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カーティスよ、もっとアルファの本能に忠実になれ!
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「いいや! まだハウエル公爵の答えをきいてないっ」
肩に置いたダリルの手を振りほどき、酒気に淀んだ瞳で真っ直ぐカーティスを睨み据えた。
「ハウエル公爵、どうなんです? 僕の兄をいかがわしい目で見たことはないと断言できますか?」
どこか挑発的な響きを含んだその問いに、ダリルは頭を抱えた。
これほどまでに穴があったら入りたいと思ったのは初めてのことだ。
しかしカーティスは特段、不愉快な様子は見せず、真顔で頷き返した。
「もちろん断言できる。ダリル君は私やカイルにとって恩人みたいなものだ。そんな彼にやましい感情を抱くはずがない。そしてそれはこれからも変わらない」
きっぱりとした口調で言い切るカーティスにやましさなど微塵もなかった。
これならネイトも納得して引き下がるだろうと安堵したのも束の間、右隣から不満げな声が漏れた。
「なんだ、その模範的でクソ真面目な答えは。つまらんっ。カーティスよ、もっとアルファの本能に忠実になれ!」
唇を尖らせ煽るようにして言うアドレイドに、カーティスは小さく溜め息を吐いた。
「ダリル君はまだ十八ですよ。自分の妹と三つしか変わらない歳の子に対してアルファの本能も何もありませんよ」
「何を言う。愛に年の差など関係ない。現に私とダーラもお前たちと同じくらいの年の差だぞ」
得意げに言うアドレイドの言葉に、ダーラが「……あの人にもハウエル公爵ほどの理性があればよかったのに」とぼそりと呟く。しかし、もちろん自分に都合の悪い言葉は無視である。
「それに絶対にやましい感情は抱かないと断言するのはオメガのダリル君に失礼というものだよ。ね? ダリル君」
「えっ」
急に話を振られ戸惑う。
はっきり言ってオメガとしての自負もなければ自覚もほとんどないダリルにとって、カーティスにそういった感情がないことは、都合がいいくらいだった。
むしろネイトの無礼な杞憂を晴らしてもらうためにも、カーティスの断言は有り難いくらいだ。
「いえ、別に私は何とも……」
「遠慮することはないぞ。この際、きっぱり言い給え」
「いえ、本当に私は何とも思っていません」
「本当か? よく考えてみなさい。絶対にやましい感情を抱かないというのはつまり、オメガとして君に少しも魅力を感じていないと言っているも同意だぞ。そんな失礼極まりな――」
「そんなことはありません」
冗談交じりの熱弁を遮ったのは、ダリルではなくカーティスの声だった。
これにはダリルはもちろん、予想外の人物に遮られアドレイドも目を丸くしてカーティスの方へ向いた。
カーティスは真顔のまま淡々と続けた。
「決してダリル君に魅力がないと言っているわけではありません。ただ、彼とは年が離れていますし、私自身、オメガやアルファのそういった関係に疎いのです。断じてダリル君に魅力がないという意味で言ったわけではありません」
からかいが入り込む隙きもないほどに堅い声で言うと、カーティスは視線をダリルへと移した。
「ダリル君はオメガなど関係なく人として魅力的な人です。……ですから、たとえ冗談だとしても彼を貶めるような発言は謹んでください」
そう言って厳しい目を向けてきたカーティスに、アドレイドは目を見開いていたがすぐに吹き出して快活な笑い声を上げた。
肩に置いたダリルの手を振りほどき、酒気に淀んだ瞳で真っ直ぐカーティスを睨み据えた。
「ハウエル公爵、どうなんです? 僕の兄をいかがわしい目で見たことはないと断言できますか?」
どこか挑発的な響きを含んだその問いに、ダリルは頭を抱えた。
これほどまでに穴があったら入りたいと思ったのは初めてのことだ。
しかしカーティスは特段、不愉快な様子は見せず、真顔で頷き返した。
「もちろん断言できる。ダリル君は私やカイルにとって恩人みたいなものだ。そんな彼にやましい感情を抱くはずがない。そしてそれはこれからも変わらない」
きっぱりとした口調で言い切るカーティスにやましさなど微塵もなかった。
これならネイトも納得して引き下がるだろうと安堵したのも束の間、右隣から不満げな声が漏れた。
「なんだ、その模範的でクソ真面目な答えは。つまらんっ。カーティスよ、もっとアルファの本能に忠実になれ!」
唇を尖らせ煽るようにして言うアドレイドに、カーティスは小さく溜め息を吐いた。
「ダリル君はまだ十八ですよ。自分の妹と三つしか変わらない歳の子に対してアルファの本能も何もありませんよ」
「何を言う。愛に年の差など関係ない。現に私とダーラもお前たちと同じくらいの年の差だぞ」
得意げに言うアドレイドの言葉に、ダーラが「……あの人にもハウエル公爵ほどの理性があればよかったのに」とぼそりと呟く。しかし、もちろん自分に都合の悪い言葉は無視である。
「それに絶対にやましい感情は抱かないと断言するのはオメガのダリル君に失礼というものだよ。ね? ダリル君」
「えっ」
急に話を振られ戸惑う。
はっきり言ってオメガとしての自負もなければ自覚もほとんどないダリルにとって、カーティスにそういった感情がないことは、都合がいいくらいだった。
むしろネイトの無礼な杞憂を晴らしてもらうためにも、カーティスの断言は有り難いくらいだ。
「いえ、別に私は何とも……」
「遠慮することはないぞ。この際、きっぱり言い給え」
「いえ、本当に私は何とも思っていません」
「本当か? よく考えてみなさい。絶対にやましい感情を抱かないというのはつまり、オメガとして君に少しも魅力を感じていないと言っているも同意だぞ。そんな失礼極まりな――」
「そんなことはありません」
冗談交じりの熱弁を遮ったのは、ダリルではなくカーティスの声だった。
これにはダリルはもちろん、予想外の人物に遮られアドレイドも目を丸くしてカーティスの方へ向いた。
カーティスは真顔のまま淡々と続けた。
「決してダリル君に魅力がないと言っているわけではありません。ただ、彼とは年が離れていますし、私自身、オメガやアルファのそういった関係に疎いのです。断じてダリル君に魅力がないという意味で言ったわけではありません」
からかいが入り込む隙きもないほどに堅い声で言うと、カーティスは視線をダリルへと移した。
「ダリル君はオメガなど関係なく人として魅力的な人です。……ですから、たとえ冗談だとしても彼を貶めるような発言は謹んでください」
そう言って厳しい目を向けてきたカーティスに、アドレイドは目を見開いていたがすぐに吹き出して快活な笑い声を上げた。
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