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フッフッフッ……
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一番に声をかけてきたのは、男装の麗人風の女性だった。
「やぁ、初めまして」
席を立ち、金色の長髪を揺らしながらダリルの方へ歩み寄るその佇まいは凛々しく品があり、すぐに彼女がアルバーン辺境伯爵だということが分かった。
「君がダリル君だね。話はカーティスからよく聞いているよ。私はアドレイド・アルバーン、カーティスの叔母だ」
アドレイドは名乗るとスッと手を差し出した。
女性にしては少し低いが、自信に満ちた張りのある声で威厳と気さくさを兼ね備えていた。
「ダリル・コッドです。この度はお忙しい中、足をお運びいただき誠にありがとうございます」
「こちらこそお招きありがとう」
差し出された手をとり挨拶すると、温かな力強さで握り返された。
微笑む瞳はカーティスと同じ赤色だが、彼とは違い豊かな表情がそこにはあった。
「ご紹介申し上げます。こちらは弟のネイトです」
隣のネイトを紹介すると、物腰柔らかに視線をそちらへ移した。
緊張してぎこちないダリルと違い、ネイトは余裕ある秀麗な笑みを浮かべ一歩前に出た。
「ネイト・コッドです。どうぞよろしくお願いします」
「おやおや、十六歳だと聞いていたが、随分と堂々としているね。いい男になるに違いない。アドレイド・アルバーンだ、よろしく」
冗談交じりに褒めながら、アドレイドはネイトと握手を交わした。
辣腕を振るう女辺境伯という噂から厳しい人物像を想像していたが、気さくな物腰にホッとした。
「お出迎えができず申し訳ございませんでした」
「気にすることはない。久しぶりの再会だったのだろう? それは積もる話もあるというものさ。私もカーティスと色々と話せてちょうどよかった」
出迎えられなかった非礼を詫びるダリルに、アドレイドは朗らかに笑って答えた。
「さて、私も妻を紹介させてもらおう。ダーラ」
「はい」
呼ばれて立ち上がったのは、小柄な黒髪の女の方だった。
長身のアドレイドの隣に立つとその小柄さがさらに際立った。
「私の妻、ダーラ・アルバーンだ」
「この度はお招きいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
愛想程度にも微笑まず挨拶をするダーラの声は、はつらつとしたアドレイドの声とは対照的に、囁くようなか細いものだった。
いや、声だけではなく二人はすべてが対照的だった。
きらびやかな顔立ちのアドレイドに反して、ダーラは素朴な顔立ちで表情の乏しさがそれをさらに際立たせている。
服装も華やかで明るい色を基調にしたアドレイドとは真逆で、黒に近い紫色のドレスを身に纏っており、ともすれば無表情さと相まって喪服に見間違えそうになるほどだ。
だが、不思議と彼女の表情のなさに冷たさを感じることはなかった。
「ダリル・コッドです。こちらこそお越しいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」
挨拶を交わす二人を満足気に見ながら、アドレイドが不意に「フッフッフッ……」と妙な笑いを漏らした。
ダリルは首を傾げた。
「あの、どうかされました?」
「いや、失礼。ただ、私好みの二人が並んで実に壮観な光景だと思っただけさ」
「え?」
うっとりと微笑んで言うアドレイドの言葉に、ダリルはきょとんとなり、ダーラは心底辟易した顔で眉根を寄せた。
「やぁ、初めまして」
席を立ち、金色の長髪を揺らしながらダリルの方へ歩み寄るその佇まいは凛々しく品があり、すぐに彼女がアルバーン辺境伯爵だということが分かった。
「君がダリル君だね。話はカーティスからよく聞いているよ。私はアドレイド・アルバーン、カーティスの叔母だ」
アドレイドは名乗るとスッと手を差し出した。
女性にしては少し低いが、自信に満ちた張りのある声で威厳と気さくさを兼ね備えていた。
「ダリル・コッドです。この度はお忙しい中、足をお運びいただき誠にありがとうございます」
「こちらこそお招きありがとう」
差し出された手をとり挨拶すると、温かな力強さで握り返された。
微笑む瞳はカーティスと同じ赤色だが、彼とは違い豊かな表情がそこにはあった。
「ご紹介申し上げます。こちらは弟のネイトです」
隣のネイトを紹介すると、物腰柔らかに視線をそちらへ移した。
緊張してぎこちないダリルと違い、ネイトは余裕ある秀麗な笑みを浮かべ一歩前に出た。
「ネイト・コッドです。どうぞよろしくお願いします」
「おやおや、十六歳だと聞いていたが、随分と堂々としているね。いい男になるに違いない。アドレイド・アルバーンだ、よろしく」
冗談交じりに褒めながら、アドレイドはネイトと握手を交わした。
辣腕を振るう女辺境伯という噂から厳しい人物像を想像していたが、気さくな物腰にホッとした。
「お出迎えができず申し訳ございませんでした」
「気にすることはない。久しぶりの再会だったのだろう? それは積もる話もあるというものさ。私もカーティスと色々と話せてちょうどよかった」
出迎えられなかった非礼を詫びるダリルに、アドレイドは朗らかに笑って答えた。
「さて、私も妻を紹介させてもらおう。ダーラ」
「はい」
呼ばれて立ち上がったのは、小柄な黒髪の女の方だった。
長身のアドレイドの隣に立つとその小柄さがさらに際立った。
「私の妻、ダーラ・アルバーンだ」
「この度はお招きいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
愛想程度にも微笑まず挨拶をするダーラの声は、はつらつとしたアドレイドの声とは対照的に、囁くようなか細いものだった。
いや、声だけではなく二人はすべてが対照的だった。
きらびやかな顔立ちのアドレイドに反して、ダーラは素朴な顔立ちで表情の乏しさがそれをさらに際立たせている。
服装も華やかで明るい色を基調にしたアドレイドとは真逆で、黒に近い紫色のドレスを身に纏っており、ともすれば無表情さと相まって喪服に見間違えそうになるほどだ。
だが、不思議と彼女の表情のなさに冷たさを感じることはなかった。
「ダリル・コッドです。こちらこそお越しいただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ」
挨拶を交わす二人を満足気に見ながら、アドレイドが不意に「フッフッフッ……」と妙な笑いを漏らした。
ダリルは首を傾げた。
「あの、どうかされました?」
「いや、失礼。ただ、私好みの二人が並んで実に壮観な光景だと思っただけさ」
「え?」
うっとりと微笑んで言うアドレイドの言葉に、ダリルはきょとんとなり、ダーラは心底辟易した顔で眉根を寄せた。
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