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それならいいのだが……
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(何にせよネイトが失礼なことを言ったのは事実だし、謝らないとな)
できればすぐにでも謝りたかったが、二人の間に流れる沈黙が口を開くのを憚らせた。
(……とりあえずカーティスの部屋に着いて腰を据えてから謝ろう)
それに歩きながらの謝罪も失礼だ。謝罪を急く気持ちにそう言い聞かせながら、ダリルはカーティスの後に黙って付き従った。
部屋につくと、カーティスはダリルをソファに座らせ、紅茶をテーブルに置いた。
「レイラからもらった茶葉で淹れた。疲労に効くらしい。今日は疲れただろう。これを飲んで一息つきなさい」
「あ、ありがとうございます」
予想外に温かな労いの言葉を寄越され戸惑うダリルだったが、素直にカーティスの厚意に甘え紅茶を口に運ぶ。
ふわりと慎ましく広がるその香りに、体に張り詰めていたものが緩むのを感じた。
「いい香りですね。なんだかホッとします」
顔を綻ばせるダリルに、カーティスの目元が微かに和らぐ。
「今日はずっと緊張し通しだっただろう。こちらの無理な頼みに付き合わせてしまってすまなかった」
「いえいえっ、とんでもないです。それに皆さんとてもいい人で途中からは緊張せず楽しくお話できました」
「それならよかった」
ダリルの言葉にカーティスは口元に安堵の表情を淡く浮かべて、紅茶を一口飲んだ。
そのタイミングでネイトの件を謝ろうとしたダリルだったが、それより早くカーティスが口を開いた。
「……アドレイド辺境伯と二人で話したようだが、何か変なことを言われたりはしなかったか」
「え?」
思いがけずアドレイドの名前が出てキョトンとなる。
しかも、カーティスの顔には薄っすらとではあるがどこか緊張めいたものが張り詰めており、なおさら戸惑った。
だが、隠すようなことは後ろめたい会話は何一つしていないので正直に話した。
「いえ、別に変なことは言われていませんよ。カイルの笑顔をまた見ることができてよかったと嬉しそうに話されていました」
「そうか。それならいいのだが……」
ダリルの言葉に安堵しつつも、歯切れの悪い語尾に複雑な心境が窺えた。
何か引っかかることでもあるのだろうかと首を傾げていると、カーティスがちらりと視線を寄越し躊躇いがちに口を開いた。
「……一応確認なのだが、アドレイド辺境伯に口説かれたりはしていないか」
「えっ!」
思いもよらない確認に目を見開くダリルだったが、すぐに慌てて首を横に振った。
「まさか、口説かれるわけないですよ。それにアドレイド辺境伯はあんなにもダーラ様一筋じゃありませんか。私を口説くなんて絶対にありえないことです」
ダーラへの溺愛ぶりを思い出し、苦笑しながら否定する。
「確かに今はそうだが、昔は恋愛に関しては奔放な人で気に入ったオメガや女性はすぐに口説いて常に複数人恋人がいるような人だった。尊敬する叔母だが、あの奔放さだけは理解できなかった」
カーティスが渋い表情で溜め息を吐く。
確かに真面目なカーティスにとって、そういった奔放さは理解に苦しむものがあるのだろう。
それがカーティスらしくダリルは頬を緩めた。
「そんなアドレイド辺境伯が一途になるなんてなんだか素敵な話ですね」
「ああ、そうだな。改心してくれてよかった」
「改心って……」
悪気はないのだろうが、いやないからこそその言い方に苦笑した。
真面目なカーティスらしい言葉選びだ。
できればすぐにでも謝りたかったが、二人の間に流れる沈黙が口を開くのを憚らせた。
(……とりあえずカーティスの部屋に着いて腰を据えてから謝ろう)
それに歩きながらの謝罪も失礼だ。謝罪を急く気持ちにそう言い聞かせながら、ダリルはカーティスの後に黙って付き従った。
部屋につくと、カーティスはダリルをソファに座らせ、紅茶をテーブルに置いた。
「レイラからもらった茶葉で淹れた。疲労に効くらしい。今日は疲れただろう。これを飲んで一息つきなさい」
「あ、ありがとうございます」
予想外に温かな労いの言葉を寄越され戸惑うダリルだったが、素直にカーティスの厚意に甘え紅茶を口に運ぶ。
ふわりと慎ましく広がるその香りに、体に張り詰めていたものが緩むのを感じた。
「いい香りですね。なんだかホッとします」
顔を綻ばせるダリルに、カーティスの目元が微かに和らぐ。
「今日はずっと緊張し通しだっただろう。こちらの無理な頼みに付き合わせてしまってすまなかった」
「いえいえっ、とんでもないです。それに皆さんとてもいい人で途中からは緊張せず楽しくお話できました」
「それならよかった」
ダリルの言葉にカーティスは口元に安堵の表情を淡く浮かべて、紅茶を一口飲んだ。
そのタイミングでネイトの件を謝ろうとしたダリルだったが、それより早くカーティスが口を開いた。
「……アドレイド辺境伯と二人で話したようだが、何か変なことを言われたりはしなかったか」
「え?」
思いがけずアドレイドの名前が出てキョトンとなる。
しかも、カーティスの顔には薄っすらとではあるがどこか緊張めいたものが張り詰めており、なおさら戸惑った。
だが、隠すようなことは後ろめたい会話は何一つしていないので正直に話した。
「いえ、別に変なことは言われていませんよ。カイルの笑顔をまた見ることができてよかったと嬉しそうに話されていました」
「そうか。それならいいのだが……」
ダリルの言葉に安堵しつつも、歯切れの悪い語尾に複雑な心境が窺えた。
何か引っかかることでもあるのだろうかと首を傾げていると、カーティスがちらりと視線を寄越し躊躇いがちに口を開いた。
「……一応確認なのだが、アドレイド辺境伯に口説かれたりはしていないか」
「えっ!」
思いもよらない確認に目を見開くダリルだったが、すぐに慌てて首を横に振った。
「まさか、口説かれるわけないですよ。それにアドレイド辺境伯はあんなにもダーラ様一筋じゃありませんか。私を口説くなんて絶対にありえないことです」
ダーラへの溺愛ぶりを思い出し、苦笑しながら否定する。
「確かに今はそうだが、昔は恋愛に関しては奔放な人で気に入ったオメガや女性はすぐに口説いて常に複数人恋人がいるような人だった。尊敬する叔母だが、あの奔放さだけは理解できなかった」
カーティスが渋い表情で溜め息を吐く。
確かに真面目なカーティスにとって、そういった奔放さは理解に苦しむものがあるのだろう。
それがカーティスらしくダリルは頬を緩めた。
「そんなアドレイド辺境伯が一途になるなんてなんだか素敵な話ですね」
「ああ、そうだな。改心してくれてよかった」
「改心って……」
悪気はないのだろうが、いやないからこそその言い方に苦笑した。
真面目なカーティスらしい言葉選びだ。
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