役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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一年後にはちゃんと僕に返してくださいよ!

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「ハハハッ、それはすまなかった。別に彼を貶めるつもりはなかったのだが、そう感じさせてしまったなら申し訳ない。いや、しかし、まさかカーティスがこんなにムキになって言い返すなんて……。ふふっ、こんなこといつぶりだろう」

 肩を震わせ笑うアドレイドにつられるようにして、向かいに座るレイラもくすりと笑った。
 
「本当に珍しいですわ。アドレイド叔母様の冗談は大抵受け流すのに」
「私は今のお言葉、素晴らしいと思いました。ぜひ今後ともその調子でアドレイド様にビシッと言ってあげてください」

 小さく拍手しながらダーラが言うと、

「……ちょっと、なにちゃっかり株を上げてるんですかぁ!」
「うわっ」

 勢いよく立ち上がったネイトに、ダリルは後ろに少しよろめいた。
 しかし酔いとカーティスへの敵意で頭がいっぱいになっているネイトはそのことに気づかず、カーティスへ怒りの矛先を向けキッと睨みつけた。

「言っておきますけど、兄を預けるのは一年だけですからね! 一年後にはちゃんと僕に返してくださいよ!」

(預けるとか返すとか、俺は物じゃないんだけど……)

 ビシッと指さして言うネイトに呆れながらも、彼の見当違いな怒りをなだめるようにして肩に手を置く。

「はいはい、大丈夫だって。カイルがアリシア学園に入学したら俺はお役御免だから。心配せずともすぐに返品されるよ。そうですよね、カーティス様」

 ここで頷いてもらえば、ネイトもとりあえずは納得してこの場も丸く収まるはずだ。
 やましい感情はないと断言した時のように、きっぱりと言い切ってくれるだろうと思っていたのだが、

「……」
「カーティス様?」

 なかなか返事を寄越さないので不思議に思って首を傾げると、ハッとしたようにカーティスが顔を上げた。

「あ、いや、すまない。もちろんそのつもりだ。……ただ、カイルも学生寮に入って、君もいなくなったら、この家は寂しくなるなと思っただけだ」

 すぐに断言を返せなかったことをらしくないと自分でも思ったのだろう、苦笑交じりにカーティスが言った。
 その顔は少し切なげで、一年後ひとりになったカーティスの心境を想像すると少しだけ胸が締め付けられた。
 しかし、ネイトは少しも同情することなく、厳しく目を吊り上げた。

「ちょっと! なに哀愁漂う美形を演出してるんですか! 兄さんはそんな卑怯な手に騙されませんからね!」

 バンバンッ、とネイトがテーブルを叩くと、隣のカイルも勢いよく立ち上がった。

「お父様! 結婚は僕が入学するまでの約束でしょう! それ以上はだめです! この結婚はダリルが僕の母になるためのものなんですからね!」
「そうです! この契約結婚はカイル君のための結婚です! それなのに二人の仲を深めてどうするんですか!」
「その通りです!」

 謎の結束を見せるカイルとネイトに、ダリルはもちろんカーティスも戸惑いながらも、二人の勢いをなだめるように「分かっている。もちろん一年後には離婚する」と言って聞かせた。
 話が落ち着いたところで、すかさずネイトの腕を引いた。

「さぁ、ネイト、これで満足だろう。あとは部屋でゆっくり休もう」
「ちょ、ちょっと兄さんっ」

 これ以上失礼なことを言い出さないよう、やや強引に引っ張って広間を後にした。
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