役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

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お、穏便に頼むよ……?

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「ネイト、いつも色々と心配してくれてありがとう。こんなにも俺のことを気にかけてくれるのはネイトだけだよ。本当に感謝してる。こんなにも頼もしい弟がいて、俺は誇らしいよ」

 決してご機嫌取りでおだてているわけではなく、本心だった。
 婚約破棄された時も、ネイトだけはダリルの味方でいてくれた。そのことにどれだけ心が救われたことか。
 感謝の言葉が心からのものだと伝わったのか、ネイトは尖らせていた唇を若干緩めダリルの方に向き直った。

「本当だよ、僕以上に兄さんのことを思ってる人間はこの世にいないんだからね」

 冗談混じりに、しかしどこか誇らしげに言って、ネイトはクッキーをひとつ摘み口に運んだ。

「まぁ、ハウエル侯爵が本当に真面目で紳士的な人かどうかは晩餐会で僕がこの目でしっかり確かめるよ。たとえ一年の契約結婚とはいえ、いや、一年の契約結婚だからこそ、兄さんを少しでも邪な目で見るようなことがあれば即刻連れて帰る」
「お、穏便に頼むよ……?」

 グッと拳を握り使命感に燃えるように言うネイトに、一抹の不安を抱きつつも、とりあえず契約結婚自体については反対されずにすんだことにホッと胸をなでおろした。

 ****

 契約結婚の詳細について話した後は、会えなかった時間を埋めるように積もる話を交わしていたが、しばらくするとローマンが晩餐の準備ができたことと、カーティス側の親族――アドレイドとレイラ――も揃ったことを伝えに来た。
 その報せを聞いて、ダリルは慌てた。
 良好な人間関係を築くには第一印象が肝心だ。だからしっかりと出迎えようと思っていたのに、ネイトとの会話が弾みすっかり失念していた。
 出だしからつまずいてしまったと気落ちするダリルだったが、アドレイドとレイラの来訪を報せなかったのは、久しぶりに兄弟水入らずで話している二人の邪魔をしては悪いだろうというカーティスの気遣いによるものだった。

「カーティス様もお二人と色々とお話があったようですし、気にすることはございませんよ。では、広間までご案内いたします」

 優しく微笑むローマンにそう言われ、幾分気が楽になったもののやはり緊張は拭えない。

「緊張する……」

 ローマンの後ろに続きながら胸元を押さえ溜め息を吐くと、隣を歩くネイトがぎゅっと手を握ってきた。

「大丈夫だよ。もし兄さんを少しでも不快にすることを言ったら僕が言い返してあげるよ」

 真っ直ぐ目を見つめネイトが力強く微笑む。その物言いと笑みはどこかカイルに似ており、ダリルはくすりと笑った。

「ありがとう。頼りにしてるよ」

 答えながら、ネイトとカイルは案外似た者同士で仲良くやれるのではないかと、微笑ましい気持ちが胸を温める。それは緊張で強張った鼓動を少し和らげてくれた。



 ダリルとネイトが広間に入ると、すぐさま視線が二人に、特にダリルの方へと集まった。
 値踏みするような不躾なものではなく、音がした方を振り返る反射的な反応といった感じではあったが、それでもダリルの身を固くするには十分だった。
 窓を背にして男装の麗人と言った風の金髪の女性が、その斜め向かいに小柄な黒髪の女性、反対側にはダリルと歳が近そうな褐色肌の女性が座っていた。
 カーティスとカイルは不在で、そのことが一層、緊張感を強めた。
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