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誤解を恐れずに言いますと

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 社交界にあまり顔を出さないこともあり、友人と呼べる人間がほとんどいないレイラにとってダリルは貴重な友達らしかった。
 ダリルも学園での一件があり、ほとんどの交友関係を失っていたので、友達と思ってくれていることが素直に嬉しかった。

「……でも、もしダリル様が気にしないと言ってくださるなら、変わらずお誘いしたいのですけれど」

 こちらの反応を伺う視線をちらりと向けられる。
 ダリルより三つ年上だが、こういった少女のような可愛らしい仕草を時折見せてくるのが彼女の魅力のひとつだ。
 ダリルは微笑ましい気持ちで頷いた。

「もちろん、レイラ様がよければぜひ誘ってください。レイラ様とこうしてゆっくりお茶を飲みながらお話する時間が大好きなので」
「ふふっ、そう言っていただけてよかったです」

 嬉しそうに顔をほころばせたレイラだったが、少し間を置くと神妙な顔つきになって、躊躇いがちに口を開いた。
 
「……誤解を恐れずに言いますと、私はダリル様にずっとハウエル家にいてほしいという気持ちとは別に、早くハウエル家を離れた方がいいんじゃないかって思う気持ちもありますの」
「え……っ」

 思いもよらない言葉に目を丸くするダリルに、レイラは薄く微笑みかけそのままくるりと背を向けた。
 そして、ドレスの襟口を引き下ろし、その背中をおもむろに晒した。
 ダリルは思わず息を呑んだ。背中に酷い火傷のような跡が痛々しく広がっていたからだ。

「こ、これは……」
「――呪いですわ」

 静かな怒りと悲しみを秘めた声でそう答えると、レイラは服を正してダリルの方に向き直った。

「私がお兄様とは異母兄妹であることはご存知ですよね?」
「は、はい……」
「これは口外せずにいてほしいのですが、私の家は代々呪術を扱っていていました。そんな中、母は歴代でも強大な呪力の持ち主でした。未開の森の奥にある小さな村でしたが、母の呪術の噂を聞きつけて、色んな国から呪いを依頼する人たちがやってきましたわ。その依頼主の中に前代ハウエル公爵家当主、つまり私とお兄様のお父様もいて、母と恋仲となりましたの」

 一度に話して喉が渇いたのか、レイラは紅茶を一口飲んでから話を続けた。

「私は呪力もなく、村の外の血が混じった子として冷遇されていました。ほぼ奴隷のように扱われていましたわ。……でも、皮肉にもそのおかげで呪い返しに巻き込まれず生き残ることができましたの」
「呪い返し……?」

 不穏な言葉を聞き返すと、レイラは頷いた。

「呪いが失敗した時、その呪いは呪術師に返ってくるんです。本来なら母だけに返ってくるはずが、あまりにも呪力が強すぎたのでしょうね。呪いの炎は母だけでなく村中を焼き尽くしてしまいました。幸いにも、私は水汲みを命じられて川に行っていたのでその大火事から逃れることができました」

 幸いにも、と言いつつもその顔は悲痛なものだった。
 彼女の痛ましい過去に心を痛めるダリルだったが、ふとあることが気になった。

「それじゃあその背中の火傷は……?」
「もちろん、その時のものですわ。……信じられないかもしれませんが、村から離れた川辺にいたにも関わらず、突然、背中に炎が広がったのです。まるで、あの村の者は全て焼き尽くすという強い呪いの意志を宿しているようでしたわ。私は川に身を投げることで何とか焼き尽くされることはありませんでしたけれど、村の人たちはひとり残らず焼かれていました」

 伏せたレイラの目元に涙の気配が漂う。ダリルは何と言葉をかけていいか分からなかった。
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