役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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おやおや、まるで惚気だねぇ

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「もっとゆっくり話したいところだが、そろそろ戻らねば。ダーラがヤキモチを焼くといけないからね」
「へぇ、意外とヤキモチ焼きなんですね」
「ハハハッ、もちろんそうであってほしいという私の願望だ。実際は知らん」

 胸を張って陽気に言い切るアドレイドに、ダリルは小さく笑った。

「でも、いい気分はしないかもしれませんね。ダーラ様のためにも戻りましょう」
「あと、カーティスのためにもだ」
「え?」

 腰を浮かしかけたダリルだが、思わぬ言葉に動きを止める。
 なぜそこでカーティスの名前が出てきたのか分からず不思議に思っていると、アドレイドがにやりと目を細めて続けた。

「ダーラも言っていただろう? ハウエル家の血筋の人間は強引なところがあると。それと同じでハウエル家の血筋は嫉妬深いのだよ。現に嫉妬深い私が言うのだ、間違いない」

 なぜか得意げに言うアドレイドに苦笑しつつも、カーティスと嫉妬深いという二つの言葉がどうにも結びつかず首を傾げた。

(むしろやきもちを焼く恋人を冷静になだめてそうだけどな……)

 釈然としない様子のダリルにアドレイドはくすりと笑うだけだった。

「まぁ、カーティスになにか少しでも不満があれば私に言いなさい。私がカーティスを叱ってやろう」
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。きっとカーティス様に不満なんてこれからもないと思いますから」
「おやおや、まるで惚気だねぇ」

 アドレイドがニヤニヤと笑うので、慌てて手を横に振って否定した。

「いえいえ、そういう意味じゃなくて……!」
「ふふふ、照れることはない。仲がよいのはいいことだ」

 上機嫌に言ってアドレイドは歩み始めた。ダリルもその後を追い、惚気発言を否定したがアドレイドは微笑ましげに頷くだけだった。



 夜もふけ、それぞれが客室へと戻って行った。
 子どものカイルは大人たちより一足先に自室に戻っていた。
 カイルから宴が終わったら必ず自分のもとへ来るよう言われたダリルは、寝支度を整えてからカイルの部屋へ向かった。

(もうぐっすり寝てるだろうなぁ。起こさないように静かにベッドに入らないとな)
 
 カイルの寝顔を思い浮かべながら頬を緩めていたダリルだが、部屋の前に立つ思わぬ人物に目を丸くし、その歩みを思わず止めた。

「カーティス様」

 名前を呼ばれ視線をこちらに向けたカーティスに、ダリルは慌てて駆け寄った。

「どうしたのですか? あ、もしかしてカイルに何か用があるのですか? それなら少し時間を置いてまた来ますが……」
「いや、用があるのは君にだ」
「え?」

 思いもよらない言葉に踵を返しかけていた体がぴたりと止まる。
 
「私にですか?」
「ああ。少し私の部屋で話をしたいのだが、いいだろうか」
「え、ええ、もちろんです」

 頷きながらもダリルは戸惑い、それは徐々に不安へと変わっていった。

(もしかして何かヘマでもしただろうか……)

 カーティスの後ろをついて行きながら、今夜の晩餐会を振り返る。
 もちろんハウエル公爵夫人として完璧な振る舞いができたとは言い難いが、大きな失態も犯していない。
 ひとつ心当たりがあるとすれば、酔ったネイトの無礼な暴言くらいだ。
 しかし、カーティスの性格から、後になって当人でないダリルを責めたりグチグチと嫌味や小言を言ったりということは考えにくかった。
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