23 / 86
連載
お、穏便に頼むよ……?
しおりを挟む
「ネイト、いつも色々と心配してくれてありがとう。こんなにも俺のことを気にかけてくれるのはネイトだけだよ。本当に感謝してる。こんなにも頼もしい弟がいて、俺は誇らしいよ」
決してご機嫌取りでおだてているわけではなく、本心だった。
婚約破棄された時も、ネイトだけはダリルの味方でいてくれた。そのことにどれだけ心が救われたことか。
感謝の言葉が心からのものだと伝わったのか、ネイトは尖らせていた唇を若干緩めダリルの方に向き直った。
「本当だよ、僕以上に兄さんのことを思ってる人間はこの世にいないんだからね」
冗談混じりに、しかしどこか誇らしげに言って、ネイトはクッキーをひとつ摘み口に運んだ。
「まぁ、ハウエル侯爵が本当に真面目で紳士的な人かどうかは晩餐会で僕がこの目でしっかり確かめるよ。たとえ一年の契約結婚とはいえ、いや、一年の契約結婚だからこそ、兄さんを少しでも邪な目で見るようなことがあれば即刻連れて帰る」
「お、穏便に頼むよ……?」
グッと拳を握り使命感に燃えるように言うネイトに、一抹の不安を抱きつつも、とりあえず契約結婚自体については反対されずにすんだことにホッと胸をなでおろした。
****
契約結婚の詳細について話した後は、会えなかった時間を埋めるように積もる話を交わしていたが、しばらくするとローマンが晩餐の準備ができたことと、カーティス側の親族――アドレイドとレイラ――も揃ったことを伝えに来た。
その報せを聞いて、ダリルは慌てた。
良好な人間関係を築くには第一印象が肝心だ。だからしっかりと出迎えようと思っていたのに、ネイトとの会話が弾みすっかり失念していた。
出だしからつまずいてしまったと気落ちするダリルだったが、アドレイドとレイラの来訪を報せなかったのは、久しぶりに兄弟水入らずで話している二人の邪魔をしては悪いだろうというカーティスの気遣いによるものだった。
「カーティス様もお二人と色々とお話があったようですし、気にすることはございませんよ。では、広間までご案内いたします」
優しく微笑むローマンにそう言われ、幾分気が楽になったもののやはり緊張は拭えない。
「緊張する……」
ローマンの後ろに続きながら胸元を押さえ溜め息を吐くと、隣を歩くネイトがぎゅっと手を握ってきた。
「大丈夫だよ。もし兄さんを少しでも不快にすることを言ったら僕が言い返してあげるよ」
真っ直ぐ目を見つめネイトが力強く微笑む。その物言いと笑みはどこかカイルに似ており、ダリルはくすりと笑った。
「ありがとう。頼りにしてるよ」
答えながら、ネイトとカイルは案外似た者同士で仲良くやれるのではないかと、微笑ましい気持ちが胸を温める。それは緊張で強張った鼓動を少し和らげてくれた。
ダリルとネイトが広間に入ると、すぐさま視線が二人に、特にダリルの方へと集まった。
値踏みするような不躾なものではなく、音がした方を振り返る反射的な反応といった感じではあったが、それでもダリルの身を固くするには十分だった。
窓を背にして男装の麗人と言った風の金髪の女性が、その斜め向かいに小柄な黒髪の女性、反対側にはダリルと歳が近そうな褐色肌の女性が座っていた。
カーティスとカイルは不在で、そのことが一層、緊張感を強めた。
決してご機嫌取りでおだてているわけではなく、本心だった。
婚約破棄された時も、ネイトだけはダリルの味方でいてくれた。そのことにどれだけ心が救われたことか。
感謝の言葉が心からのものだと伝わったのか、ネイトは尖らせていた唇を若干緩めダリルの方に向き直った。
「本当だよ、僕以上に兄さんのことを思ってる人間はこの世にいないんだからね」
冗談混じりに、しかしどこか誇らしげに言って、ネイトはクッキーをひとつ摘み口に運んだ。
「まぁ、ハウエル侯爵が本当に真面目で紳士的な人かどうかは晩餐会で僕がこの目でしっかり確かめるよ。たとえ一年の契約結婚とはいえ、いや、一年の契約結婚だからこそ、兄さんを少しでも邪な目で見るようなことがあれば即刻連れて帰る」
「お、穏便に頼むよ……?」
グッと拳を握り使命感に燃えるように言うネイトに、一抹の不安を抱きつつも、とりあえず契約結婚自体については反対されずにすんだことにホッと胸をなでおろした。
****
契約結婚の詳細について話した後は、会えなかった時間を埋めるように積もる話を交わしていたが、しばらくするとローマンが晩餐の準備ができたことと、カーティス側の親族――アドレイドとレイラ――も揃ったことを伝えに来た。
その報せを聞いて、ダリルは慌てた。
良好な人間関係を築くには第一印象が肝心だ。だからしっかりと出迎えようと思っていたのに、ネイトとの会話が弾みすっかり失念していた。
出だしからつまずいてしまったと気落ちするダリルだったが、アドレイドとレイラの来訪を報せなかったのは、久しぶりに兄弟水入らずで話している二人の邪魔をしては悪いだろうというカーティスの気遣いによるものだった。
「カーティス様もお二人と色々とお話があったようですし、気にすることはございませんよ。では、広間までご案内いたします」
優しく微笑むローマンにそう言われ、幾分気が楽になったもののやはり緊張は拭えない。
「緊張する……」
ローマンの後ろに続きながら胸元を押さえ溜め息を吐くと、隣を歩くネイトがぎゅっと手を握ってきた。
「大丈夫だよ。もし兄さんを少しでも不快にすることを言ったら僕が言い返してあげるよ」
真っ直ぐ目を見つめネイトが力強く微笑む。その物言いと笑みはどこかカイルに似ており、ダリルはくすりと笑った。
「ありがとう。頼りにしてるよ」
答えながら、ネイトとカイルは案外似た者同士で仲良くやれるのではないかと、微笑ましい気持ちが胸を温める。それは緊張で強張った鼓動を少し和らげてくれた。
ダリルとネイトが広間に入ると、すぐさま視線が二人に、特にダリルの方へと集まった。
値踏みするような不躾なものではなく、音がした方を振り返る反射的な反応といった感じではあったが、それでもダリルの身を固くするには十分だった。
窓を背にして男装の麗人と言った風の金髪の女性が、その斜め向かいに小柄な黒髪の女性、反対側にはダリルと歳が近そうな褐色肌の女性が座っていた。
カーティスとカイルは不在で、そのことが一層、緊張感を強めた。
324
お気に入りに追加
7,005
あなたにおすすめの小説

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。