。
荒々しい愛撫のように絡めてくる舌が、抑えられない歓喜を饒舌に語ってくる。荒波のようなキスに溺れそうになりながらも、ダリルは背中に手を回ししがみつき、懸命にそのキスに、想いに応えた。
「……夢みたいだ」
唇を離して、カーティスがぽつりと呟いた。
激しいキスに反して、その唇から零れた声があまりに朧げで夢見心地ですらあったので、ダリルは小さく笑った。
「いつもこんな夢を見られてるんですか」
からかうようにして言うと、カーティスは顔を赤くして慌てて否定した。
「ち、違う。私はそんな疚しい夢は見ていない。……むしろ、君が呪いに怯えて私のもとを去っていく、そんな恐ろしい夢ばかり見ていた」
自身の情けなさを嘲るように言って、カーティスが肩を竦める。
ダリルは、同じだ、と思った。
カーティスがいないベッドで、不安が作り出す悲しい未来の妄想に苦しんでいた自分と全く同じだ。
一見、類似点などひとつもないように見える二人だが、実は似た者同士なのかもしれないと、ダリルはくすりと笑った。
「私はカーティス様がいつも通り一緒に寝てくれる夢を見ていましたよ。それはすごく幸せな夢で……、だから余計に朝起きた時、寂しくて、胸が苦しくなりました」
そう言って、ダリルは抱きつき、顔をカーティスの体に押し当てた。
シーツの残り香など比にならない濃密なカーティスの匂いに、胸が甘く潤んだ。
深く息を吸ってカーティスの匂いを堪能した後で、ダリルは顔を上げた。
「もう、今夜からは一緒に寝てくれますよね……?」
恐らく最近態度がよそよそしかったり寝室に来なかったりしたのは、痣のことを隠している後ろめたさのためだったのだろう。あるいは、何かの拍子に痣のことがバレるのを恐れてか。
何にせよ、痣についてダリルが知った今、カーティスが寝室に来ない理由はもうない。だが、確認せずにはいられなかった。
胸の内の不安を、カーティスの言葉でもって吹き払って欲しかったのだ。
カーティスは愛おしげに目を細めると、ダリルの額に軽くキスをしてから力強く頷いた。
「ああ、もちろんだ。君が嫌でなければ今すぐにでも一緒に寝たいくらいだ」
そう言って、ダリルをぎゅっと抱きしめた。
カーティスの匂いに包み込まれると、穏やかな恍惚が体の隅々にまで巡って安らかな気持ちになった。
緩んだ唇の隙間から、甘い安堵の吐息が漏れ出る。
呪いが全く恐ろしくないといえば嘘になる。しかしこの匂いに包まれている間はどんな災いも降り掛かってはこないと、根拠もなく心強い気持ちになるのだった。
痣が触れてうつるようなものでないことは、カーティスが一番知っているはずだ。
なのに、本当に万が一の可能性を恐れるようにしてたしなめるカーティスに、ダリルは思わず苦笑した。
そして、額をカーティスの痣の上にそっと押し当てた。
「カーティス様に分かってほしいんです。私が呪いなんかを恐れて逃げ出す薄情な人間ではないと。……もう、そんな簡単にカーティス様から離れられないほど好きだってことも、知っておいてほしいんです」
「え……」
信じられない言葉を聞いたかのようにカーティスが目を見開く。
ダリルは微笑んで、その唇をカーティスの唇に重ねた。
それは夜会の日、自身の愛を伝えるためのカーティスの口づけを真似たものだった。
「……私の気持ち、伝わりましたか?」
不安な気持ちを押し隠しながら、胸元から見上げておずおずと問う。
頬を紅潮させ息を呑むカーティスだったが、次には勢いよくダリルを抱き寄せその唇を奪った。
「んっ、ふ……っ」
胸の底から湧き上がる衝動に駆られるような激しく深い口づけだった。
荒々しい愛撫のように絡めてくる舌が、抑えられない歓喜を饒舌に語ってくる。荒波のようなキスに溺れそうになりながらも、ダリルは背中に手を回ししがみつき、懸命にそのキスに、想いに応えた。
「……夢みたいだ」
唇を離して、カーティスがぽつりと呟いた。
激しいキスに反して、その唇から零れた声があまりに朧げで夢見心地ですらあったので、ダリルは小さく笑った。
「いつもこんな夢を見られてるんですか」
からかうようにして言うと、カーティスは顔を赤くして慌てて否定した。
「ち、違う。私はそんな疚しい夢は見ていない。……むしろ、君が呪いに怯えて私のもとを去っていく、そんな恐ろしい夢ばかり見ていた」
自身の情けなさを嘲るように言って、カーティスが肩を竦める。
ダリルは、同じだ、と思った。
カーティスがいないベッドで、不安が作り出す悲しい未来の妄想に苦しんでいた自分と全く同じだ。
一見、類似点などひとつもないように見える二人だが、実は似た者同士なのかもしれないと、ダリルはくすりと笑った。
「私はカーティス様がいつも通り一緒に寝てくれる夢を見ていましたよ。それはすごく幸せな夢で……、だから余計に朝起きた時、寂しくて、胸が苦しくなりました」
そう言って、ダリルは抱きつき、顔をカーティスの体に押し当てた。
シーツの残り香など比にならない濃密なカーティスの匂いに、胸が甘く潤んだ。
深く息を吸ってカーティスの匂いを堪能した後で、ダリルは顔を上げた。
「もう、今夜からは一緒に寝てくれますよね……?」
恐らく最近態度がよそよそしかったり寝室に来なかったりしたのは、痣のことを隠している後ろめたさのためだったのだろう。あるいは、何かの拍子に痣のことがバレるのを恐れてか。
何にせよ、痣についてダリルが知った今、カーティスが寝室に来ない理由はもうない。だが、確認せずにはいられなかった。
胸の内の不安を、カーティスの言葉でもって吹き払って欲しかったのだ。
カーティスは愛おしげに目を細めると、ダリルの額に軽くキスをしてから力強く頷いた。
「ああ、もちろんだ。君が嫌でなければ今すぐにでも一緒に寝たいくらいだ」
そう言って、ダリルをぎゅっと抱きしめた。
カーティスの匂いに包み込まれると、穏やかな恍惚が体の隅々にまで巡って安らかな気持ちになった。
緩んだ唇の隙間から、甘い安堵の吐息が漏れ出る。
呪いが全く恐ろしくないといえば嘘になる。しかしこの匂いに包まれている間はどんな災いも降り掛かってはこないと、根拠もなく心強い気持ちになるのだった。
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