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聞きたいことが山のようにあるからね
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優しい微笑みを浮かべ、柔らかさを含んだ敬語で挨拶すると、カイルは一度恥ずかしそうに目を逸らしたが、次には背筋を伸ばし真っ直ぐ向き直った。
「カイル・ハウエルです。このたびはお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。今日はゆっくりしていってください」
流暢に大人顔負けの挨拶をして手を差し出すカイルに、ネイトは目を見開いたが、すぐに相好を崩しその手を握った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてゆっくりさせていただきます。ふふっ、本当に兄さんの言う通り賢くてしっかりしてる」
ネイトが顔を上げダリルに笑いかけると、
「――すまない。出迎えが遅くなってしまった」
声の方を振り返ると遅れてやって来たカーティスがすぐ後ろに立っていた。
ネイトの表情に微かに緊張が帯びる。
しかしそれも一瞬のことで、スッと立ち上がると品のある秀麗な笑みを浮かべた。
「とんでもございません。この度はお招きいただき誠にありがとうございます。お初にお目にかかります。私、ネイト・コッドと申します。以後お見知りおきを」
胸に手を当て礼儀正しく挨拶するネイトに、ダリルはホッと胸をなでおろした。
恐らくダリルの突然の結婚を快く思っていないだろうネイトが、とりあえず表面上は取り繕ってくれていることにひとまず安心した。
「こちらこそよろしく。今日はわざわざ足を運んで来てくれてありがとう。本来ならば私がコッド家に出向いて挨拶すべきところだというのに、申し訳ない」
無表情だが柔和な物言いで穏やかな印象を受ける挨拶に、ネイトは少し面食らったような顔をした。
ハウエル公爵家は呪われているという世間の噂から受けるイメージと随分違うためだろう。
しかしすぐに「いえ、とんでもございません」と微笑んで返した。
「兄と両親の関係を考慮してくださったのでしょう。むしろ私としてはこの方が有り難いです。そうでなければ兄とゆっくり話すこともできませんからね」
「そう言ってくれるならよかった。晩餐会までまだ時間がある。せっかくだから、二人でゆっくり話すといい。カイル、こっちへきなさい」
カーティスが視線で手招きしてカイルを呼ぶ。
ダリルと離れるのが嫌なのか、一瞬、返事に詰まったがすぐに「はい、わかりました」と言ってカーティスのもとへ駆けて行った。
「もし話が早く終わったら僕の部屋に来てね」
一度振り返り名残惜しそうな顔でそう言うと、カイルはカーティスと共に屋敷の中に入った。
「じゃあ俺たちも中でゆっくり話そうか」
ダリルが振り返ってそう言うと、ネイトがにこりと微笑んだ。
「そうだね。二人になれるところでゆっくり話そう。聞きたいことが山のようにあるからね」
まるで笑いながら怒っている人間のような表情に圧を感じ、ダリルは少し怯んだ。
(なんか嫌な予感が……)
そして、その予感は的中した。
ダリルの部屋に入るやいなや、カーティスとの結婚について矢継ぎ早に質問してきた。
使用人がお茶を運んできた時だけその口を一度閉じたが、使用人が出ると同時にまた尋問じみた質問攻めを再開した。
いつも冷静なネイトにしては珍しく興奮気味で、こちらが質問の答えに対して補足を入れる前にすぐ次の質問をしてくるのでなかなか本題に入ることができなかった。
なのでダリルは一旦ネイトを待たせ、カーティスと交わした契約書を見せながら順を追って説明していった。
「――つまり、一年だけの契約結婚で、そこに愛はないんだね」
「カイル・ハウエルです。このたびはお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。今日はゆっくりしていってください」
流暢に大人顔負けの挨拶をして手を差し出すカイルに、ネイトは目を見開いたが、すぐに相好を崩しその手を握った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてゆっくりさせていただきます。ふふっ、本当に兄さんの言う通り賢くてしっかりしてる」
ネイトが顔を上げダリルに笑いかけると、
「――すまない。出迎えが遅くなってしまった」
声の方を振り返ると遅れてやって来たカーティスがすぐ後ろに立っていた。
ネイトの表情に微かに緊張が帯びる。
しかしそれも一瞬のことで、スッと立ち上がると品のある秀麗な笑みを浮かべた。
「とんでもございません。この度はお招きいただき誠にありがとうございます。お初にお目にかかります。私、ネイト・コッドと申します。以後お見知りおきを」
胸に手を当て礼儀正しく挨拶するネイトに、ダリルはホッと胸をなでおろした。
恐らくダリルの突然の結婚を快く思っていないだろうネイトが、とりあえず表面上は取り繕ってくれていることにひとまず安心した。
「こちらこそよろしく。今日はわざわざ足を運んで来てくれてありがとう。本来ならば私がコッド家に出向いて挨拶すべきところだというのに、申し訳ない」
無表情だが柔和な物言いで穏やかな印象を受ける挨拶に、ネイトは少し面食らったような顔をした。
ハウエル公爵家は呪われているという世間の噂から受けるイメージと随分違うためだろう。
しかしすぐに「いえ、とんでもございません」と微笑んで返した。
「兄と両親の関係を考慮してくださったのでしょう。むしろ私としてはこの方が有り難いです。そうでなければ兄とゆっくり話すこともできませんからね」
「そう言ってくれるならよかった。晩餐会までまだ時間がある。せっかくだから、二人でゆっくり話すといい。カイル、こっちへきなさい」
カーティスが視線で手招きしてカイルを呼ぶ。
ダリルと離れるのが嫌なのか、一瞬、返事に詰まったがすぐに「はい、わかりました」と言ってカーティスのもとへ駆けて行った。
「もし話が早く終わったら僕の部屋に来てね」
一度振り返り名残惜しそうな顔でそう言うと、カイルはカーティスと共に屋敷の中に入った。
「じゃあ俺たちも中でゆっくり話そうか」
ダリルが振り返ってそう言うと、ネイトがにこりと微笑んだ。
「そうだね。二人になれるところでゆっくり話そう。聞きたいことが山のようにあるからね」
まるで笑いながら怒っている人間のような表情に圧を感じ、ダリルは少し怯んだ。
(なんか嫌な予感が……)
そして、その予感は的中した。
ダリルの部屋に入るやいなや、カーティスとの結婚について矢継ぎ早に質問してきた。
使用人がお茶を運んできた時だけその口を一度閉じたが、使用人が出ると同時にまた尋問じみた質問攻めを再開した。
いつも冷静なネイトにしては珍しく興奮気味で、こちらが質問の答えに対して補足を入れる前にすぐ次の質問をしてくるのでなかなか本題に入ることができなかった。
なのでダリルは一旦ネイトを待たせ、カーティスと交わした契約書を見せながら順を追って説明していった。
「――つまり、一年だけの契約結婚で、そこに愛はないんだね」
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