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ちょ、ちょっと、ネイト! 何を言ってるんだ!

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 優しさに満ちたその場の雰囲気は、血の繋がらない部外者であるダリルやネイトにとっても心地よいもので、自然と笑みが零れた。
 ただひとつ少し気がかりなことを挙げるとすれば、ダリルの真正面に座るカーティスがダリルに話しかける度に、カイルを挟んで左隣に座るネイトが密かに目を光らせることくらいだった。

(まぁでも、さすがにハウエル公爵家の当主にいきなり食って掛かるようなことはしないだろう)

 少し兄への盲目的な傾倒の気が強いネイトだが、感情的になって冷静な判断ができなくなるほど分別に欠けているわけではない。
 よっぽどネイトの逆鱗に触れるような言動がなければ、このまま晩餐会は優しい時間と共に何事もなく過ぎていくだろう。――そう、思っていた。



「しつれぇを承知で言いますけどぉ、ハウエル公爵は、兄をいやらしい目で見たりとかしてませんよねぇ?」

 食後酒に口をつけてからしばらくして、唐突に、ネイトが不躾で不信に満ちた問いをカーティスに投げかけた。 
 真っ赤な顔に舌足らずな呂律。誰が見てもネイトは酔っぱらいそのものだった。
 ダリルの体から血の気が引く。

「ちょ、ちょっと、ネイト! 何を言ってるんだ!」

 あまりにも礼を欠いたその言葉に、思わずガタッと椅子を揺らし立ち上がった。

「冗談でも失礼だろうっ」
「僕は本気だよ! 兄さんほど可愛いオメガが傍にいたら変な下心を抱くのは当然だ!」
「全然当然じゃないっ」

 身内びいきの過ぎる暴論に頭が痛くなった。
 酔っ払いを諭すのは無謀なことだ。ダリルはすぐさまカーティスの方へ向き直り頭を下げた。

「カーティス様、申し訳ございませんっ。ネイトが失礼なことを言って……」
「いや、別に構わない」

 カーティスに気分を害した様子はなかったが、それでも表情の乏しいその顔から驚きと戸惑いは見て取れた。

(こんなことならネイトには酒を出さないよう事前に言っておけばよかった……!)

 この世界では十五歳以上であれば飲酒は許されているが、ネイトは元々酒に強い方ではない。
 だが、付き合い程度に一杯くらいなら飲めるし、食後酒はアドレイドの手土産のワインで断るのも憚られた。
 それにワイン自体は甘口で飲んだ限りでは酒の度数は低いと思ったのだが――。

「フフフッ」

 右隣りに座るアドレイドが含みのある笑いを漏らした。

「酒が入れば色々話してくれるだろうと度数の強さが甘さで隠れるワインをあえて選んできたのだが、いやぁ、効果てきめんだったようだね。想定外の人物にではあったけど」

 頬杖をついてニヤニヤと笑うアドレイドに、カーティスの隣に座るダーラが額に手を当て大きく溜め息を吐いた。

「……本当に余計なことしかしないですね」
「何を言う。せっかく一年限定とはいえ身内の者となるのだ。本音でぶつかれる関係になった方がいいだろう」
「だからといって酒で無理本音をやり引き出す必要はないでしょう」
 
 もっともらしい言い分を連ねるアドレイドを冷たく一蹴すると、ダーラはダリルに向き直った。

「ダリルさん、申し訳ございません。とりあえず、ネイトさんをお部屋へお連れして酔いを覚ましてあげてはいかがでしょう」
「そ、そうですね」

 冷静に差し向けられた助け舟にダリルは頷いて、ネイトに駆け寄った。
 
「ネイト、行こう」
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