役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)

文字の大きさ
上 下
19 / 86
連載

いつも兄がお世話になっています

しおりを挟む
「もし弟さんが結婚に対して何か言うようなら僕を呼んで。僕のわがままだって説明するから。いたいけな子どもが切々と訴えれば反対しようがないだろう?」

 カイルが悪戯っぽく唇の端をニッと持ち上げる。
 いたいけな子どもというにはあまりに狡猾さが滲み出たその悪い笑みに、思わず小さく吹き出した。

「確かにいたいけな子どもの言うことなら反対できないだろうな」
「そういうこと。それじゃあ、心配事もなくなったしもう少しゆっくり寝よう」

 そう言って話を切り上げると、カイルはまるで抱き枕にするようにダリルの腰に抱きついてきた。
 ダリルがカーティスと再婚し義母の立場になってから、カイルは目に見えて甘えることが増えた。
 特に二人きりになるとそれは顕著で、体のどこかが触れていないと不安だとばかりに、体をぴとりとくっつけてきたり、指を絡めてきたりする。
 その表情は穏やかで、満ち足りた心が見えてくるようだった。
 ダリルはその表情を見る度に微笑ましい気持ちで胸がいっぱいになり、この仮初の母親役を引き受けてよかったと心から思った。

(きっと、今までずっと寂しかったんだろうな……)

 早くも二度寝に入り、すぅすぅと可愛い寝息を立てるカイルの頭をそっと撫でる。
 考えてみれば、母親を早くに亡くした上に、顔にできた痣のせいで周囲の人間に忌避され、父親にも疎まれているのだと思い込んでいたのだ。
 本来ならば両親の溢れんばかりの愛で満たされる時期に、そのような冷たい孤独に苛まれなければならなかったカイルを思うと胸が痛んだ。
 出会った当初の妙に大人びた言動も、自分で自分を守るために身につけざるを得なかった孤独な子どもの処世術だったのかもしれない。
 だからこそ、そんな悲しい処世術を捨て、何も案ずることなく心のままに大人の胸に飛び込み、その腕の中で安らかな表情を浮かべるカイルを見ると、たまらなく嬉しくなった。
 悪役令息の役目はもう二度とはしたくないが、こういう役目なら何度だって引き受けたいと思うくらいだ。
 ダリルはおもむろにカイルの髪を撫でていた手をそっと頬の痣に移した。

(今まで一人でがんばってきた分、いっぱい甘えさせてあげよう)

 誓いを立てるように胸の中で呟きながら頬を撫でると、ダリルもカイルの眠りに寄り添うようにそっと目を閉じた。

 ****

 夕刻より少し前、一台の馬車が屋敷の前に止まった。
 馬車から降りてきた青年の後ろでなびく相変わらず美しいその黒髪に、思わずダリルは目を細めた。
 
「いらっしゃい、ネイト。久しぶりだね」
「……っ、兄さん!」

 ダリルの姿を認めた途端、ネイトの瞳がパッと輝いた。そしてその胸に飛び込まん勢いで抱きついてきた。
 これにはダリルについてきて隣に並んでいたカイルも目を丸くして驚いていた。

「ちょ、ちょっと苦しい、苦しいよ」

 ネイトの感激っぷりに苦笑しながら、力の加減をたしなめるようにその腕をぽんぽんと軽く叩いた。
 慌ててネイトが体を離した。

「ごめんごめん。久しぶりに兄さんに会えた喜びが溢れ出てつい……。あ、もしかしてその子がハウエル公爵のご子息の?」

 柔らかに苦笑して謝るネイトが、ようやく隣のカイルに気づいた。
 
「うん、そうだよ。とても賢くてしっかりしていていい子なんだ」

 ダリルが優しく肩に手を置き紹介すると、ネイトは膝をついてカイルに目線を合わせた。

「初めまして。ダリルの弟のネイト・コッドです。いつも兄がお世話になっています」
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

嵌められた悪役令息の行く末は、

珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】 公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。 一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。 「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。 帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。 【タンザナイト王国編】完結 【アレクサンドライト帝国編】完結 【精霊使い編】連載中 ※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。