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ひどい邪推をしてしまった
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「今でこそダーラ夫人一筋だが、ダリル君のことも気に入っているようだったから、少し気になったんだ。余計な詮索をしてすまなかった」
「いえ、全然。心配してくださったんですね、ありがとうございます」
「いや、礼を言う必要はない。そもそも、契約期間中も恋愛は自由だ。たとえアドレイド辺境伯が君に好意を寄せていようとも、私が口を挟むことではなかった」
きっぱりとした物言いだったが、ダリルの礼を冷たく突き返すというよりも、自身に言い聞かせるようなものだった。
「君が誰かに口説かれようとそれを受け入れるも拒むも君次第だ。分かってはいるのだが、どうしても気になって……」
自身でも判然としない気持ちを整理するようにとつとつと話すカーティス。それはまるで半分独り言のようで、声遣いに戸惑いが感じられた。
そんなカーティスの声に、ふとアドレイドの言葉が脳裏によぎった。
――ハウエル家の血筋は嫉妬深いのだよ。現に嫉妬深い私が言うのだ、間違いない。
(いや、ないないない!)
ダリルは脳裏に浮かんだ言葉を慌てて打ち消した。
真面目で思いやりのあるカーティスのことだ。きっと身内の者が何か無礼なことをしていないか気にかけてくれた、ただそれだけのことだろう。
自分たちはあくまでカイルの望みを叶えるために関係を結んだ仮初の夫婦なのだ。嫉妬などするわけがない。
気を取り直してダリルは口を開いた。
「本当に大丈夫ですよ。むしろ私のことよりカイルやカーティス様のことを気にされていたようです」
「私のことを?」
カーティスは意外そうに目を丸くした。
「ええ、奥様が亡くなられて、さらにカイルの痣の件が続いてずっと暗い顔をされていたから、今日久しぶりにお二人の笑顔が見れたと安心されていましたよ」
「……そうか」
そう言ってカーティスは目元を和らげた。
その表情は、子が親の愛を感じた時に見せるあどけない笑みの片鱗を感じるものだった。
「それならばアドレイド辺境伯に謝らなければな。ひどい邪推をしてしまった」
「ははは、でもアドレイド辺境伯ならきっと笑って許してくれますよ」
むしろいいからかいのネタを得たと嬉々とした笑みを浮かべそうだ。
「確かに、あの人はそういったことを根に持つタイプじゃないな。昔から明るく陽気で寛大だった。私とは正反対だ。彼女と血縁があると知って驚く者も多い」
確かに厳格な雰囲気を纏うカーティスと、気さくで陽気なアドレイドは真逆に位置する存在で、一見すると血の繋がりはあまり感じられない。
だが、家族への深い愛情を湛えて微笑むその赤い瞳は瓜二つだ。
目の前にある赤い瞳と、カイルとカーティスへの慈しみに満ちたアドレイドの瞳を重ね合わせながら、微笑ましい気持ちでダリルは言った。
「でも、家族思いなところはそっくりですよね」
ダリルの言葉が思いもよらないものだったのか、カーティスは少し目を丸くしたが、すぐにフッと小さく笑った。
「そんな風に言ってくれたのは君が初めてだ」
どこか嬉しそうに言って、カーティスは紅茶を口に運んだ。
「……今日改めて、君が家族になってくれてよかったと痛感したよ」
「いえいえっ、そんな大したことは何もしてませんよ」
ダリルとしては特段何も変わったことはしていない。だから、痛感したとまで言われるとひどく恐れ多い気持ちになり、ついブンブンと激しく手を横に振って否定した。
しかし、カーティスは穏やかに目を細め静かに首を横に振った。
「いえ、全然。心配してくださったんですね、ありがとうございます」
「いや、礼を言う必要はない。そもそも、契約期間中も恋愛は自由だ。たとえアドレイド辺境伯が君に好意を寄せていようとも、私が口を挟むことではなかった」
きっぱりとした物言いだったが、ダリルの礼を冷たく突き返すというよりも、自身に言い聞かせるようなものだった。
「君が誰かに口説かれようとそれを受け入れるも拒むも君次第だ。分かってはいるのだが、どうしても気になって……」
自身でも判然としない気持ちを整理するようにとつとつと話すカーティス。それはまるで半分独り言のようで、声遣いに戸惑いが感じられた。
そんなカーティスの声に、ふとアドレイドの言葉が脳裏によぎった。
――ハウエル家の血筋は嫉妬深いのだよ。現に嫉妬深い私が言うのだ、間違いない。
(いや、ないないない!)
ダリルは脳裏に浮かんだ言葉を慌てて打ち消した。
真面目で思いやりのあるカーティスのことだ。きっと身内の者が何か無礼なことをしていないか気にかけてくれた、ただそれだけのことだろう。
自分たちはあくまでカイルの望みを叶えるために関係を結んだ仮初の夫婦なのだ。嫉妬などするわけがない。
気を取り直してダリルは口を開いた。
「本当に大丈夫ですよ。むしろ私のことよりカイルやカーティス様のことを気にされていたようです」
「私のことを?」
カーティスは意外そうに目を丸くした。
「ええ、奥様が亡くなられて、さらにカイルの痣の件が続いてずっと暗い顔をされていたから、今日久しぶりにお二人の笑顔が見れたと安心されていましたよ」
「……そうか」
そう言ってカーティスは目元を和らげた。
その表情は、子が親の愛を感じた時に見せるあどけない笑みの片鱗を感じるものだった。
「それならばアドレイド辺境伯に謝らなければな。ひどい邪推をしてしまった」
「ははは、でもアドレイド辺境伯ならきっと笑って許してくれますよ」
むしろいいからかいのネタを得たと嬉々とした笑みを浮かべそうだ。
「確かに、あの人はそういったことを根に持つタイプじゃないな。昔から明るく陽気で寛大だった。私とは正反対だ。彼女と血縁があると知って驚く者も多い」
確かに厳格な雰囲気を纏うカーティスと、気さくで陽気なアドレイドは真逆に位置する存在で、一見すると血の繋がりはあまり感じられない。
だが、家族への深い愛情を湛えて微笑むその赤い瞳は瓜二つだ。
目の前にある赤い瞳と、カイルとカーティスへの慈しみに満ちたアドレイドの瞳を重ね合わせながら、微笑ましい気持ちでダリルは言った。
「でも、家族思いなところはそっくりですよね」
ダリルの言葉が思いもよらないものだったのか、カーティスは少し目を丸くしたが、すぐにフッと小さく笑った。
「そんな風に言ってくれたのは君が初めてだ」
どこか嬉しそうに言って、カーティスは紅茶を口に運んだ。
「……今日改めて、君が家族になってくれてよかったと痛感したよ」
「いえいえっ、そんな大したことは何もしてませんよ」
ダリルとしては特段何も変わったことはしていない。だから、痛感したとまで言われるとひどく恐れ多い気持ちになり、ついブンブンと激しく手を横に振って否定した。
しかし、カーティスは穏やかに目を細め静かに首を横に振った。
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