35歳からの楽しいホストクラブ

第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶！？

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「そ、そうですよ、僕の着替えなんて頼まれても撮りませんよ！　それに別に見られて困るものじゃないですし大丈夫ですよ」

　両手をぶんぶんと振ってそう言うと、桜季さんが軽く目を丸くした。

「あれぇ？　彼シャツの次は萌え袖ぇ？　可愛いねぇ、おれそういうの好きだよぉ」
「あ……！」

　だぼだぼになっている袖口を指差しながら言う桜季さんの言葉に、自分の情けない現状を思い出した。

「ふふふ～、なんかあれみたいだねぇ。中学生の子がもうすぐ成長期だからってお母さんに少し大きめの制服買わされちゃった子みたい～」

　微笑ましそうに目を細められてしまい、まさかこれが高級スーツだとは口が裂けても言えなかった。

「なんかごめん、サイズ合ってなくて。一応小さめのサイズを選んだつもりだったんだけど……」

　申し訳なさと憐れみを込めて蓮さんに謝られてしまい、さらに情けない気持ちが倍増した。

「い、いえ、僕の手が短いだけですから。典型的な日本人体型なもので……、はは、は」

　自虐的に笑いながら言いつつも、蓮さんも同じ日本人だということに気付くとなんだかやるせない気持ちになった。
　この分では恐らく脚の長さも足りずズボンの裾を引くことになるだろう。

「え～、これレンコンのプレゼントなのぉ？」
「あ、はい、この間のお礼にと頂きました」
「へぇ～……」

　僕の答えを聞いて桜季さんが何やらよくないことを企んでいる目をしてにやにやと蓮さんの方に向いた。

「なんだよ」
「べつに～。ただ服をプレゼントなんてレンコンはむっつりさんだなぁと思ってぇ」
「はぁ？」

　至極不可解とでもいうように蓮さんが顔を顰めた。
　その反応を面白がるように桜季さんの笑みがさらに深まった。

「だって男が服を贈る意味って、その服を着た君を脱がせたい、だよぉ」

　どこか艶めいた声で言う桜季さんの言葉に僕も、蓮さんも目を丸くした。

「ふふふ～、レンコンってばスケベなんだからぁ」
「し、知らねぇよ！　そんな意味っ」

　蓮さんが勢いよく立ち上がって否定した。その顔は真っ赤でひどく動揺しているようだった。
　確かにからかわれているとはいえ、僕のような相手にそんな意味の贈り物をしたと誤解されるのは、ナンバーワンホストのプライドが許さないのかもしれない。

「ふふふ～、でもサイズ間違えるのはないでしょぉ。おれは自慢じゃないけど目視で相手のスリーサイズ分かるよぉ」
「本当に自慢じゃねぇな！」
「え、えっと、とりあえずこのスーツは裾上げ諸々をしてまた着させて頂きますね……」

　言い合いがヒートアップする二人におずおずと言って、僕は元のスーツに着替えた。

　やっぱり安いスーツが落ち着く……。

　安物の着心地に愛しさを覚えながら、ほっと溜め息を吐いた。


　その後、僕ら三人は厨房でメロンを食べた。
　そこでも蓮さんと桜季さんは喧嘩とまではいかない――桜季さんは完全に蓮さんの反応を楽しんでいる、軽い口論が繰り広げられた。
　最初は間に入って何とか空気を緩和させようとしたけれど、段々漫才のような掛け合いにも聞こえてきて微笑ましい気持ちになったのは、本気で桜季さんに苛立っている蓮さんには絶対に言えなかった……。