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いつも兄がお世話になっています
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「もし弟さんが結婚に対して何か言うようなら僕を呼んで。僕のわがままだって説明するから。いたいけな子どもが切々と訴えれば反対しようがないだろう?」
カイルが悪戯っぽく唇の端をニッと持ち上げる。
いたいけな子どもというにはあまりに狡猾さが滲み出たその悪い笑みに、思わず小さく吹き出した。
「確かにいたいけな子どもの言うことなら反対できないだろうな」
「そういうこと。それじゃあ、心配事もなくなったしもう少しゆっくり寝よう」
そう言って話を切り上げると、カイルはまるで抱き枕にするようにダリルの腰に抱きついてきた。
ダリルがカーティスと再婚し義母の立場になってから、カイルは目に見えて甘えることが増えた。
特に二人きりになるとそれは顕著で、体のどこかが触れていないと不安だとばかりに、体をぴとりとくっつけてきたり、指を絡めてきたりする。
その表情は穏やかで、満ち足りた心が見えてくるようだった。
ダリルはその表情を見る度に微笑ましい気持ちで胸がいっぱいになり、この仮初の母親役を引き受けてよかったと心から思った。
(きっと、今までずっと寂しかったんだろうな……)
早くも二度寝に入り、すぅすぅと可愛い寝息を立てるカイルの頭をそっと撫でる。
考えてみれば、母親を早くに亡くした上に、顔にできた痣のせいで周囲の人間に忌避され、父親にも疎まれているのだと思い込んでいたのだ。
本来ならば両親の溢れんばかりの愛で満たされる時期に、そのような冷たい孤独に苛まれなければならなかったカイルを思うと胸が痛んだ。
出会った当初の妙に大人びた言動も、自分で自分を守るために身につけざるを得なかった孤独な子どもの処世術だったのかもしれない。
だからこそ、そんな悲しい処世術を捨て、何も案ずることなく心のままに大人の胸に飛び込み、その腕の中で安らかな表情を浮かべるカイルを見ると、たまらなく嬉しくなった。
悪役令息の役目はもう二度とはしたくないが、こういう役目なら何度だって引き受けたいと思うくらいだ。
ダリルはおもむろにカイルの髪を撫でていた手をそっと頬の痣に移した。
(今まで一人でがんばってきた分、いっぱい甘えさせてあげよう)
誓いを立てるように胸の中で呟きながら頬を撫でると、ダリルもカイルの眠りに寄り添うようにそっと目を閉じた。
****
夕刻より少し前、一台の馬車が屋敷の前に止まった。
馬車から降りてきた青年の後ろでなびく相変わらず美しいその黒髪に、思わずダリルは目を細めた。
「いらっしゃい、ネイト。久しぶりだね」
「……っ、兄さん!」
ダリルの姿を認めた途端、ネイトの瞳がパッと輝いた。そしてその胸に飛び込まん勢いで抱きついてきた。
これにはダリルについてきて隣に並んでいたカイルも目を丸くして驚いていた。
「ちょ、ちょっと苦しい、苦しいよ」
ネイトの感激っぷりに苦笑しながら、力の加減をたしなめるようにその腕をぽんぽんと軽く叩いた。
慌ててネイトが体を離した。
「ごめんごめん。久しぶりに兄さんに会えた喜びが溢れ出てつい……。あ、もしかしてその子がハウエル公爵のご子息の?」
柔らかに苦笑して謝るネイトが、ようやく隣のカイルに気づいた。
「うん、そうだよ。とても賢くてしっかりしていていい子なんだ」
ダリルが優しく肩に手を置き紹介すると、ネイトは膝をついてカイルに目線を合わせた。
「初めまして。ダリルの弟のネイト・コッドです。いつも兄がお世話になっています」
カイルが悪戯っぽく唇の端をニッと持ち上げる。
いたいけな子どもというにはあまりに狡猾さが滲み出たその悪い笑みに、思わず小さく吹き出した。
「確かにいたいけな子どもの言うことなら反対できないだろうな」
「そういうこと。それじゃあ、心配事もなくなったしもう少しゆっくり寝よう」
そう言って話を切り上げると、カイルはまるで抱き枕にするようにダリルの腰に抱きついてきた。
ダリルがカーティスと再婚し義母の立場になってから、カイルは目に見えて甘えることが増えた。
特に二人きりになるとそれは顕著で、体のどこかが触れていないと不安だとばかりに、体をぴとりとくっつけてきたり、指を絡めてきたりする。
その表情は穏やかで、満ち足りた心が見えてくるようだった。
ダリルはその表情を見る度に微笑ましい気持ちで胸がいっぱいになり、この仮初の母親役を引き受けてよかったと心から思った。
(きっと、今までずっと寂しかったんだろうな……)
早くも二度寝に入り、すぅすぅと可愛い寝息を立てるカイルの頭をそっと撫でる。
考えてみれば、母親を早くに亡くした上に、顔にできた痣のせいで周囲の人間に忌避され、父親にも疎まれているのだと思い込んでいたのだ。
本来ならば両親の溢れんばかりの愛で満たされる時期に、そのような冷たい孤独に苛まれなければならなかったカイルを思うと胸が痛んだ。
出会った当初の妙に大人びた言動も、自分で自分を守るために身につけざるを得なかった孤独な子どもの処世術だったのかもしれない。
だからこそ、そんな悲しい処世術を捨て、何も案ずることなく心のままに大人の胸に飛び込み、その腕の中で安らかな表情を浮かべるカイルを見ると、たまらなく嬉しくなった。
悪役令息の役目はもう二度とはしたくないが、こういう役目なら何度だって引き受けたいと思うくらいだ。
ダリルはおもむろにカイルの髪を撫でていた手をそっと頬の痣に移した。
(今まで一人でがんばってきた分、いっぱい甘えさせてあげよう)
誓いを立てるように胸の中で呟きながら頬を撫でると、ダリルもカイルの眠りに寄り添うようにそっと目を閉じた。
****
夕刻より少し前、一台の馬車が屋敷の前に止まった。
馬車から降りてきた青年の後ろでなびく相変わらず美しいその黒髪に、思わずダリルは目を細めた。
「いらっしゃい、ネイト。久しぶりだね」
「……っ、兄さん!」
ダリルの姿を認めた途端、ネイトの瞳がパッと輝いた。そしてその胸に飛び込まん勢いで抱きついてきた。
これにはダリルについてきて隣に並んでいたカイルも目を丸くして驚いていた。
「ちょ、ちょっと苦しい、苦しいよ」
ネイトの感激っぷりに苦笑しながら、力の加減をたしなめるようにその腕をぽんぽんと軽く叩いた。
慌ててネイトが体を離した。
「ごめんごめん。久しぶりに兄さんに会えた喜びが溢れ出てつい……。あ、もしかしてその子がハウエル公爵のご子息の?」
柔らかに苦笑して謝るネイトが、ようやく隣のカイルに気づいた。
「うん、そうだよ。とても賢くてしっかりしていていい子なんだ」
ダリルが優しく肩に手を置き紹介すると、ネイトは膝をついてカイルに目線を合わせた。
「初めまして。ダリルの弟のネイト・コッドです。いつも兄がお世話になっています」
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