役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
42 / 86
連載

どうか、ご自身のことを一番に考えてください

しおりを挟む
 レイラは顔を上げると、ダリルを気遣いように、健気に笑ってみせた。

「でも、幸いにもお父様が身寄りのない私を引き取ってくれて、それからは幸せでしたわ。美味しい食事も温かいベッドもあって……。そして何より、優しい家族が――大好きなお兄様がいました。お兄様は私の生まれを蔑んだりせず、私を家族として、妹として大事にしてくれました」

 大切な思い出に触れるように胸元に手をあて、レイラは柔らかに微笑んだ。
 その笑みから、カーティスがどれだけ彼女にとって大事な存在であるかが伝わってきて、温かな気持ちになった。

「もう呪いなんてものとは無縁の生活を送れると思っていました。――だから、クリスティーナ様があんな亡くなり方をするなんて本当にショックでした」

 レイラは拳に悲しげな影を落として、胸元をぎゅっと握りしめた。

「もちろんハウエル家が呪われているとは思いたくありませんわ。ですが、クリスティーナ様のご遺体は明らかに異様でした。うまく言葉にはできませんが、禍々しい力の残滓のようなものを感じたのです……」

 まるで呪いの影に怯えるようにして言って、レイラは震える自身の体を抱きすくめた。

「私は、呪いの恐ろしさも執拗さも酷たらしさもこの目で見てきました。だからこそ、大事な友達であるダリル様には無事でいてほしいんです……。もちろん、お兄様を心から愛して一緒にいたいと思うなら私は何も言いませんわ。ですが、もしお兄様を気遣ってということであるなら、ハウエル家を離れた方がいいと思います。……どうか、ご自身のことを一番に考えてください」
 
 レイラは手を伸ばすと、ダリルの手をぎゅっと包み込んだ。
 真っ直ぐ向けられる眼差しからは、自身の悲しい過去を晒してまで忠告をくれるレイラの優しさと誠実さが痛いほどに感じられた。
 だが、呪いを恐れてカーティスのもとを立ち去るというのは、どうにも躊躇われた。 

「……ごめんなさい、暗い話をしてしまって。そういえば、お兄様から聞きましたわ。今度、夜会にお兄様と一緒に行かれるのでしょう? ふふっ、わくわくしますわね」
 
 レイラはダリルの手から手を引くと、湿っぽさを霧散させるように明るく話題を変えた。
 ダリルもそれに乗じて、おどけた苦笑を浮かべながら頭を掻いた。

「いやぁ……、正直なところ夜会には行きたくないんです」
「あら、どうしてですの?」
「いや、その……」

 不思議そうに訊かれ、ダリルは躊躇いがちに答えた。

「会いたくない人に会う可能性もありますし、それにあのカーティス様の隣に立つっていうのがどうも気が引けるというか……」

 これまで公に姿を現さなかったハウエル公爵の伴侶が、自分のような地味で見目も良くない人間となれば、周囲から向けられる落胆と蔑みは容易に想像できる。
 それに貴族が集まる場だ。元婚約者であるアルフレッドがいないとは言い切れない。
 当初はあくまでカイルの母となるための契約だったため、ダリルの将来を配慮して公の場には出なくていいということだったが、契約延長期間はカーティスの伴侶として契約を結んだのだ。夜会への出席は免れない。

「ふふ、大丈夫ですわよ。ダリル様は十分魅力的なお方ですから」

 ゆったりと微笑んで、レイラは紅茶を口に運んだ。

「それにしても、ダリル様が嫌がっているというのに夜会に連れ出そうとするなんて、お兄様もそんな強引なところがあったのですね。意外ですわ」

 くすくすと口元に手を当てレイラが笑う。ダリルは苦笑混じりに溜め息を吐いた。

「もしかするとアドレイド辺境伯のアドバイスなのかもしれません……。アドレイド辺境伯はカーティス様を応援しているようなので」
「あら、そうでしょうか? 案外、お兄様の独断かもしれませんわよ。ほら、ダーラお義姉様も仰っていたじゃありませんか。ハウエル家のアルファは強引だからお気をつけてと」
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。