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あんな風に言われたんじゃ断れないですよ
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契約結婚が延長となり変わったのは、座る位置だけではない。
これまで寝室は別々だったが、契約が延長となってからは、ダリルの合意なしでキスを含めやましい真似は一切しないという条件のもと一緒に寝ることになったのだ。
「そ、そうですね。ミルクティーの効果が消えないうちに早く寝ちゃいましょう」
おどけるように言いながら、ダリルはカーティスの手に自分の手をのせた。
その手にほっと安堵したように微笑むカーティスは、まるで初恋に胸をときめかせる少年のような無垢さがある。だからこそ、ダリルは一緒に寝たいというカーティスの望みを受け入れたのだが、それでもやはりそわそわしてしまう。
カーティスにしては珍しい大胆な提案だと最初は驚いたが、後日その発案者がすぐに分かり納得した。
『――で、カーティスとは仲良く一緒に寝ているかい?』
ダリルに会うため本邸へ訪ねてきたアドレイドの言葉に、思わず紅茶を吹き出しそうになった。
『な、なんで、急にそんな話を……!』
『だって、一緒に寝るようアドバイスしたのは何を隠そうこの私だからね』
向かいの席に座るアドレイドが胸を張って言ったので、ようやくそこでカーティスらしからぬ提案に合点がいった。
『どうしてそんなアドバイスを……。おかげでこっちは変なドキドキでなかなか眠れないんですよ』
恨みがましくじろりと睨むが、アドレイドは至極愉しげにニヤニヤと笑うだけだった。
『おや? ドキドキということは早速効果ありかな?』
『そ、そういう意味のドキドキじゃありませんよ。なにか粗相しないか心配なだけですよ。寝相の悪さでカーティスを蹴飛ばしたりしないかとか……』
『はははっ! 君になら蹴飛ばされてもむしろ大喜びかもしれんぞ』
『いや、カーティス様はそんな変態ではありませんから!』
『ふふっ、夫への無礼な発言は許さないというわけかな』
『そういう意味じゃなくてですね……』
どう言葉を返しても、自分の都合の良い流れに持っていこうとするアドレイドに溜め息を吐いた。
アドレイドはからかい甲斐があると言わんばかりに愉しげにくすくすと笑った。
『そんなに嫌なら断ればよかっただろう。あの子は私と違って誠実だから、無理強いなどしなかっただろう?』
『そりゃあ無理強いはされませんでしたけど……』
一緒に寝てもらえないだろうかとカーティスに提案された時のことを思い出す。
キスなどやましい行為は一切しないという条件を、まるで国同士の条約を話し合うような真面目さで提示するカーティスの目には下心の欠片もなく、ただただ真剣だった。
極めつけに、顔を真っ赤にして『……君に少しでも男として意識してほしいんだ』と羞恥に押し潰されながらも言葉にしたその声に、ダリルの方が居た堪れない気持ちになりつい承諾してしまったのだ。
『……あんな風に言われたんじゃ断れないですよ』
一歩間違えれば幻滅されかねない提案を、あの真面目なカーティスがしたのだ。相当な勇気が要ったことだろう。
カーティスの決死の覚悟を思うと、とてもではないが断れなかった。
『それにカーティス様が約束を破ることは絶対にないですしね』
『ふふっ、日頃の行いが物を言うというやつだな。まぁ、何はともあれ君が提案を受け入れてくれてよかったよ。そうでなければ、あまりに分が悪いからね』
『分が悪い?』
『ああ、そうだ』
首を傾げるダリルに、アドレイドはゆったりと脚を組み直して答えた。
これまで寝室は別々だったが、契約が延長となってからは、ダリルの合意なしでキスを含めやましい真似は一切しないという条件のもと一緒に寝ることになったのだ。
「そ、そうですね。ミルクティーの効果が消えないうちに早く寝ちゃいましょう」
おどけるように言いながら、ダリルはカーティスの手に自分の手をのせた。
その手にほっと安堵したように微笑むカーティスは、まるで初恋に胸をときめかせる少年のような無垢さがある。だからこそ、ダリルは一緒に寝たいというカーティスの望みを受け入れたのだが、それでもやはりそわそわしてしまう。
カーティスにしては珍しい大胆な提案だと最初は驚いたが、後日その発案者がすぐに分かり納得した。
『――で、カーティスとは仲良く一緒に寝ているかい?』
ダリルに会うため本邸へ訪ねてきたアドレイドの言葉に、思わず紅茶を吹き出しそうになった。
『な、なんで、急にそんな話を……!』
『だって、一緒に寝るようアドバイスしたのは何を隠そうこの私だからね』
向かいの席に座るアドレイドが胸を張って言ったので、ようやくそこでカーティスらしからぬ提案に合点がいった。
『どうしてそんなアドバイスを……。おかげでこっちは変なドキドキでなかなか眠れないんですよ』
恨みがましくじろりと睨むが、アドレイドは至極愉しげにニヤニヤと笑うだけだった。
『おや? ドキドキということは早速効果ありかな?』
『そ、そういう意味のドキドキじゃありませんよ。なにか粗相しないか心配なだけですよ。寝相の悪さでカーティスを蹴飛ばしたりしないかとか……』
『はははっ! 君になら蹴飛ばされてもむしろ大喜びかもしれんぞ』
『いや、カーティス様はそんな変態ではありませんから!』
『ふふっ、夫への無礼な発言は許さないというわけかな』
『そういう意味じゃなくてですね……』
どう言葉を返しても、自分の都合の良い流れに持っていこうとするアドレイドに溜め息を吐いた。
アドレイドはからかい甲斐があると言わんばかりに愉しげにくすくすと笑った。
『そんなに嫌なら断ればよかっただろう。あの子は私と違って誠実だから、無理強いなどしなかっただろう?』
『そりゃあ無理強いはされませんでしたけど……』
一緒に寝てもらえないだろうかとカーティスに提案された時のことを思い出す。
キスなどやましい行為は一切しないという条件を、まるで国同士の条約を話し合うような真面目さで提示するカーティスの目には下心の欠片もなく、ただただ真剣だった。
極めつけに、顔を真っ赤にして『……君に少しでも男として意識してほしいんだ』と羞恥に押し潰されながらも言葉にしたその声に、ダリルの方が居た堪れない気持ちになりつい承諾してしまったのだ。
『……あんな風に言われたんじゃ断れないですよ』
一歩間違えれば幻滅されかねない提案を、あの真面目なカーティスがしたのだ。相当な勇気が要ったことだろう。
カーティスの決死の覚悟を思うと、とてもではないが断れなかった。
『それにカーティス様が約束を破ることは絶対にないですしね』
『ふふっ、日頃の行いが物を言うというやつだな。まぁ、何はともあれ君が提案を受け入れてくれてよかったよ。そうでなければ、あまりに分が悪いからね』
『分が悪い?』
『ああ、そうだ』
首を傾げるダリルに、アドレイドはゆったりと脚を組み直して答えた。
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