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いずれまた呪いは
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「……カーティス様、それは……」
カーティスの胸元に広がる痣を凝視しながら、ダリルは震える声で問うた。それはカイルの顔の痣と酷似しており、暗く深刻な表情で目を伏せるカーティスを見れば、それが何かは明らかだった。
――いずれまた呪いはハウエル公爵家に降りかかる……。
脅迫文に書かれた不吉な予言が脳裏に蘇り、ダリルはごくりと唾を飲み込んだ。
カリーナが帰った後、ダリルはカーティスに胸にできた痣について話を聞いた。
痣は突然、何の前触れなく現れたとのことで、カイルの痣も診てきたハウエル公爵家の医師に診てもらったが原因はやはり不明で、カイルの顔の痣と全く同じだという。
「……それで、聖女様に治癒してもらうために屋敷に来てもらったんですね」
向かいのソファに座るカーティスに確認するように訊くと、カーティスは頷いた。
「ああ。本当は君に余計な心配をかけないよう別邸で診てもらおうとも思ったんだが、それではあらぬ噂が広がるかもしれないとローマンから助言を受けて、ここで診てもらうことにしたんだ。まぁ、結局君に心配をかけてしまったから意味はなかったが」
苦笑気味にカーティスが言う。
痣については、他に知られないよう限られた人間にしか教えていないらしい。だからカリーナを招いて治癒してもらう場所についても機密性の高いこの屋敷にしたのかもしれない。
(……そもそも俺に最初から話してくれていたら、場所のことで悩む必要もなかっただろうに)
もちろんカーティスがダリルを心配させまいと気遣いから黙っていたことは分かっている。しかし、ダリルとしては痣のことを知る限られた人間の中に自分が入っていないことの方がショックだった。
どうして自分に話してくれなかったんだと非難がましい気持ちを堪えて、ダリルは気になっていたことを口にした。
「カーティス様、実は夜会の後から少し前まで私宛に脅迫文が来ていたんです。『いずれまた呪いはハウエル公爵家に降りかかる。命が惜しければ、直ちにハウエル公爵家から立ち去れ』と……」
カーティスは目を見開いた。
「それは本当か……!」
「はい。ただ、その時は夜会の後でしたから、きっとカーティス様の隣りにいる私のことを気に食わない人間による単なる嫌がらせだと思っていたんです。だから、カーティス様に余計な心配をかけたくなくて黙っていたんですが、話しておくべきでしたね……」
ダリルは自責的な後悔に唇を噛んで俯いた。
話を聞くとカーティスの胸元に痣ができたのと、ダリルのもとに脅迫文が届かなくなったのは同時期だった。
単なる偶然かどうかは分からないが、もし胸元の痣が呪いの類だとすれば、カーティスを呪った人物と手紙の主は同一人物の可能性もある。
同一人物でなくても、カーティスを呪う人物に繋がる手がかりになっていたかもしれない。
そう思うと、自分の選択を悔やんでも悔やみきれない。
膝の上でぎゅっと拳を握りしめていると、
「ダリル君、顔を上げてくれ」
優しい声でカーティスが言った。
ダリルが顔を上げると、カーティスは真っ直ぐ目を見つめ言葉を継いだ。
「君は間違ったことはしていない。私も君の立場ならそうしていただろう」
力強く言うその声は、自責の念に震えるダリルの拳を優しく包み込んだ。
カーティスの胸元に広がる痣を凝視しながら、ダリルは震える声で問うた。それはカイルの顔の痣と酷似しており、暗く深刻な表情で目を伏せるカーティスを見れば、それが何かは明らかだった。
――いずれまた呪いはハウエル公爵家に降りかかる……。
脅迫文に書かれた不吉な予言が脳裏に蘇り、ダリルはごくりと唾を飲み込んだ。
カリーナが帰った後、ダリルはカーティスに胸にできた痣について話を聞いた。
痣は突然、何の前触れなく現れたとのことで、カイルの痣も診てきたハウエル公爵家の医師に診てもらったが原因はやはり不明で、カイルの顔の痣と全く同じだという。
「……それで、聖女様に治癒してもらうために屋敷に来てもらったんですね」
向かいのソファに座るカーティスに確認するように訊くと、カーティスは頷いた。
「ああ。本当は君に余計な心配をかけないよう別邸で診てもらおうとも思ったんだが、それではあらぬ噂が広がるかもしれないとローマンから助言を受けて、ここで診てもらうことにしたんだ。まぁ、結局君に心配をかけてしまったから意味はなかったが」
苦笑気味にカーティスが言う。
痣については、他に知られないよう限られた人間にしか教えていないらしい。だからカリーナを招いて治癒してもらう場所についても機密性の高いこの屋敷にしたのかもしれない。
(……そもそも俺に最初から話してくれていたら、場所のことで悩む必要もなかっただろうに)
もちろんカーティスがダリルを心配させまいと気遣いから黙っていたことは分かっている。しかし、ダリルとしては痣のことを知る限られた人間の中に自分が入っていないことの方がショックだった。
どうして自分に話してくれなかったんだと非難がましい気持ちを堪えて、ダリルは気になっていたことを口にした。
「カーティス様、実は夜会の後から少し前まで私宛に脅迫文が来ていたんです。『いずれまた呪いはハウエル公爵家に降りかかる。命が惜しければ、直ちにハウエル公爵家から立ち去れ』と……」
カーティスは目を見開いた。
「それは本当か……!」
「はい。ただ、その時は夜会の後でしたから、きっとカーティス様の隣りにいる私のことを気に食わない人間による単なる嫌がらせだと思っていたんです。だから、カーティス様に余計な心配をかけたくなくて黙っていたんですが、話しておくべきでしたね……」
ダリルは自責的な後悔に唇を噛んで俯いた。
話を聞くとカーティスの胸元に痣ができたのと、ダリルのもとに脅迫文が届かなくなったのは同時期だった。
単なる偶然かどうかは分からないが、もし胸元の痣が呪いの類だとすれば、カーティスを呪った人物と手紙の主は同一人物の可能性もある。
同一人物でなくても、カーティスを呪う人物に繋がる手がかりになっていたかもしれない。
そう思うと、自分の選択を悔やんでも悔やみきれない。
膝の上でぎゅっと拳を握りしめていると、
「ダリル君、顔を上げてくれ」
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ダリルが顔を上げると、カーティスは真っ直ぐ目を見つめ言葉を継いだ。
「君は間違ったことはしていない。私も君の立場ならそうしていただろう」
力強く言うその声は、自責の念に震えるダリルの拳を優しく包み込んだ。
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