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なんと可愛らしい

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 そんな二人の反応などお構いなしに、アドレイドは恍惚混じりの嘆息を漏らした。

「あぁ……っ、なんと可愛らしい。まるで野の端で控えめに咲く野花のようだ。叶うことならまとめてお持ち帰りしたい……っ」
「誘拐罪で連行されますよ」

 微塵も冗談の気を含まず冷淡に言うダーラに、アドレイドの頬がさらに緩む。

「はははっ、すまない、妬かせてしまったね」
「妬いていません」
「大丈夫だよ。私は生涯ダーラ一筋さ」
「叶うことなら私もダリルさんのように期限付きの契約結婚でありたかったものです」

 ダリルへの嫌味などではなく、本心から漏れた独り言のように溜め息を吐きながら言った。

「そんな寂しいことを言わないでおくれ。永遠の愛を誓った仲じゃないか」
「誓わされた、の間違いです」
「だが、誓った事実には違いない」

 肩を抱き寄せにこりと微笑むアドレイドに、ダーラは心底うんざりしたような表情を浮かべたが、溜め息を飲み込むような間を置いてからダリルの方へ顔を向けた。

「……ダリルさん」
「はっ、はいっ」

 不意に名前を呼ばれ、反射的に背筋をビシッと伸ばした。 

「カーティス様はとても紳士的でいい方ですが、ハウエル家の血筋の人間はこのように強引なところがありますので、どうぞお気をつけて」

 アドレイドを軽く睨みつけながら言うダーラの忠告めいた言葉に、どう返していいか思いあぐねていると、 

「ふふふ、ひどいですわね。それでは私もその強引な血筋を引いてるってことかしら」

 先ほどまで座ってダリルたちの様子を窺っていた褐色肌の女が立ち上がりこちらにやって来た。
 
「レイラ・ハウエルです。兄がいつもお世話になっております」

 淡紅色の瞳をにこりと細めレイラが挨拶をする。
 年齢はダリルの三つ上であり、少女と呼ばれる年齢は過ぎているが、それでも大きな瞳のどこか幼さが残る可憐な顔立ちは美少女と言って差し支えないだろう。

「ダリル・コッドです。よろしくお願いします」
「ふふ、ダーラ様が仰るように強引なところがあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 いたずらっぽく笑うレイラに嫌味な感じはなかったが、ダーラは気まずかったのか「……強引なのはハウエル家のアルファに限ります」とぼそりと付け加えた。
 そんなダーラにレイラがくすりと笑う。

「本当にダーラ様は可愛いですわ。さすがアドレイド叔母様、女性を見る目がありますわね」
「ハハハッ、そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれて構わないぞ」

 アドレイドが得意げに胸を張って言うのと同時に、ノックの音が部屋に響いた。
 振り返ると、背後の扉が開きカーティスと、彼の手をぎゅっと握り俯き加減のカイルが部屋に入ってきた。

「待たせてしまい申し訳ございません」
「いや、お前の可愛い新妻ダリル君にも挨拶ができてちょうどよかったくらいさ」
「それならよかったです。……それじゃあ、カイルも挨拶しなさい」

 柔らかさを含んだ声でそう言って、カーティスはカイルの背をそっと押した。
 カイルは唇を結んだまま緊張した面持ちでゆっくりと顔を上げたが、ダリルと目が合うと、安堵したように張り詰めた頬をやや緩めた。そして、次には背筋を伸ばしてしっかりと視線をアドレイドたちに巡らせた。
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