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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

おまけ①

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 蘭香ちゃんとの一件があった数日後、いつものようにまだ誰も出勤していない更衣室で着替えていると、高級感のあるシックなデザインの紙袋を持った蓮さんがやって来た。
 数日前に家にお邪魔したばかりだというのにすごく久しぶりに感じた。人気ホストの蓮さんとは店で顔を見ることはあっても言葉を交わすことは滅多にないからかもしれない。
 
「あ、お疲れ様です。この間はどうもお世話になりました」
「いや、それはこっちの言葉だし……」

 そう言うとつかつかと靴を慣らして僕の前まで来た。
 なんだろう、と首を傾げていると、

「これやる」

 持っていた紙袋をぶっきらぼうに差し出された。

「え?」

 驚いて蓮さんと紙袋を交互に見る。
 紙袋は両手で抱えられるほどの大きさで、表面にはブランド名らしき外国語が書かれている。
 中には紙袋と同様、丈夫で高級感のある箱が入ってあった。

「これ高そうですけど、本当に頂いていいんですか?」

 ブランドものをよく知らない僕でもそれが高級品であることは火を見るより明らかだ。
 思わず確認してしまう僕に、蓮さんは苦笑した。

「やるって言ってんじゃん。ここでやっぱりやらないとか言うわけないだろ。この間の礼だ」
「で、でもそのお礼はこの間焼き肉を奢って頂きましたし……」
「あれはあれ。……当日にイレギュラーなことがいっぱいあったからな」

 確かにイレギュラーなことがたくさんあって戸惑ったけれど、それに対して僕が何か対処したわけでもないので、何だか申し訳ない。
 あの日の僕の言動がこの高級品と見合うとはとても思えなかった。
 けれどお礼の品を拒むのも失礼な気がしてまごついていると、蓮さんが溜め息を吐いた。

「というか、受け取ってくれねぇと困るんだけど。お前のサイズで買ったから返されても使いようがない」
「う……」

 そう言われては貰うより他ない。
 自分には分不相応な感じは否めないけれど有り難く頂くことにした。

「では有り難く頂戴致します」
「別にそんな大したもんじゃねぇから」

 サラリーマン時代の癖で恭しく両手で受け取る僕に蓮さんは苦笑した。

「あの、開けてもいいですか?」

 自分には分不相応な品と恐縮しつつも、やっぱり贈り物というものはいくつになっても嬉しいものだ。知らず声が弾む。

「別にお前のものなんだから好きな時に開けろよ」

 更衣室の中央にあるソファに腰掛けながら蓮さんが答えた。

「ありがとうございます! では開けさせてもらいます」

 蓮さんの隣に腰を下ろして包装を開いていく。
 包装の仕方があまりにもきれいだったので、破かないよう慎重にテープを剥いでいると、蓮さんがくつくつと喉の奥で笑った。

「ど、どうしました? 何か無作法なことしましたか?」
「いや、むしろ逆。丁寧すぎだろ。普通に破けばいいのに」
「だってこんなにきれいな紙ですよ! 捨てるのはもったいないですよ。何か再利用できそうじゃないですか」
「ふはっ、お前ってなんかばぁちゃんっぽいよな」

 よほど僕の言動がツボに入ったのか肩を震わせて蓮さんはお腹を抱えて笑った。
 正直なところ、僕の言動のどこに面白さを感じたかは分からないけれど、蓮さんに笑ってもらえるのは純粋に嬉しかった。
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